昭和35年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

昭和35年11月18日

経済企画庁


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第1部 総論

第2章 1959~60年における世界景気の特色と問題点

1 景気変動の型の変化と弾力的景気調整政策

58年から今日に至る世界景気の動向を通じて,その特徴を一言にしていえば,いわゆる景気の過熱状態に至らないうちに景気成熟段1昔に移行したということであろう。

上のような世界景気の推移をもたらした大きな力は,各国における引締め政策の早期かつ弾力的な実施であった。この引締め措置の中心をなしたものは公定歩合引上げによる金融引締め政策であり,アメリカは58年9月早くも公定歩合引上げを行なった後,59年は4回にわたり公定歩合の引上げを行なった。西ドイツは59年9月以来3回にわたり2.75%から5%に引き上げ,イギリスは60年1月から2回にわたって4%から6%に引き上げた。このような金利措置のほか,各国において政府支出の抑制,支払準備率の引上げ,売オペ,消費者信用の制限等の措置が実施された。このような早期の需要引締め政策の採用は今までの景気循環におけるような過熱につづく不況という激しい変動を避け,成長の山を低くしても,不況の谷を浅くすることを望んだものであった。これは一方からみれば,インフレに対して断固たる態度をとり,通貨安定政策を前面に押し出した政策とも考えられる。もちろん国によって,このような政策をとるに至った要因には多少の違いがある。たとえば,アメリカにおいてはインフレ抑制が,西欧においては労働力不足が中心であったということはあるけれども,いずれにしても各国政府が景気の過熱を予防するため,早目に種々の対策を講じ,このため景気の転換が急激な上昇から不況への転落という形をとらず,緩慢な成熟から漸進的な調整過程という形を予見させることは,おおいに注目すべきであろう。

なお,上に述べたような今回の景気の推移については,供給力の増大ということも,一つの要因として見のがしがたいことを指摘しておかねばならない。世界経済発展の需要要因として従来耐久消費財を中心とする個人消費の増大が指摘されてきたが,最近は設備投資の比重が各国とも増大している。このような高い設備投資水準は技術革新と相まつて大きな供給力の増加をもたらした。このような供給力の増大が,物価上昇を抑制し,ある段階においては新しい投資に対する阻止要因となる。そして,このような形での需要ならびに供給の要因の変化は,緩慢な形での景気の成熟と調整をひき起こすと考えられる。

アメリカにおいて1960年は最良の年と予想されていたにもかかわらず,早くも景気後退の兆候が現われたことの原因も,つきつめれば上に述べたような早期引締め政策と供給力増大の2点が指摘されるであろう。すなわち60年8月から生産が下降しはじめた直接の原因は在庫投資の削減にあるといわれ,この場合は前2回の場合と同様であるが,企業がかくも早期に在庫削減に踏み切つた理由は,究極的には最終需要の伸び悩みであり,これには上に述べたような点が大きな影響力を持つたと考えられるからである。

アメリカの場合,最終需要のなかでも最も重要な地位を占める耐久消費財需要の伸び悩みが注目される。二の要因として消費者信用残高の増大が指摘されているが,もしこれが主たる要因であればこの要因は短期的なものであり,やがて調整が終われば事態は好転するはずである。しかし,一部には耐久消費財需要鈍化の要因としで,アメリカにおける消費パターンの変化を指摘する向きもある。これによれば,アメリカにおける乗用車その池の耐久消費財の購入意欲は限界点に達しつつあり,消費者の欲望は現在の耐久消費財から旅行等のサービス支出に変わりつつあるというのである。もしそうだとすれば,これはむしろ長期的,構造的問題を提起するものであろう。


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