昭和36年

年次世界経済報告

経済企画庁


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]

第2部 各  論

第2章 西ヨーロッパ

4 共同市場の発展

欧州共同市場は発足以来今日まですでに4年近く経過したが,その間に共同市場は目ざましい経済的発展を示し,この経済力はいちだんと強化された。

60年下期から61年初めにかけてのアメリカの不況にも影響されることなく,共同市場の経済拡大は持続され,むしろこの時期に共同市場の好況が世界貿易をささえる重要な要因であったといえよう。

このような共同市場の繁栄が世界的に地域統合への機運を呼び起こしたことは周知のとおりである。西欧においてもイギリスなど7カ国から成るEFTAが60年7月に発足し,しばらくの間EECとEFTAの対峙状態がつづくかにみえたが,最近はEECの強い発展力がしだいにEFTAを圧倒し,後者が前者に合併吸収される傾向がみえてきた(この点については後述)。

以下においては,まず最近におけるEEC自体の制度的および経済的な発展状況を概観し,つぎにイギリスのEEC加盟を中心とする西欧大統合への動きを簡単に説明してみたい。

(1) 制度的な進展

60年から61年にかけてEEC内部でみられた最も重要な制度的な発展は,(1)共同市場加速化計画の実施と,(2)政治的統合への前進であるが,そのほか(3)労働力自由移動,(4)共通社会政策,(5)共通輸送政策,(6)共通通商政策,(7)反独占政策,(8)金融政策の調整,(9)共通農業政策,(10)準加盟のアフリカ諸国との関係調整等の諸分野においても準備作業がかなり進んでおり,部分的にはすでに実施の段階にはいったものもある。またEECの共同機関である欧州投資銀行の投資活動もようやく本格化し始め,海外開発基金も予定どおり海外地域の開発援助を進めつつある。

1)共同市場加速化計画の実施

60年5月に決定された共同市場加速化計画(いわゆるハルシュタイン計画)にもとづいて,60年7月1日と61年1月1日に域内関税がそれぞれ一律は10%引下げられ(これで発足以来30%引下げ),また61年1月から共通対外関税への第1次接近が実施された(第1次接近とは,基準関税率が共通税率の上下15%以内であるばあいには共通税率をそのまま実施,また基準税率が上下15%を越えるばあいにはその差を30%縮めることであるが,加速化計画により第1次接近措置にさいして基準税率を20%引き下げた税率を暫定的に計算上の基礎とすることとなった)。

また加速化計画によると,62年1月1日に域内関税を最低10%引下げるほか,さらに10%の追加的引下げを実施するか否かを61年6月末までに理事会が決定する予定であったが,実際にはEEC委員会の引下げ勧告があったにもかかわらず,主としてフランスの反対により理事会の決定が延期された。

現在の見通しでは62年1月に10%引下げ,さらに数カ月遅れて10%の追加引下げが行なわれる模様である。

加速化計画はさらに工業品の域内輸入割当制を61年末に全廃する予定であったが,これは予定どおり実施されるはずである。

2)政治的統合への前進

EEC加盟諸国間の政治的協力はすでに59年秋以来定期的な(3カ月ごと)外相会議の開催を通じてある程度行なわれていたが,61年2月にド・ゴール仏大統領の発意により6カ国首脳が会談し,政治的協力体制強化の原則を決定,さらに同年7月における第2回首脳会談で,(1)6カ国首脳の定期的会合(3カ月ごとと推定されている),(2政治的統合の制度化のための具体策の研究を目的とする委員会の設置,(3)文化および教育面における協力の強化,等が決定された。EECの将来における政治的統合方式としては,ド・ゴール流の国家連合方式とその他諸国の欧州合衆国方式とが対立しており,今回の決定はいわば両者の妥協案とみられる。この問題はド・ゴール方式を支持するイギリスのEEC加盟によって今後複雑な経過をたどることと思われるが,何分にもかなり遠い将来の問題であって,差当たって大きな問題とはならぬであろう。今回の決定の意義は,ローマ条約の条文では余り表面に出ていなかったEECの政治的性格を明確化し,制度的に政治的統合へ第1歩を踏み出そうとした点にあろう。

3)労働力の自由移動

共同体内部の労働力移動の完全自由化という最終的目標へ向かっての最初の措置が61年9月1日から実施された。

今回の「労働力自由移動に関する規則」は,労働力の完全移動実現までの時期を二つに分け,その第1期について適用されるもので,期間は原則として2カ年とされている。

他の分野においてと同様,労働力移動の「自由化」措置もあくまで漸進的に実施されるもので,移入された外国人労働者と国内労働者との無用の摩擦を避けるために,当面の第1段階においては国内労働力優先の原則が過渡的に打ち出されている。すなわち,ある職場が当該国の職業紹介所を通じて提供されてから3週間未充足のままであるときに初めて,外国人労働者がその職場に就職することができる。

このように雇用機会の点では当分の間国内労働力優先の原則が適用されるが,就職後の待遇については「無差別」の原則が適用されて,賃金や付帯的給与などには国内労働者と同じ待遇を受ける。

家族(妻と21才以下の子女)は当該労働者と一緒に居在し,かつ同一条件で職につくことができる。

外国人労働者は就職1年後には同じ職業を継続する権利が与えられ,3年後には自己の専門とする職業につくことができ,4年後には専門のいかんにかかわらずあらゆる職業につくことができる。

4)共通社会政策

社会政策の分野においてはとりあえず移民労働者に対する社会保障の充実や労働条件の調和などに関する準備作業が進められたほか,EEC社会政策の最も重要な機関である欧州社会基金がいよいよ活動を開始することになった。この欧州社会基金は,共同市場の開設により転換または失業をよぎなくされる労働者に対して職業訓練と再就職を助成するために設けられたものでこれら労働者に対して加盟国政府または公共機関から支払われた援助の50%を基金が負担することになっている。この欧州社会基金については60年5月に同基金規則および同基金委員会規約が理事会で承認され,同年9月から発効して,いよいよ具体的に活動できる体制ができあがった。

欧州社会基金の1961年度予算は10億ベルギー・フラン(約2,000万ドル),このほか遡及補償費として5億ベルギー・フラン(1,000万ドル)が計上されている(各国の分担割合は,西ドイツ,フランスがそれぞれ32%,イタリア20%,べルギー8.8%,オランダ7%,ルクセンブルグ0.2%)。

5)共通輸送政策

61年6月にEEC委員会の共通輸送政策の原則に関する覚書が発表され,6月の理事会で承認,その実施のための第1次措置として国籍別差別待遇の廃止が7月1日より実施された。

6)共通通商政策

61年7月のEEC理事会決定により,(1)EEC加盟国が第3国と通商協定の締結または更新にさいしては加盟国間で事前協議すること,(2)第3国との貿易協定を互いに調整し,加盟国政府は四半期ごとに予想される通商協定を報告すること,(3)過渡期終了後までつづく貿易協定を締結しないこと,が定められた。

7)独占禁止

独占禁止に関する最初の共通規則草案がEEC委員会により作成,60年11月理事会へ提出目下審議中である。本草案はカルテル禁止と厳重な罰則を原則とするかなりきびしい内容を持っているが,主としてフランスの反対により,もっと穏和な内容に変更される予想である。

8)金融政策における協調

EEC諸国の金融政策はEECの1機関である通貨評議会(加盟国の大蔵次官,中央銀行副総裁等から構成)を通じて調整されており,西ドイツ・マルクの切上げ問題についてもすでに60年に同委員会が婉曲に切上げを勧告している。この通貨評議会のほか,加盟国蔵相や中央銀行総裁の定期的会合も行なわれ,金融面におけるEECの協調体制はかなり円滑に進められているこの点に関連して最近注目されているのは,EEC創立者の一人であるジャン・モネ氏がEECの共通通貨基金の設立を提唱したことである。これは加盟国の金外貨準備の一定割合を拠出させてプール化せんとするもので,将来におけるEEC中央銀行の基礎となり,共通通貨発行の準備となるものとみられている。

9)共通農業政策

工業部門の共同市場化が順調に進捗してきたことにくらべて,農業部門の共同市場化はかなり遅れている。現在までのところ,EEC委員会が共通農業政策の最終案を60年6月末に理事会へ提出したあと,61年5月から7月末にかけて穀物,豚肉,家禽,卵,野菜,果実などに関する施行細目を発表した程度で,いずれも理事会で審議中である。元来EEC諸国は他の西欧諸国と同じく国内農業の保護に努めており,その農業保護方式もおおむね価格支持と輸入統制を軸とするいわゆる大陸方式であって大差がないものの,農業の構造,生産性,価格水準など具体的な農業事情の点ではかなりな相違があり,またオランダ,イタリア,フランスなど農産物輸出国と西ドイツのように輸入国とでは立場上利害が一致しない面もあるので,共通の農業政策を採用して農産物の単一市場をつくるというEECの目標を実際に達成することは容易でない。

しかし,EEC委員会の原案によると,共通農業政策は1961~62年度(1961年7月以降)から漸進的に実施されることになっており,これまでは61年9月の総選挙を控えた西ドイツの反対で最終決定が延期されていたが,西ドイツの総選挙も終わった現在,6カ国は近く共通農業政策の最終決定をしなければならぬ立場にある。

いまEEC委員会の立案した共通農業政策の概略を述べると,一定の経過期間(1961年7月から1967年6月末までの6カ年間)をおいて農産物の共同市場を漸進的に実現していき,経過期間後は主要農産物ごとに単一の市場を実現,域内の通商障壁は完全に撤廃され,支持価格制度も統一される。第3国との取引については共通的に統制を行ない,域内の生産者と消費者の価格を世界価格以上に維持する。

共通農業政策実現のための手段は,農産物の種類によって一様でなく,細部についてかなり異なり複雑であるが,簡単にいうと農産物を三つのグループに分け,それぞれ違った統制手段を用いる。

第1グループは欧州にとって最も重要な農産物である穀物,砂糖,酪農品を含み,これらについては毎年目標価格を設定し,域外からの輸入についてはこの目標価格と輸入価格の差額を輸入賦課金として賦課する(この輸入賦課金は共通対外関税にとって代わるものである)。穀物,砂糖,酪農品のそれぞれについて単一の統制機関を設け,市場価格が目標価格よりやや低い水準(目標価格より5~7%低い水準)へ低落したときは,統制機関が買上げ操作を行なう。

外部からの輸入に対しては原則として前述の輸入賦課金を課するだけで,輸入統制は行なわないが,域内の市場価格が低落して買上げ操作を大々的に実施しなければならぬときには,外部からの輸入も統制される。

第2のグループは牛肉,豚肉,家禽および卵を含み,このグループについては共通関税が主たる保護手段となるが,域内価格が一定水準以下へ低落すると,域外輸入に対して飼料価格の内外差額を輸入賦課金として賦課する。

第3のグループは,果実と野菜であって,これも原則として共通関税だけで保護される。また域内の生産過剰で価格低落のおそれあるときは,外部からの輸入に対して数量制限を賦課する。域内取引は自由であるが,共通の規格制度と競争規則を適用する。

以上が共通農業政策の概要であるが,このうち最も問題となるのは,共通の支持価格制度の実現のために,加盟諸国の支持価格水準を統一することである。概していえばEECでは西ドイツの価格が高く,フランスとオランダのそれが低い。したがって西ドイツは価格を引下げねばならない。この点が農産物の競争力が弱く,しかも農業団体の政治的圧力の強よい西ドイツにとって悩みのたねとなっている。

また前述の共通農業政策の説明からみても明らかなように,EECの農業政策は工業部門にくらべると保護主義的色彩が強い点に問題があり,その点アメリカ,カナダ,アルゼンチン,デンマークなど農産物輸出国の不満を買っている。

このようにEECの共通農業政策は対内的にも対外的にも問題が多く,今後はイギリスの加盟による政策修正の可能性もあり,かなりの難航が予想される。

10)準加盟アフリカ諸国との関係調整

主としてアフリカにおけるフランス属領が最初からEECへ準加盟していたが,その後これら属領のほとんどすベてが独立国となったため,これらアフリカ諸国とEECとの関係を再調整する必要が生じた。従来は関税その他通商面での特恵を与えるほか海外開発基金(総額581百万ドル)を通ずる贈与により海外地域の社会的投資(道路,港湾,学校,病院等)を促進してきたが,これはローマ条約により一応5カ年間(1962年末まで)という期限があり,その後については改めて新しい協定を結ぶ予定になっていた。そこで61年7月にEEC委員会はEECとアフリカ諸国との関係を規定する新たな原則を発表し,目下EEC理事会により審議されている。それによると,アフリカ諸国にとって重要な11の熱帯産品(とくにバナナ,コーヒー,ココア,熱帯性木材)について関税引下げのテンポを加速化(63年1月に50%引下げ,65年1月に全廃)するとともに第3国に対する共通関税の設置も加速化する(63年1月に50%接近,65年1月に共通関税完全実施)。このほか,コーヒー,ココア,バナナについては共通関税を50%引き下げる(その結果コーヒー8%,ココア4.5%,パナナ10%となる)。またこれら3品に対する内国消費税を63年1月に半減し,65年1月に全廃する。

以上のように共通関税の引下げで通商面における特恵幅を小さくする代わりに,直接援助をふやすことにし,EEC諸国およびアフリカ諸国の共同出資により共同生産金庫を設立,それを通じて熱帯産品の増産に対する援助資金として年間55ないし60百万ドルを支出し,またその価格安定資金として,5,000万ドル(1回かぎり)が予定されている。このほか海外開発基金を強化し,従来のような贈与ではなく,長期低利の融資にすると同時に,その資金もふし,加盟国が年間2.2億ドルを拠出し,それを7カ年間継続する(拠出金の配分は従来と同じで,西ドイツ,フランス各34.4%,ベルギー,オランダ各12%,イタリア6.9%,ルクセンブルグ6.2%)。

海外開発基金の活動状況をみると,61年4月末現在で145件の投資計画に対して総額148百万ドルの援助が承認されている。

この開発基金は商業的採算にのらぬ下部構造や社会資本に対する投資を援助することで民間の生産的投資を促進するのがねらいであり,今後その規模の拡大につれてアフリカの経済開発に大きな役割を果たすものと思われる。

11)欧州投資銀行

EECの共同機関の一つである欧州投資銀行は元来(1)EEC内部における後進地域の開発,(2)EEC発足により必要となった企業近代化または転換のための投資,(3)1カ国以上の加盟国にとって共通の利益となる投資計画に対する融資を目的として設立されたものである。

58年3月創立以来60年末までの融資実績をみると,融資承認件数は12件,金額合計9,350万ドルに達した。金額ベースで国別にみると,イタリア(66%),フランス(27%),ルクセンブルグ(4%),西ドイツ(3%)であり,産業別ではエネルギー(40%),鉄鋼(26%),化学(18%),農業(10%),その他加工業(6%)となっている。投資銀行の融資は元来補完融資であり,これまで同銀行の融資により約6億8,200万ドルの投資計画が可能となった。

融資を種類別にみると,60年までの投資の93%が後進地域向けであった。なお欧州投資銀行の金利はおおむね市場金利に準じたものである。

61年にはいってから,欧州投資銀行の活動が活発化し,交通業に対する融資,中小企業に対する融資など新たな発展がみられるとともに,従来加盟国の出資金(10億ドルであるが,実際の払込金は2.5億ドル)に頼っていた原資を民間資本市場での起債にも依存することになり,61年7月オランダで約1,400万ドルの起債を行った。

(2) 域内経済関係の緊密化

1)域内貿易の著増

域内経済関係の緊密化が,投資ブームを主軸とする高成長と並んで,最近のEECの経済動向において注目すべき第2の特長であろう。域内経済関係の緊密化を示す最も顕著な現象は,域内貿易の急速な増加である。

すなわち60年にEECの輸出総額は17.7%増加したが,域内貿易は25.3%という大幅な増加(域外向けは14%増)を示し,その結果EECの輸出に占める域内輸出の比重は58年の30.2%,59年の32.4%から60年の34.4%へ上昇し,61年第1四半期にはさらに36.5%へ高まった。輸入のばあいも同様で,60年に域外輸入が20.8%増加したのに対して域内輸入は25.3%増,その結果輸入総額に占める域内輸入の比重も58年の29.6%,59年の33.4%から60年の34,2%へ上昇,61年第1四半期にはさらに35.6%になった。

この域内貿易の比重上昇傾向はEEC加盟諸国の全部に共通する現象であるが,輸出面ではもともと域内市場に対する依存度の高いベネルクスの域内依存度が大幅に高まったことと,フランスおよびイタリアの域内輸出の比重が急上昇した点が注目される。輸入面ではフランス,イタリア,西ドイツの域内輸入の比重が大幅に上昇している。

第2-26表 EEC諸国域内貿易の比重

2)域内の国際的企業提携

このような域内貿易の急速な拡大は,これまで実施された域内関税の引下げや輸入制限の緩和など通商面における諸措置の直接的な効果もさることながら,共同市場の完全実現とその発展性を見越した域内諸企業の心理的な反応が大きな役割を果たしていると思われる。すなわち共同市場の発足により域内企業の他の共同市場諸国に対する関心が高まり,いわば共同市場マインドがしだいに浸透しつつある。情報の蒐集や市場調査が盛んに行なわれ,語学や経済事情の研究ゼミナールなども企業レベルないし経済団体レベルで行なわれている。のみならず,共同市場内部における国際的な企業提携,技術協力,資本参加,子会社の設置等が盛行しており,その意味では制度的な面よりもむしろ企業レベルにおいてよりすみやかに単一市場が実現しつつあるようだ。

いまEEC委員会や西ドイツ政府機関の調査によると,共同市場発足以来1961年8月末までに域内企業間に成立した技術協定は610件に達しており(うち西ドイツ155件),また資本参加は480件(うち西ドイツが約20%)に達したという。さらに域内企業の他の共同市場諸国における子会社(生産工場,組立工場,サービス機関,出張所等)の設立は880件にのぼっている(うち西ドイツ165件)。このような域内企業間の国際的な提携や協力のほか,加盟諸国の経済団体間の協力体制も進められており,共同市場内におけるこの種経済団体の連合体の数は61年2月末現在で140に達している。

(3) 外部資本の吸収

EECの成長性を高く評価すると同時に対外関税障壁をのりこえるために,域外諸国,なかでもアメリカからの直接投資が増加しつつあり,それがまたEECの経済発展を促進する一因となっている。

EEC委員会の調査によると,欧州外諸国からEECおよび非EEC欧州諸国に対する投資額は第2-27表のとおりで,外部世界から欧州向け投資の重点がEECへ移行してきたことを物語っている。

つぎにEEC以外の欧州諸国を含めて外部世界からEECへ投資を企業件数の形で国別に表示すると第2-28表のとおりであって,アメリカの444件が断然多く,総件数約600件の約8割近くを占めている。これに次いではイギリスの104件,スイスの28件,スエーデンの12件となっている。

また第3国のEEC向け企業投資形態と産業別内訳を示すと,第2-29表のとおりである。これによると,投資形態では子会社の設置と技術協力が最も多く,新会社の設立や企業合同の数は比較的少ない。

外部世界からの投資の大部分を占めるアメリカの直接投資についてみると第2-30表のように60年における対EEC投資は前年比45%増の4億3,600万ドルに達した。58年にくらべると9割余の増加ぶりである。この結果,アメリカの海外直接投資残額に占めるEECの比重は58年の7.0%から60年の8.1%に達した。ただしイギリス向け投資も60年に前年の2倍以上になったが,これはフォード社の株式買戻し(3億ドル余)という特殊な要因があったせいである。

アメリカ商務省の調査によると(Survey of Current Business,1961年9月号),共同市場内に存在するアメリカ会社の工場設備投資は60年の4.7億ドルから61年には7,3億ドルへと55%も増加する予定である。62年には7億ドルへとやや減少が見込まれているが,それでも60年の水準にくらべて約5割高い)水準にある。

(4) EECの経済的地位の上昇

以上のようなEEC諸国の目ざましい経済発展から,世界経済に占めるEECの立場ないしウェイトの著しい向上は,第2-31表からも読みとれよう。