昭和38年

年次世界経済報告

昭和38年12月13日

経済企画庁


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第2部 各  論

第4章 国際商品の動き

2. 暴騰した砂糖相場と主要国の砂糖政策

(1) 引続く生産の減少

砂糖相場のあしどりについてはすでに前項でのべた。最近の世界の生産と消費を対比すると第4-1表のごとく,生産は61/62年度,62/63年度(いずれも10月始~9月了)と引続き減少し,両年とも消費量に及ばなかった。作物別にみると,62/63年度の生産量は豊作だった60/61年度と比べて,甘しゃはキューバの減少がきわめて大きく600万トン台から300万トン台へとほぼ半減した。ただし,他の地域の甘しャ生産が伸びたため,甘しゃ全体としては202万トンの減少となっている。他方,てん菜は2年続きの不作から260万トンと甘しゃを上回る減少を示した。

第4-2図 ロイター商品相場指数

ところで世界の砂糖生産を地域別にみると,ソ連,東欧を含む欧米が43%とほぼ世界の大半をしめている(第4-3図)。しかし,このような先進国の砂糖生産は国内生産者価格の支持,輸入障壁という保護政策によってはじめて可能となっているのであって,たとえば,ティンバーゲン教授等の分析のように,もし輸入障壁がなくなれば先進国の砂糖生産は100%壊滅するだろうとみる向きもある(“Shaping the World Economy”1962)。最近,各種の国際会議で,一次産品貿易の拡大策に関連して,先進国の農業保護政策が批判,検討の対象となっているが,以下に,砂糖をめぐる主要国の政策と最近の糖価上昇による影響について検討してみよう。

(2) 各国の砂糖政策

(a)西ドイツ・イタリア

ヨーロッパ大陸,とくに旧植民地の砂糖生産者と密接な関係のない西ドイツ,イタリアでは,国内てん菜の生産者価格支持,輸入に対する厳重な制限によって完全自給策をとっている。西ドイツについてみると,政府が生産者販売価格を法定し,精糖業者はこの価格で原料手当を行なうよう義務づけられている。

他方輸入糖は通常,全消費量の5%(1959~61年平均)にすぎないが,すべて国際相場を基準として輸入業者から政府が買上げたうえ,国産糖価を基準として精糖業者に売却される。

したがって通常内外糖価の差によって生ずる差益はすべて政府の手に帰し,かつ,このような厳重な管理貿易の結果,関税はその必要がなく,停止されているのが現状である。またイタリアの場合も国内生産者価格の支持と高率関税(精,粗糖とも97.5%)による保護を行なっており,近年ほぼ自給が可能となっている。

(b)イギリス

イギリスおよび後にのべるアメリカの砂糖政策は,たんに国内生産者を保護するだけでなく,連邦諸国,外交上密接な関係のある国の生産者,これらの国に対して進出している自国資本の保護をも行なうため,独伊等に比べて複雑なかたちをとっている。まずイギリスについてみると,国内てん菜については,砂糖公社が毎年,政府の決定する一定価格で生産者から買入れ,その製品(てん菜糖)を一般市場価格で販売する。他方,英連邦諸国の生産者からの輸入については,砂糖庁が,英連邦砂糖協定により一定数量を一定価格で買付け,国際価格で精糖業者または輸入業者に売却する。

ところで,上記の協定価格は通常,国際相場よりも割高に設定されているため(第4-4図)砂糖庁に赤字を生ずる。砂糖公社のばあいも,通常,製品販売価格(市場価格―国内流通量の約7割を占る輸入糖に左右されるところが大きい)に比して,てん菜買入価格が割高なためやはり損失を生ずる。したがって,これらの損失を補填するため,政府は精糖業者出荷のさい付加税を徴収しこれを赤字補填の財源にあてることにしている。ただし,国際糖価が異常に値上りしたときには,逆に政府に剰余金を生ずるので,このばあいは付加税納付者に対し還付することになっている。

以上のような政府の操作を通じて国内に供給される砂糖は,1961年実績でみると,イギリス砂糖消費の8割(国内生産3割強,英連邦協定4割強)に達しており,自由市場で買われたのは残りの2割にすぎない。

(C)アメリカ

アメリカ合衆国の砂糖政策は砂糖法により国内生産者に対しては作付割当,輸入に対しては相手国別の数量割当制をとっている。すなわち,政府は毎年米本土における需要を充足するに必要な砂糖の所要量を決定し,これを国内および外交上密接な関係のある海外生産者に割当てる。その基礎となる数量(基礎割当量)は法律によって年間970万ショートトンと定められ,これをハワイ,プエルトリコ,バージン等を含む米本土へ59.9形,海外諸国40.1%の比率で割当でる。基礎割当と現実の所要量との差額分については国内と海外に65対35%の比率で割当てる。そして,この割当数量を基礎に,国内の作付面積が規制され,また,海外に対する割当量が国別に細かくわけられる。このようにして内外の供給源からアメリカ本土向けに集められる砂糖は,7号約定(甘しゃ),および9号約定(てん菜)ものとしてニューヨーク・コーヒー・砂糖取引所に上場されるが,これらの相場は,上記の諸政策により供給量が制約されているため,通常,供給過剰気味にある国際相場(8号約定)より高い水準にあり(第4-4図),したがって輸入割当をうけた海外諸国は,国際相場で売る場合に比し,差益を享受することになる。ただし,1962年の新法はこの差益に10%の課徴金(inport fee)を課し,年々これをひきあげることとした。つぎにキューバに対する措置をみると,従来アメリカは対フィリッピン分を除く海外割当の96%,約320万トンをキューバに割当ててきた。1960年7月の輸入禁止措置以後,この分は一時的に他の国々に割当てられてきたが,今回の新法は,その半分を従来からの供給国,および13の新規供給国に正式に割当て,残り半分をキューバのために留保した。ただし,実際上このキューバ割当分は国交回復までは国際相場によるグローバル買付けとなり,したがってまた,通常の事態では価格差益を生ずるが,この分は新法により,全額課徴金として徴収せられることとなっている。

(3) 砂糖相場高騰の影響

最後に,今回の砂糖相場が,先進国および一次産品輸出国に及ぼした影響はどうであろうか。一次産品国の輸出額については最近のデータに乏しいが,大減産となったキューバ以外の国々が利益をえたことは確かである。しかしアメリカ向け砂糖についていえば,従来から特恵価格で売っていた国々にとっての値上り率は国際相場のそれよりも小さいし,また,英連邦協定のように固定価格による輸出があることなどを考えれば,過大評価することはできない。IMF統計によって63年上半期の中国(台湾),フィリッピンの砂糖出額を示せば第4-2表とおりで,いずれも,前年を上回る収入を得ているが,しかし,対米輸出の大きいフィリッピンの値上り率は,中国(台湾)に比して小さい(第4-2表)。

つぎに,先進消費国への影響はどうか。国内てん菜の不作,国際相場の上昇により,国内糖価もかなり上昇をみせている(第4-5図)。けれども,①先進国の国内糖価はもともと高い水準に支持されており,②完全自給策.をとっている国では不足分を輸入するとしても,その量は限られていること,③イギリスのように協定価格で輸入している国があることなどのため,国内糖価の上昇は国際相場に示されるような極端なものではない。

第4-6図 砂糖価格の騰貴率の比較

しかし,日本のように国内自給率が低く,自由市場から大量に買付けている国は,国際収支と国内物価の面でかなりの影響をうけたものと思われる。

1962年の日本の粗糖輸入量1,375.5千メートルトンは絶対量において,米,英,ソ連を下回るとはいえ,自由市場では最大の買手国の一つとなっている。

いま,国際相場の上昇に対して欧米主要国がとった措置をみると,イギリスでは砂糖庁の売却価格が輸入価格を上回り,剰余金を生ずる事態となったので,前述の還付金制度を活用し,糖価の安定につとめており,アメリカでは輸入課徴金を停止すると同時に64年の国内ビートの作付制限を停止して増産につとめることとした。またヨーロッパではEECの対外砂糖関税停止措置がとられている。