昭和35年
年次世界経済報告
世界経済の現勢
昭和35年11月18日
経済企画庁
第1部 総論
第2章 1959~60年における世界景気の特色と問題点
1955~56年には原材料の国際価格は,金属を中心としてかなりの上昇を示した。いま,これを国連の一次商品価格指数でみると,55年第2四半期から57年第1四半期までに7%の上昇となっている。それ以後は工業国の経済活動の低下を反映して,59年第1四半期までに13%余り低下した。今回の好況第についてみると,60年初めまでの騰貴率は2%にすぎない。また,海上運賃も前回は大幅に上昇したのに,今回は比較的小幅の上昇にとどまり,56年初めにくらべると60年初めの水準は半分程度にすぎない。
原料商品や海上運賃の安定は,工業国の輸入額を低めに抑え,思惑輸入の発生を防ぐなど,国際収支の改善に大きく貢献しているだけでなく,工業製品価格の安定にも寄与している。
ここ数年来の工業国の物価の動きを眺めてみると,第12図および第13図のとおりである。
フランスだけは例外的に物価が上がつているが,その他の国についてはおおむね(イ)卸売物価,消費者物価ともに漸次安定化の傾向をみせている,(ロ)消費者物価は卸売物価に比して一般的に騰貴気配が強い,という傾向が見いだされる。
このように,一般に物価,とくに卸売物価が安定していることの原因は,過去の投資ブームによる設備能力の増大や,輸出機会の増大等により供給の弾力性が増大したこと,また,これに関連して生産性が向上し,あわせて原材料輸入価格の低位安定,賃金の上昇率逓減等によりコストが低下したこと,さらに主として金融引締めにより超過需要が生じなかったこと等に集約されよう。
また,卸売物価にくらべて消費物価がやや上がり気味であることの原因は,主としてサービス価格の騰貴によると思われる。たとえばアメリカでは,1958年第1四半期から60年第1四半期にかけて卸売物価は0.5%の上昇にとどまっているのに,消費者物価は2.3%上昇したが,この内訳をみると,商品の小売価格は0,8%の騰貴に対しサービス価格は5.7%の上昇を示しているからである。
非工業国の物価の推移も第14図および第15図のごとく,多くの国では,卸売物価も消費者物価もともにおおむね安定していたが,ただラテン・アメリカ等の若干の国では例外的に著しい物価騰貴を起こしているのが注目される。