昭和36年

年次世界経済報告

経済企画庁


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第1部 総  論

第4章 低開発国援助の強化

2. 援助の国民経済的意義

最近において援助に対する工業諸国の態度がこのように積極的になってきたことの裏には,低開発国援助を世界的な観点から,しかも長期的な経済的立場から考えるようになってきた事実がある。すなわち従来は,共産主義の進出防止,旧植民地に対する紐帯の維持ないし強化,人道的見地からの慈善,輸出市場と原料の確保,等々の動機が雑然として存在しており,工業諸国の間でも多分に同床異夢的なものがあった。現在でもこれ等の要素は必ずしも消滅したわけではない。しかし根本的には低開発国の成長を促進しやがては経済自立を可能ならしめることが世界経済にとってまた工業国の長期的発展のためにも望ましいことであり,援助はそのための手段であるという認識が高まってきたことは否めない。工業国が一体となって援助を有効に推進しうるためには最近の情勢は望ましい方向に動いているといえよう。

もちろん実際には,いくらの援助をどの国がどのようにどこヘ対して与えるのが最も効率的であるかを判断することは非常にむずかしい。ここではそのような具体的問題には立入らず,国手経済全体として,援助の性格とその効果をどのように考えるべきかを検討してみよう。

まず低開発国はなぜ援助を必要とするかである。先進国では国民生産(=所得)が伸びれば増加した所得の相当部分が貯蓄の増大に回り,それが投資の増大となってつぎの生産増加の原動力となる。ところが低開発国では,現在の所得水準が低い上に人口増加率が高いので,彼等の望む経済成長率がかなり高いために必要投資額が大きくなる一方増加した所得の大部分は消費の増大となってしまうので貯蓄に回る部分が少ない。したがって,ある成長率か維持しようとすればどうしても貯蓄が不足してこの部分を海外からの純資本流入にあおがなければならない。純資本流入は,裏を返せば経常取引における赤字である。先進国においても経常収支赤字したがって資本を海外(外貨準備をとりくずす場合には過去の蓄積)にあおぐ場合はしばしば起こるが,これは短期的なものである。低開発国においては,これが恒常的・構造的なものであるために,長期的援助の問題が発生する。

われわれは「純」援助(供与額=返済額)を,ある成長率を維持するために必要な純資本流入であると定義することにしよう。つぎの問題は,低開発国はただ成長して行きさえすれば永久に工業諸国の援助を受けるお荷物的存在であってもかまわないかということである。かつては,共産主義の防止とか慈善とか供与国の発言力の強化のためにはそのような援助も有用であるという考え方が強かった。しかしここ数年の動きによって,このような援助で友情をかちうることはできないという反省が非常に高まってきた。しかも援助の目標として,最終的に彼等の経済を一本立にさせ世界的な構造の不均衡を是正することをねらうようになってきたからには,やがては彼等自身の生み出す貯蓄で必要投資額をまかなえるようになり自律的な経済発展段階にはいる―その時機がいつであるかは別として―ということを想定しなければならないのはもちろんである。


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