昭和38年
年次世界経済報告
昭和38年12月13日
経済企画庁
第2部 各 論
第1章 アメリカ
63年7月ケネディ大統領は新ドル防衛対策を発表した。前回のドル防衛策,は60年秋アイゼンハワー大統領によって発表され,国際収支の改善に資するところがあったが,1の(2)に述べたように,62年第4・四期以来国際収支が再び悪化する傾向をみせたので,前政府の方針をさらに強化することになった。強化された要点は,①公定歩合の引上げ,②長期民間資本の流出阻止,③IMFスタンドバイ取り決め,④海上運賃格差の是正であった。
1)公定歩合の引上げ前回のドル防衛策では景気局面の関係からアメリカの公定歩合を引上げるわけにはゆかなかったので,西欧主要国の公定歩合引下げを要請したのであったが,今回は3%から3.5%に引上げ同時に定期預金の最高金利を3.5%から4%へ引上げた。こうした措置のねらいは主として短期資金の流出防止,できれば国外からの短資流入促進にあった。
2)金利平衡税の新設これは2年を期限とする長期民間資本の流出阻止対策であって,外国人がアメリカで株式,社債を発行する時に賦課される。すなわち株式には一律15%,公社債には償還年限によって最高15%課税し,年率にすれば約1%のコスト増となるが,低開発国への借款,商業銀行の輸出借疑,海外民間直接投資は除外される。63年上期の国際収支をみればわかるように,外国の株式,社債を通じる長期資金流出は今回の新ドル防衛措置発表前まではかなりのものであり,さらに増大する気構えさえみせていた時であったから,かなり流出阻止力になると思われるが,これまで最大の長期資金調達国であったカナダが金利平衡税の適用を免がれたため,国際収支対策としての意義がある程度薄らいだ。
なお,長期資本の海外からの輸入を促進し,かつアメリカの在外子会社の現地資本調達の可能性を検討するため63年10月,ファウラー財務次官を委員長として,民間財界人を含む13名の作業部会が結成された。
3)スタンドバイ取り決めIMFとのあいだに5億ドルのスタンドバイ取り決めを結び,必要な場合ドル以外の交換可能通貨を借り入れることにした。
4)海上運賃格差の是正
従来アメリカの輸出貨物運賃は輸入通貨よりも割り高であり,アメリカからの輸出に不利で,輸入に有利になっていたが,この格差を縮小する方針が今回の措置の一つに掲げられた。
その他の新ドル防衛措置はアイゼンハワー時代に考え出されたものと大同小異である。
すなわち
1 海外軍事支出を65年までに5億ドル節約する(内訳は戦略物資調達2億ドル,国防省関係3億ドル)。
2 対外援助の削減,これまで実施されていたバイ・アメリカン措置をさらに強化し,65年までに5億ドル削減する。
上述した諸措置で一応20億ドル以上の削減を予定したが,このほか輸出促進努力の強化,海外観光の抑制などの効果も考えられよう。
1)スワップ取り決め
新ドル防衛策は主としてアメリカ自身の国際収支対策の一つであるが,それに併行して,他国の協力を求める方式もここ両三年来活発に行なわれている。
まずスワップ協定は62年3月フランス銀行と連邦準備制度のあいだに取り決められ,今日までに約15億ドルに達し,とくに今春イングランド銀行とのあいだに行なわれた取り決め額の引上げ(5千万ドルを5億ドルヘ引上げた)はドル,ポンドの相場安定に寄与したと伝えられる。なお別表に掲げたのは63年8月現在の取り決めであるが,このほか日本銀行とのあいだには10月末1億5千万ドルの取り決めが成立,西ドイツその他中央銀行との増額取り決めも行なわれて,63年11月初め現在の総額は20億ドル近い。
スワップ取り決めはもともと1件当り5,000万ドルを基準にしたのであったが,カナダのドル危機,62年の春の株価暴落中の投機圧力などに対処するため,かなり増額され,通貨危機に抵抗する第一の防衛線になっている。しかしスワップ取り決めは本来短期的な投機を目当てにするものであるから,資金の流れが比較的短期間に停止ないし逆転すると期待できる事態に限られる。したがってより長期的な是正策を必要とする時には,中期の政府間信用を利用する必要が指摘されている。
2)国債と特殊証券
62年にイタリアに多額のドルが累積された時,米伊当事者は,イタリアへの資金流入は数ヵ月継続するとみて,スワップ協定によるよりもリラ額面表示の米財務省証券(3ヵ月)を発行して余剰ドルを吸収した。この証券は数回借り換えられ,後に15ヵ月国債に切り換えられた。イタリア側からみれば中期国債を買うことは中央銀行の公的資金を対米投資に向けることになる。こうした中期債はその後西ドイツ,オーストリアでも発行され,いずれも累積した余剰ドルの吸収に使われた。
63年夏,欧米主要中央銀行理事4名がニューヨーク連邦準備銀行月報に発表した共同論文はとくに15~30ヵ月据え置きの中期国債の意義を高く評価し,重ねて,米欧間のスワッブ網が第一線防衛線だとすれば,「第二線防衛となると思われるこの種特殊証券ならびに国債発行の潜在能力を今後慎重に開発するよう勧告したいと思う」と念を押している。
3)金プール
61年おそくになってはじめられた欧米主要中央銀行間の金プール取り決めはロンドン金市場の相場を安定させるに役立った。拠出額は2億7,000万ドルとみられるが,最近の金市場の動きをみると,62年初めから5月まで下押しながらも相場は安定した。この理由はソ連が金を売る一方ではカナダが5月に手持ちの金を売り放したため,金の供給量がふえたことにあった。62年5月になってウォール街の暴落があり,同時にソ連からの金売却も中絶したが,カナダからの金売却は増大した。6月中旬ごろまで金相場は3.5セント上げて,35.105ドルとなり,数週間横ばいのあげく7月中旬には35.14ドルとなった。7月23日ケネディ大統領が金価格変更の意志のないことを声明するに至って相場はやや軟化した。しかし,その後数ヵ月間需要は供給を上回り,不安定な情勢がつづいた。やがてキューバをめぐる不安が金需要を強めたが,ソ連の金売却が再開きれ63年初めまでつづいた。63年1月にはボンベイ金自由市場が事実上消滅し金需要を抑えた。
その後7月,ケネディ大統領の国際収支特別教書発表の前後から金の相場はジリ高をつづけたが,9月になるとソ連の金売却が伝えられて,10月はじめ現在のところ相場は平静を取り戻している。
この動きから明らかなようにこの2年近くのあいだに大きな国際政治経済問題が突発した際も,金相場の変動を比較的小幅に食い止めた一因はこの金プールの操作だとされている。
なお金プールの取り決めを活用して新産金の公的購入を各国間に適当に配分し,各国の保有する金外貨準備に占める金の比率を均衡化したい希望もみられるが,これまでの経験では金準備比率の高い国に抵抗がみられた。
新ドル防衛措置の一つとして重視される輪出の増強は,63年9月中旬ワシントンに開かれた貿易拡大会議における大統領演説からも明らかである。この会議で大統領は,①輸出の10%増加を訴え,②輸出信用保障をさらに強化し,③諸外国における非関税障壁の緩和要請を強化する方針を明らかにした。
これより先ヘラー大統領経済諮問委員長は商務省が強力な輸出振興策を検討中だと言明したが,租税面からの輸出振興も考慮中といわれ,前記の貿易拡大会議の税制委員会も輸出所得の減税を提案している。政府案はまだ確定していないが,基準年度に比較した輸出増加分中一定率を法人税から控除するもののようである。ただこうした制度はガットの規約との関係もあり,世界的な影響も大きいので,今後の動向が注目される。
なお貿易拡大会議の直前ホッジス商務長官は東西の雪どけを契機に共産圏輪出の拡大を説き,この会議の委員会側からもこれに呼応して,対共産圏貿易政策緩和の要請が行なわれている。懸案であった対ソ小麦輸出も大統領の裁可するところとなり,東西貿易政策に多少の動きがみられる。
なお最近の輸出増強対策を概観すればつぎの通り
(1)トレード・センター
ロンドン,バンコック,フランクフルト,東京に現在開設されているが,さらに今冬ミラノに開かれ,その後にベイルート,コペンハーゲン,オーストラリアにも開設されることが予定されている。これによって,これまで輸出市場への進出を希望してきた中小企業を含めて新たに約300商社の便宜をはかることになっている。
(2)貿易使節団の派遣
61年1月いらい1963年夏までに28組の使節団が派遣され,商談の糸口を開拓している。
(3)貿易見本市の開催
61年末いらい31カ国において,延べ39回開催,アメリカの業者3,000社の参加をえた。
(4) 輸出拡大調整官の任命
National Export Expansion Coordinatorを任命し輸出振興担当庁の活動を調整させた。
(5)輸出信用保険
アメリカでは比較的弱かった中期輸出信用の増強をはかるため,2年前から輸出入銀行が新たにこれを保証することになり,その金額はすでに数億ドルに達した。また,62年2月以降対外信用保険協会と輸出入銀行の共同引き受けによる輸出信用保険が増大している。
(6)アメリカ国内における輸出振興関係の未端機関として93の地方事務所を開設,63年1~5月に348回輸出セミナーなどを開催した。
(7)その他
観光客誘致目的に諸外国に9カ所の案内所を設けた。また海上運賃がアメリカの輸出に不利になっている点を是正するための努力がつづけられている。
アメリカの国際収支改善策については国の内外から各種の提案が行なわており,とくにアメリカー国の国際収支改善のためでなく,問題を国際的規模に拡大して,世界の流動性を高めることによって,アメリカの国際収支の改善をはかろうという提案は数少なくない。この点についてはすでに総論にふれたところでもあり,かつまた国際流動性の増強はアメリカ自身の国際均衡回復努力に代替するものではないといった反省も強いので,ここでは最近発表された代表的なアメリカの国際収支改善対策に関する意見だけを述べておきたい。
まずアメリカ国内の提案としては,63年7月28日発表されたブルッキングス研究所の「1968年におけるアメリカの国際収支」に盛られた提案がある。
これは62年5月大統領経済諮問委員会の委嘱によって調査を開始し,その第1~8章はすでに63月1年上記の委員会に提出ずみであったが,今回一部改訂のうえ,第9章を新たにつけ加えて発表されたものである。
この報告書によると,海外援助や軍事支出の削減は国内の完全雇用,自由世界の軍事力維持,低開発国援助,世界貿易為替の自由といった最高の政策目標にそわないから,賢明な方法ではないという。金利の引上げもドルの切り下げについても反対している。現行レートでも,この報告書によれば68年までにアメリカの基礎収支は19億ドルの黒字となるか,あるいは収支均衡するとみられ,ドルを一方的に切り下げることにでもなれば,巨額の黒字化が予想される。こういった分析からさしあたり今後2,3年間の国際収支対策はEECと貿易の自由化について精力的な話し合いを進め,貿易黒字を拡大することだとしているが,この自由化措置のなかには農産物,日本および低開発国の工業製品を含めるべきことをも合わせ強調している。
つぎにアメリカ以外の国の見方を代表するものの一つは国際決済銀行の年報である。62年6月はじめてアメリカの国際収支対策について勧告を試みたこの年報は,63年6月発表された年報のそれでもほぼ同じ意見が述べられている。
まずこの年報では国際収支の各項目を ①経常貿易とサービス,②民間資本移動,③政府間取引きの三類型に分け,①についてはコストと物価を引き下げて国際競争力を改善すべきである。物価騰貴の抑制についてはとくに賃上げを生産性の枠内に抑える,できれば生産性向上の成果を値下げや輸出力の増強にも配分すべきだと説いている。②の民間資本移動については「民間純資本輸出が不均衡の原因である場合,伝統的にとられた政策は国内市場を内外の投資資金により魅力的にするための高金利政策である。ヨーロッパの経験では,この政策は有効であったが,アメリカではこれまでわずかな程度の試みしかなされていない。アメリカの現状では控え目な高金利政策では資本の輸出入に影響を与えられないとか,あるいは国内の反応が大きすぎて,他の手段では相殺できないと反論するとすればある種の直接統制以外に代替手段はまずないということになろう」という。
また,第三の類型である政府間取り引きについては,対外支出を削減して,外国からの受け取り分に見合うようにするか,あるいは長期対外借り入れによって必要限度の資金を調達する必要があるとしている。
以上の勧告のうち①,②については政府当局もかなりの努力をつづけているし,金利平衡税もその一つのあらわれである。また③についても新ドル防衛措置のうちいくつかを想起することができよう。
1)世界経済への影響
62年秋成立した通商拡大法の一般権限によって,EECとアメ9力の関税を5年間に50%引下げる交渉は62年暮いらいガットの作業部会で折衝中であったが,63年春のガット閣僚会議では,なるべく例外を少なくして大幅な一括関税引下げを主張するアメリカと,アメリカの一部高率関税を大幅に引下げてEECの関税と調和させるよう主張するEECが対立したが,結局,一律均等を原則として,関税率に大幅な格差のある場合にはこれを個別的に検討することで妥結,また64年5月の関税交渉に備えるため貿易交渉委員会を設け,具体的な検討をつづけることになった。
こうした交渉の基本的な考え方は関税,非関税障壁の漸進的撤去であり,農産物貿易をも含めてあらゆる貿易障壁を緩和する方向にあるのであるからその恩恵を受ける国も多いと同時に打撃を受ける国もでてくるおそれがあり,個別的産業について同様な問題がある。
また新ドル防衛措置の影響も国によってはかなり強くあらわれよう。まず短期金利の引上げはアメリカの銀行にユーロダラー市場金利に競合する力を与えたため,63年第3・四半期の短期資金流出はかなり減少したようである。
つぎに金利平衡税はまだ議会審議の段階にありながらすでに予想外の効果をあげつつあるようである。すなわち,大部分の長期資金調達者はアメリカでの調達意欲をそがれて,別個な資金調達手段をとるに至ったようで①株式,社債の公募を商業銀行借り入れに変えることか,①あるいはヨーロッパの資本市場への転換を行なっている。とはいっても,借入れ側からみれば,①はコスト高であると同時に長期安定性に乏しく,②のヨーロッパでの借入れコストは割高であり,長期資金供給量もニューヨークほどではない。このためこれまでニューヨーク市場依存度の高かった日本の他諸国の長期外資の調達は従来より困難となるおそれがある。
このほか政府の戦略物資購入の削減,海外軍事支出の削減,バイ・アメリカン法の適用強化なども日本を含めた先進工業国にかなり響くであろう。しかし金利平衡税は2年の時限立法であること,また政府予想のように1965年以降間もなく,アメリカの国際収支が均衡化するとすればドル価値は高まり,現行国際通貨体制の強化に役立つであろう。
2)日本への影響
これまで資金,貿易面で対米依存度の強かったわが国は今回のドル防衛措置の影響をかなり強く受けるであろう。第一に新規証券の発行によるアメリ力国内での資金調達が困難になることが予想され,短期金利の引上げはすでにわが国の短期借り入れコストを引上げている。
第二に海外防衛支出の削減,バイ・アメリカン政策の適用強化はわが国に対する特需などの減少となってあらわれるであろうが,わが国に対する無償防衛援助の削減要求となることもあろう。
第三に貿易面ではアメリカの対日輸出攻勢強化,第三国市場での競争激化も予想されよう。また海上運賃の格差是正には業界との話し合いが必要とされ,それには時間もかかるので,効果は急には出てこないであろうが,それにしても10月1日に予定されていた北大西洋,欧州運賃同盟の25%輸出運賃引上げが連邦海事委員会の圧カで中止になったのは注目される。もし格差の是正がこんご太平洋運賃同盟に波及するようだと,わが国にもかなりの影響があろう。すなわち,わが国からの輸出運賃引上げのかたちで格差を是正するときはその分だけわが国の対米輸出品価格を引上げることになろうし,輸入運賃引下げのかたちの格差縮小ならばアメリカ品の競争力が増大するであろう。またいずれの場合にしても,わが国の運賃収支にかなりの変化を与えるであろう。
以上のようにわが国に対するドル防衛政策の短期的な影響だけに限ってみると,かなりの影響が出そうであるが,しかし,長期的にみてドル防衛によってアメリカの高度成長が維持されるならば対米輸出増といったプラスが期待される。
(6) 国際流動性と国際通貨体制に関する1962~63年間にみられた諸種の見解
提案者
モードリング構想
「IMFへの余剰通貨予託制」IMF総会(1962年9月)
見解の特色
1 (イ)国際収支の制約のために国内経済成長が阻害されるような現行制度は改善すべきである。(ロ)ドルとポンドが背負っている準備通貨としての負担は軽減さるべきである。
2 そのための案として,IMFに「相互通貨勘定」を設け,黒字国が赤字国に信用を供与するが,その際その債権,債務をIMFに肩代りし,これらに金保障証を付するようにする。相互通貨勘定における債権,債務は国際勘定単位をもって表示する(IMFの枠内における多角的協力機構として制度化)。
提案者
ルッツ案
「国際流動性と多数通貨制」 (1963年3月)
見解の特色
1 流動性は不足していないが,金為替本位制そのものに矛盾があるから将来は不足する。
2 解決策としては自由変動為替相場制の採用,金価格引上げも考えられるがこれらには難点がある。
3 最も好ましいのはより多くの通貨を準備通貨として使う多数主要国通貨制度を採用する。
4 この方法は将来流動性を拡大する余地をもつし,新たな機関の設置も必要としない。
提案者
新トリファン案
「EECとドル問題」1963年6月。その後「準備通貨の潜在的危機と題して」バンカー誌8月号に一部発表。
見解の特色
1 当面の中心問題は,累積したドル残高の圧迫(国際流動性の過剰)をいかに処理するかにある。現行の国際金融協力による短期信用供与は不安定なドル残高を増加させ,ドルをかえって弱めている。
2 そのため,EEC諸国の対米短期債権の一定額を棚上げし(為替保証を付けて),もって金との交換を防止する。棚上げ後生じるアメリカ赤字決済は金融的節度を守らせるために金決済とする。
3 近い将来に,この棚上げ分をたとえばBISに預託し,本構想を制度化していく。当面米,英,EEC間の協定で出発し,将来は他の通貨を含めてIMFのに一本化する。
提案者
国際決済銀行
第33回年次報告(1963年6月)
見解の特色
1 国際流動性の役割は国際取引で生じる差額の決済にあるのだから,国際流動性と世界貿易量とのあいだに単純な関係は存在しない。事実,流動性の利用を一層重要ならしめたのは,貿易量の拡大というよりもむしろ通貨の交換性回復以降の国際短資移動の結果として生じた流動性利用範囲の拡大であった。
2 各国中央銀行相互間や国際決済銀行の国際金融協力は, 一国の金外貨準備とIMFによるやや長期的な信用便宜とのあいだにあって中間的な資金源となり,国際決済制度に新しい要素を加えた。現在の問題はこの国際金融協力で対処できる。
3 だが,流動性の必要量をはかる場合には,国際収支の一時的赤字と持続的赤字をはっきり区別し,流動性準備の補強を目的とする国際的な信用便宜は一時的赤字の是正にのみ使用すべきである。
3 現在のアメリカの金準備に対する圧迫は対外赤字による巨額の流動性の膨張(対外短期債務の増大)に帰因している。だからこの問題は,国際流動性の増大によっては解決できないのであって,真の解決策はアメリカの国際収支赤字を解消することである。
4 もしアメリカ政府がその他のより重要な政策目的に対する考慮から,国際収支赤字の漸進的回復しか行ないえないのであれば,アメリカの対外的流動性ポジションの強化(短期対外債務の一部を長期に借りかえるーたとえば外貨建特別証券発行などの措置一)が必要である。
提案者
ベルンシュタイン案
「対外準備に関する金と外貨のリンク構想」(1963年6月)
見解の特色
1 現行制度では金供給に限度があるので長期的にみると国際流動性は不足する。
2 このため,パリクラブ参加10カ国およびスイスは,その通貨(金保証付)をIMFに寄託,IMFはこれの見返りとして新IMF通貨を参加国に交付(IMF勘定に貸記)する。このときIMF通貨の創出額は各国の金保有額を基礎に金6対IMF通貨4の割合で行なう。こうして今後の流動性は金の総残高より7割弱(=4/6)ふえる(金価格引上げによらない流動性増加案)。
3 一方,赤字国に対して金融的節度を強いるため,今後の決済には6対4の割合で金とIMF通貨をだきあわせたもので行なうようにする。
提案者
ハロッド案
「IMFに対するハロッド案」(The Statist1963年7月)
見解の特色
1 現在の国際通貨不安の根因は,ドル,ポンド残高の累積とこれに対する金準備率の低下にある(トリフィン新提案と同じ診断)。
2 解決案としては,(イ)IMFと米英両国とのあいだで特別のスタンドバイ借入取決めを結び(現在のドル・ポンド残高をIMFに肩代りするのではなくて),今後3カ月以上にわたるやや大規模なドル,ポンド残高の引出しが行なわれた場合に限り,その引出し額に応じて必要額だけをIMFに肩代りする。(ハ)その後は3カ月ごとにそれに先立つ3カ月間における短資流出入実績を勘案の上,IMFの信用供与限度を調整する。
(ハ)当初の資金引出し後3年たった時点でもIMFに信用供与残高がある場合には,その残高は期限20年の長期信用に転換し,返済は毎年5%ずつ金で行なう。
3 このようにして英米両国は低金利政策をとり経済成長を通じ国際収支の均衡をはかる。
4 今回は従来主張していた金価格引上げにはふれていない。
提案者
米,独,瑞,伊四カ国中央銀行共同提案(ニューヨーク連銀月報1963年8月)
見解の特色
1 「流動性ジレンマ」の一方の問題,つまりアメリカの国際収支赤字による国際流動性増加,その結果としてのドル信認の低下は,アメリカの国際収支赤字の解決すなわち国際収支規範の遵守によってこそ解決できる。
2 「流動性ジレンマ」のもうーつの問題,つまり世界貿易拡大について国際流動性を増加させる必要があるか否かの問題は,主要貿易国の国際収支のスウィングにどう対処するかの問題として考えるべきである。将来拡大するかもしれないこのスウィングは,おおむね2過去カ年に行なわれてきた国際金融協力で対処できる。すなわち,現在15億ドル以上にのげるスワップ協定は投機に対する第一線の防禦であり,外貨建特別債務証書および債券の発行は,中期信用取決めとして国際流動性を支える健全な金融手段たりうる。またIMFの活用は国際金融制度の最終的な流動性準備を形成している。
3 今後の対策としては,アメリカは外貨保有の増大をはかる一方,諸外国の金保有率の平準化によって金選好を制約する。スワップ方式等の相互的短期信用便宜は大部分自動的に行なわれるようにし,不均衡の短期間解決が困難なときは中期の特別債券を大いに利用する。
提案者
ブルッキングス研究所報告
「1968年における合衆国国際収支」(1963年8月)
見解の特色
1 アメリカの国際収支が将来均衡化にむかえば,いままでアメリカの対外短期債務累積に依存していた国際流動性は世界貿易の拡大にしたがって不足する。
2 なるほど国際流動性の役割は国際収支の不均衡の決済にあるが,問題はつぎの理由からこの不均衡の幅が将来増加する可能性がありしかも不均衡が長期間硬直化するおそれがあるからだ。その理由は,(イ)貿易,資本取引の自由化にともない諸国間の経済要因の相対的変化が,大きく国際収支に反映される。(ロ)国際間短資移動の活発化など不測の事態に備えて流動準備の増加が必要になる。(ハ)主要先進国は,技術競争,生産性,需要構造等々の変化という構造的要因から派生する不均発展に悩まされている。このような要因から生じる各国間の国際収支不均衡は,国内経済の硬直性が著しい現在,急速に解決できるものではない。
3 そのうえもっと重要なことは,現行の国際通貨制度が,つぎのような最高目標(これは国際収支問題に優先する)達成という資本主義世界の要請に比べて,不適切なことである。その目標は,(イ)完全雇用,安定的成長の達成,(ロ)自由世界の軍事力維持,(ハ)低開発国への経済的支援,(ニ)貿易為替の最大限の自由化である。
4 ところで為替レートの固定性は,商品,サービス,資本の国際的移動を健全化するという利点を有するが,他方では赤字国が上記の目標を犠牲にして均衡化をはからざるをえないという欠点を有する。
5 以上の諸理由から固定レートを基礎とした国際的な信用創造機関が必要である。この機関が流動性を十分供与することによって上記の諸困難の排除と諸目標の達成が得られる。
6 もし国際信用機関の創設が拒否されたら,次善の策として英米ブロックとEECブロックに分けたうえで,ブロック間で屈伸為替相場制をとる。ただしブロック内では固定為替制を採用する。
提案者
ローザ提案
ローマ国際通貨会議(1962年5月)「国際通貨制度の再編成」フォーリンアフェアーズ誌(1963年10月)
見解の特色
1 現在のいろいろな金融とりきめによって補強された現行IMF体制は,当面の世界経済の流動性需要に十分対応できる弾力性を補えている。
2 しかし,将来の国際通貨機構が現行体制で十分かどうか,なすべき改善の方向は何かを根本的に検討すべき時期に来ている。
3 改革案のうち金本位制復帰,自由変動為替相場制採用,金価格引上げはまったく問題にならない。固定平価を基礎とした金為替本位制の強化策について検討すべきである。
4 この強化策については,(イ)各国間の双務的多角的信用取決めの拡大といった従来の手段の拡充強化,(ロ)IMFの資金源および引出し権の拡大,(ハ)キイ・カレンシー補強のため他の交換可能通貨(またはそのグループ)の活用,(ニ)IMFの信用創造,といった順序で十分慎重に検討すべきである。
提案者
ケネディおよびジロン発言
大統領の「国際収支特別教書」 (1963年7月)IMF,世銀の年次総会における大統領およびジロン財務長官演説(1963年10月)
見解の特色
1 国際通貨制度の改善策を協議する用意ありとはじめて意志表明。
2 国際協力および米国の収支改善策等は進んでいるが将来の問題に対処する要あり。ただし,長期的な国際流動性問題と当面の国際収支の不均衡の問題は区別しなければならない。
3 米国の国際収支が均衡に向うにつれ,他国の外貨準備増加は困難になる。アメリカの国際収支の赤字が解消する見通しがあればこそ流動性の研究が必要。
提案者・機関
シュバイツアー演説
IMF総会における総報告(1963年10月)
見解の特色
1 世界の国際収支事情はよくなり,またアメリカの国際収支の秩序ある調整ができる。
2 ある国の潜在的借入能力は別のかたちの流動性であり,現在流動性が不足していると考えない。
3 流動性の水準は国際的な協力措置により高めうる。またその場合,IMFはその大半をみたしうる重要な機関である。
4 今後1年間,この問題についての研究を行ない,この点での国際協力を確立する。
5 なお同理事会はほかの機会に「金価格を引上げない」「新通貨は考えない」[金本位制への復帰も考えていない」[欧州の資金供給はアメリカより限られている」とのべている。
提案者
10カ国蔵相会議共同コミュニケ(1963年10月)
見解の特色
1 パリグラブ「10カ国蔵相代理会議」を発足させ国際流動性・通貨制度の長期的問題を検討させることに決定。
2 現行の固定為替レート・1オンス35ドルの金価格はかえない。
3 現在,各国の準備はIMFの資力と双務的な信用網で補強されており,国際通貨体制の安定に問題はない。
4 将来について全面的に再検討することは有益である。