昭和36年
年次世界経済報告
経済企画庁
第1部 総 論
第4章 低開発国援助の強化
どの国が年間に何パーセントの成長をするためにはいくらの純援助が必要か,逆にいえば,いくら純援助をやれば何パーセント成長するであろうかを推定するためには,二つのことが必要である。一つはその成長率を維持するために必要な投資額の推定であり,一つはその結果増大する所得の内どれだけが貯蓄されて投資に回りうるかという彼等の貯蓄性向である。このような推定を行うための一つの方法としては,過去何年間かの実績数字にもとづいて統計的にこれ等の構造的係数を測定してこれから将来を予想することも可能である。もちろん低開発国の統計自体にも問題が多く,かつ今後起こるであろう構造変化を予想できないという難点はある。しかし定量的に予測することは不可能であるにしても,定性的にはつぎのようなことを断定しても間違いではあるまい。
(イ)成長率を1%上げるために必要な援助額は,インドのよろな大国においては―国民経済の規模が大きくしたがって必要投資額が多いために―非常に大きいが,経済規模の小さい国ではそれほど大きくなるわけではない。
(ロ)過去の政策の結果,あるいは経済発展段階が低いために消費性向が非常に強い国にあっては,たとえわずかの援助によってかなりの成長ができるにしても―貯蓄の増加が必要投資額の増大に追いつけないために―,援助必要額はふえるばかりで減る見込みはない。
(ハ)いかなる国でも,増加した所得のうち,少しでも貯蓄に回る部分がある限り,―その追加貯蓄を投資に回すことによって―援助なくして成長することは可能である。だからといってその成長率でがまんしろということは―援助を成長のための手段とするならば―明らかに間違っている。われわれは,援助によって成長率をさらに高めることを考えるべきであって,成長率を低めることによって援助額を少なくすることを考えるべきではない。
(ハ)の見地からすれば,援助は多ければ多いほどよい。しかしわれわれは同時に,援助をいかに効率的に行なうかを考えなければならない。このためには,一定の投資が生み出す生産力増強効果を上げることと,一定の所得増加が生み出す貯蓄の額を引き上げるようにしなければならない。これ等のものは各国の政治,経済,社会,文化,の構造に深く根ざしているし,過去何年かの政策によっても相当変化してきている。したがって一口に低開発国といっても国によってかなりの相違が認められる。
現在の段階としては,これ等の条件の良好なものに援助を余計与えるのがよいとはいえるだろう。しかし低開発国援助は必ずしも10年やそこらで回収を期待すべきものではない。また下部構造(infrastructure)改革のためにも資本がかかるのであり,これは採算ベースで回収を考えるべきものではなく,将来投資が回収可能になるような経済の基礎を造るために必要なものと考えるべきである。
したがって援助供与国側は,相手国の現在の構造を分析して問題点がどこにあるかを把握することによって,どのような性格の援助に重点をおくべきかを総合判断しなければならない。また低開発国にあっては,資金に関係のない構造改革への努力,たとえば社会的威信に代わって経済的動機が支配する社会の実現とか,高所得者の貯蓄が生産的投資に向かってどんどん流れるような基盤の育成とか,を推進すべきである。見方によってはこれこそ低開発国発展の根本であり,援助はその補助的手段であるともいえるだろう。