昭和34年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

昭和三四年九月

経済企画庁


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第二部 各  論

第五章 「躍進」的発展をうち出した中国

第二節 建設の「躍進」的テンポとその意義

以上,公式資料の検討によると,中国では五八年度において,前例のない経済の急速な成長が行われたことになる。工農業総生産額四八%増,工業生産額六六%増,農業生産額二五%増というような高い成長率は,一般に成長率の点では高いといわれる社会主義諸国においても前例のないものである。中国の第一次五カ年計画期間において,工業の成長率のもつとも高かつたのは,五三年の三一・七%,それについでは五六年の三一・一%であつたが,五八年度の数字はその二倍以上になつている。農業にいたつては,最高が五五年の七・七%で,第一次五カ年計画の五カ年でも二五%の増大にすぎなかつた。国連の五八年度「世界経済調査報告」によれば五八年度のソ連の農業生産増加率は一二%で,東欧諸国の最高はドイツ民主共和国の九%であつた。工業においてはソ連一〇%,その他東欧諸国も一〇%内外であつたから,五八年度における社会主義国の経済発展のうちでも,中国は格段の成長率をうちだしたことになる。ソ連の年間工業生長率がもつとも高かつたのは一九三六年の二九%であつたから,これはソ連の社会主義建設の歴史にもいまだなかつたほどのテンポであつたということにもなる。

中国自身はこのような「建設速度」の問題を「社会主義建設総路線の霊魂」(五八・一〇・一香港「大公報」)だとしている。五八年五月の中共全国代表大会での報告で劉少奇は「建設速度の間題は,社会主義革命が勝利したあとでわれわれの面前によこたわつているもつとも重要な問題である」とのべ,国家委員会主任李富春はこの点を「発展テンポの問題,これは内外の資産階級に対して完全に勝利するという問題でもあるという問題でもあるので,その政治的意義はきわめて大きい」と指摘した(五八・九「平和と社会主義の諸問題」)。

中国が当面「苦戦三年」のスローガンを出し,あらゆる努力をして建設速度を高めようとしている根拠は,中国のおかれた国際的環境と国内的諸条件にある。中国の認識によれば,東西間の経済競争において,決定的な勝利を占めるカギはここ数年間に後進的地位にある中国の経済力を急速に高めることにあり,また国際的緊張にそなえて経済的軍事的力量を増大させることも当面の緊急任務である。また経済建設の成功はアジア・アフリカの後進諸国に対する中国の影響力を急速に増大させ,中国の国際的地位は大きく高まることになる。国内的にみると,反右派闘争によつて国内の資本主義的要素を決定的に弱めたあとで,社会主義的要素をさらに強化するために生産の「躍進」的な発展が要請されているということができる。他の側面からいえば第一次五カ年計画を成功的に完成し,反右派闘争と整風運動をとおして,政治的思想的にも社会主義革命を推進したことによつて,以上のように生産を急速に高めうる条件ができ上つてきたという点も指摘されなくてはならない。


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