昭和34年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

昭和三四年九月

経済企画庁


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第二部 各  論

第五章 「躍進」的発展をうち出した中国

第一節 一九五八年以降における経済の「躍進」的発展

周恩来は五九年四月の人民代表大会における報告のなかで「五八年度の国民経済の発展は,一般の前進ではなくて,巨大な,全面的な躍進である」とその成果を強調しているが,工農業総生産額一,八四〇億元(二七兆六,〇〇〇億円-前年度比四八%増),工業総生産額一,一七〇億元(一七兆五,五〇〇億円-前年比六六%増),農業生産総額六七一億元(一〇兆○,六五〇億円-前年比二五%増)という包括的な指標をとつてみると,まずその成長率からいつて前例のない高さになつている。主要工農業製品である鋼,銑鉄,石炭,食糧など主要物資の生産高はいずれも前年に比べて大幅にのび,基本建設投資額はこれまでのどの年をも上回るほどの多額にのぼつたといわれている。のちに詳しくみるように,五八年度の国民経済の発展については,生産物の質の問題,部門間のバランスの問題などの面で若干の問題点を含みながらも,量的な発展の上では大きな達成がなされたことは注目に値する。

五八年度中国経済発展に関する一般的な指標は第5-1表のとおりである。つぎに国民経済の発展を,基本建設,工業,農業などの各分野について,順を追つて検討してみよう。

第5-2表 最近数年間における工農業対前年成長率

(一) 基本建設

五八年の基本建設投資総額は二六七億元(そのうち国家予算を通ずる部分は二一四億元)で,これは第一次五カ年計画全期間の投資総額の約半分に相当する。この基本建設投資の分配比率は,工業六五%,農林・水利一〇%,交通運輸一三%,その他の部門一二%であつた。五八年中に施工された基準投資額以上の工場,鉱山企業はあわせて一,〇〇〇余項目にのぼり,そのうち,全部あるいは一部完成して生産にはいつたものは約七〇〇項目であつた。生産にはいつた重要企業には,武漢鋼鉄公司の一号高炉,鞍山鋼鉄公司の四号および五号大平炉,武漢大型工作機械廠などがあげられている。また,この年の工業基本建設の特徴は,以上のような大型企業のほかに大量の中小型企業が全国の農村に建設されたことで,その生産分野は,鉄鋼,石炭,発電,セメント,農機具,肥料など各方面にわたり,県以上の地方政権が建設したものは一万五,〇〇〇余,人民公社が建設したものは数百万におよんだ(五八・一二・三〇新華社電)。

農業における基本建設は主として水利,灌慨建設に重点がおかれ,五八年中に四億八,〇〇〇万華畝(三,三〇〇万ヘクタール)の灌慨面積が新たにふえた。中国の全灌慨面積はこれによつて全耕地の二分の一,すなわち約一〇億華畝(約六,六七〇万ヘクタール)に達し,五八年度の農業増産に大きな役割を果し。数本の主要河川に大型貯水ダムと水利センター一七カ所が建設され,堤防が建設・復旧された距離は一〇万キロにおよんだ。

(二) 工  業

五八年度における主要工業製品の生産高,および五九年の計画目標は第5-3表のとおりである。

五八年の工業の発展について特徴的な点は生産財生産部門,とくに鉄鋼の増産に高度の力点がおかれたことである。五八年の工業総生産額のうち,生産財の占める比重は五七%に達し,五七年の五二・八%よりさらに増大した。

生産財生産部門の前年比成長率は一〇三%で,消費財生産部門の三四%に比してとくに急速に発展したことがわかる。若干の生産財の増産はとくに顕著で,その五八年度分増産絶対額は,第一次五カ年計画期間の増産分を上回つている。

生産物の量的発展と同時に,技術的向上の上でも,つぎのような発展があつたとされている。五八年一一月に稼動を開始した鞍山鋼鉄公司の大型固定式平炉は,日産能力一,三○○~一,五〇○トンといわれ,おなじく一一月に出銑した鞍山の高炉は日産能力は二,五〇〇~三,〇〇〇トンで,日本のいわゆる一,〇〇〇トン高炉をはるかに超え,しかも中国自身の設計によるものであつた。大型高炉の有効容積一立方メートルあたり一昼夜の銑鉄生産高は一・九四トンで,五七年比一二%増,平炉炉底面積一平方メートルあたり一昼夜の鋼生産額は七・七八トンとなつて,五七年比八%増であつた。原炭生産における労働者一人あたり一日の採炭量は一・四五トンで,五七年比二五%増であつた。五八年には各部門で新製品試作の運動が起され,各種類の自動車,トラクターのほか五〇〇〇トンの貨物船,民間航空機,ディーゼル機関車などが試作された。

第5-4表 若干生産財の58年増加分と第1次5カ年計画期間増加分との比較

(三) 農  業

五八年度の農業生産は自然条件にもめぐまれて大幅な増産を記録したが,主要農産物の生産高はつぎのとおりである。

食糧総生産高を人口一人あたりにすると,平均約三八五キロになるが,そのうち約四分の一はいも類なので,糧穀だけとすると約二九〇キロになる。

五六~五七年前後にはなお主食の配給制がとられており,都市における配給量は約一八〇キロ前後であつたから,五八年には約一〇〇キロあまりの糧穀がふえたことになる。これによつて各人民公社における主食の供給制(必要量を無料で供給する制度)が実現される物質的基礎がうまれたわけである。水産業については五八年度漁業総生産高が六〇二万トン(前年比一一三%増)となり,日本の同年漁獲高五五〇万トン(農林省推計)を上回つた。

家畜についてはあまり大きな発展はなかつたようで,大家畜は五八年末総計八,五〇六万頭で前年末より「やや増加」,小家畜は二億八,八八六万頭で,そのうち豚は一億八,〇〇〇万頭で,前年よりそれぞれ若干の増加である。

第5-5表 年農産物収穫高および前年比増加率


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