昭和35年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

昭和35年11月18日

経済企画庁


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第1部 総論

第2章 1959~60年における世界景気の特色と問題点

2 西欧および日本におけるドル不足の改善とアメリカ国際収支悪化

西欧全体の対域外入超額は,57年には65億ドルにのぼつたが,58年には34億ドル,59年はさらに25億ドルへと減少した。個々の国についてもイギリス,デンマークなどをのぞき,ほとんどすべての国で貿易収支が改善している。その結果,金・外貨準備高もほとんどすべての習で増加し,西欧全体では58年中に37億ドルふえ,60年6月末までにさらに29億ドル増加した。

日本もまた西欧と同じような推移を示したことは周知のとおりであり,現在でも金・外貨準備高は漸増をつづけている。

その結果,西欧および日本におけるドル不足は解消したが,このような結果をもたらした直接的な原因としては,(イ)対米輸出の増大(ロ)設備能力の増大(ハ)輸入価格の低位安定という3つがあげられよう。

第1に,対米輸出の増大であるが,54年から55年にかけても日本の対米)輸出は1.7億ドル(6.2%),西欧のそれは3.7億ドル(19%)増加したが,58年から59年にかけての増加はさらに著しく,西欧では11億ドル(35%),日本では3,5億ドル(52%)にのぼつた。

第2に,設備能力の増大については,設備能力が55年以来の投資ブームによって大幅に増加したため,供給不足をおぎなうための製品,半製品の輸入があまり行なわれなかった。54年と56年とを比較してみると7石炭,鉄鋼の2つだけで西欧のアメリカからの輸入は輸入増加額の33%を占め,8本もほぼ同様な状況にあった。これに対して58年から59年にかけてはこのような現象はほとんどみられなかったため,前述の対米輸出の好調と相まつて,西欧の対米貿易赤字は54年の15億ドルから58年には27億ドル,57年には38億ドルと増加したのに対して,58年には18億ドル,59年には4倍ドルと著しく減少した。

第3に,輸入価格の低位安定ということであるが,西欧の平均輸入価格は54年の底から56年半ばまで5%上昇し,今回は59年第2四半期までむしろ低下をつづけており,その後60年第1四半期までも1%の小幅な上昇にとどまっている。そのうち一次商品についても,次に述べるように前回にくらべてその騰貴率は比較的低かつた。

以上のような,西欧および日本におけるドル不足の改善は,国際経済の流動性を高めたという意味で,世界経済全体からみれば望ましいことであったが,他面アメリカの国際収支の悪化と金流出をひき起こした。

アメリカの国際収支は58年以来大幅な赤字をつづけ,金の流出もかなりの額にのぼつている。1959年の赤字は38億ドル(IMFへの拠出金13,5億ドルをのぞく)に達し,60年上半期にも年率27億ドルを示した。1955,56年頃の赤字が年15億ドル程度,57年には4.6億ドルの黒字だったのにくらべると著しい変化である。その結果,57年末から60年9月までの間にアメリカからの金流出は44億ドルにのぼり,9月末の金保有高は187億ドルという1940年以来の低水準に下がつた。

むろん,アメリカの金保有高がこのような低水準に下がつたといっても,連邦準備法によって保有していなければならない金準備高よりはかなり多いし,外国の短期債務を今ただちに全部金に換えることを要求することはあり得ないから,アメリカの金保有高はまだ余裕があるといえよう。しかしながら今回のような金流出がつづけば,もちろん大問題である。

しかし,最近の金流出はアメリカと西欧との間の大きな金利差とアメリカの金公定価格の引上げを見越した思惑によるものであって,これについてはすでに対策が講ぜられつつある。なお国際通貨としてのドルおよび金問題については後述される。


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