昭和38年

年次世界経済報告

昭和38年12月13日

経済企画庁


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第2部 各論

第1章 アメリカ

4. 1964年の経済見通し

アメリカ景気はすでに30数カ月にわたって上昇をつづけているが,現在の兆候からみれば少なくとも64年央まではこの上昇局面がつづきそうである。

個人消費は引きつづきふえており,今後の動向を示唆する消費者購入意図調査(国勢局)結果も良好である。とくに新車購入計画をもつ世帯は3.4%に達し,例年秋とすれば最高水準にある。63年型車の初期売上げ動向も好調を伝えられ,64年には63年同様の廃車が予想されるという強味もあって,まず63年同様700万台以上の需要が予想されている。台数は同じであっても,大型車,デラックス型の売れ行き増加が期待される。その他耐久財消費は新世帯形成の増大,新住宅の建築から暫増見通しであり,非耐久財消費も伸びるだろう。63年央以降数カ月にわたった鉄鋼生産の不振は消費者在庫の補充,自動車業界からの需要回復などからじょじょに立ち直ると期待され,設備投資や建設の増加期待も鉄鋼需要の増大を思わせる。

63年の工場,設備投資は前年比5%増予想であるが,減税期待と62年の投資減税法や減価償却期間の短縮措置は64年の設備投資を刺激するであろう。

それに63年には企業の利幅もふえており,63年秋現在の操業度はすでに87%に達して,かなり高い水準にあることも設備投資増を期待させるものである。

64年の非農住宅着工件数は全米住宅建築業協会推定によれば63年の153万戸から2%を減じて150万戸と推定されるが,他方,建設契約は3.6%増と見込まれている。

在庫動向については物価騰費に備えて蓄積要因と短期金利の引き締まりという逆方向の要因がある限り,景気に対する好材料となろう。

なお,輸出については一部工業製品の競争の増強がったえられ,かつ対ソ小麦輸出,対欧食糧輸出増が期待されている。

減税法案の審理はおくれているが,早ければ明年初めには議会を通過し,1月から実施されて,かなりの経済刺激効果をみせるであろう。

現在下院を通過した減税原案通りに上院を通れば,64財政年度の赤字は,119億ドルとなって,63年度の62億ドルを上回り,それだけ経済刺激効果をもつであろう。他方,地方財政支出はこれまでのすう勢に従って増大するであろう。

ところで国民総生産の見通しについては数多くの推計が行なわれているが,最近の財務省見通しでは63年5,840億ドル(前年比名目5.2%増),64年第2・四半期6,200億ドル(前年同期比約7%増)されて,64年秋の選挙時までは好況の持続とされている。この推定は64年初めからの減税を予想しているが,減税のない場合でも64年第2四半期の対前年同期比成長率は5.1%と予想しており,62~63年の成長率に近く,かなり高い成長である。財務省見通しは64年年央までであるが,64年全体の見通しについては,11月初旬ミシガン大学でひらかれた景気動向に関する第11回年次会議の6160億ドル(5.4%増)などがある。これもまた減税を予想したものであって,減税のない場合はこれほどの伸びは期待されない。

以上のようにアメリカ経済は少くとも1964年央項までは上昇期待であるが,しかし,失業とか国際収支その他の問題が依然残っている。すなわち第一に景気は上昇し,雇用はふえるければも,一方では新規労働者の増加と他方ではオートメーションの進展があるので,失業率の大幅な低下はあまり期待されず,根強い失業問題の解決にはなおいっそうの経済成長が必要とされている。

第二に国際収支は,63年第3・四半期に前期比では好転したものの63年全体としては,なお30億ドルの赤字が予想され,62年よりも悪化見込である。

国際収支の赤字は政府予想によってもなお,65年ぐらいまで続きそうで,輸出の増強その他の対策の推進が必要とされるわけである。

第三は物価騰貴の問題である。政府は前述のような国際収支対策をとりつつ国内の高度成長をはかるという両面作戦をとっているがこの時にあたって,国内の原料,工業製品に微騰傾向がみられ,政府の関心をひいている。

第四に,こうした値上りの背景にある景気の持続的上昇も,かつてみられたほどの投資主導型のブームではなくて消費支出と政府支出に支えられている点も注意しなくてはならない。たとえば消費支出はなお堅調ではあるが,自動車,住宅に全く問題がないわけではない。自動車買い入れはすでにかなり高い水準にあって,急激にこれ以上伸びて61,62年ほどの景気浮揚力になるとは期待しがたい面もあり,住宅建築についても61年いらい高水準を持続し,浮揚圧力は弱まると予想されている。

第五に連邦財政支出については64年央に始まる財政年度においては赤字幅を縮小することを大統領は議会に約束している。また上記の楽観見通しの根底になっている減税の実施が著しく遅れるなり,あるいは見送りになるようだと,64年の見通しも違ったものとなろう。

図表


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