昭和34年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

昭和三四年九月

経済企画庁


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第二部 各  論

第二章 西  欧

第三節 国際収支と外国貿易の動向

(一) 国際収支の改善と金外貨準備の増強

五三年下期以降の経済拡大からブームを経て,その反動期までの期間についてヨーロッパの国際収支の推移をみると大ざつぱにいつて次の三つの時期に分けることができる。

第一期は五五年年央までの時期であつて,この時期においては経済の拡大と貿易自由化の進行により,ヨーロッパの貿易は域内,域外とも拡大したが,国際収支はさして重大な危機に見舞われることなくすんだ。輸入の拡大によりヨーロッパの貿易赤字も増加したけれども,貿易外収入の増加とアメリカの海外軍事支出の増加により十二分に相殺され,経常収支尻は年間一五億ドルないし二〇億ドル近い黒字を出した。

そのため資本勘定面でヨーロッパの純資本輸出がかなり増加(主として政府部門)したにもかかわらず(一九五三年の四億ドルから一九五五年の一〇億ドルヘ),ヨーロッパ諸国の金ドル準備は増加の一途をたどつた。

すなわちOEEC諸国の金ドル準備は五三年に約二一億ドル,五四年に一六億ドル,五五年に七・九億ドル増加1)た。西ドイツを除くと五三年一三億ドル,五四年九・三億ドル,五五年三・五億ドルの増加となる。

第二期は一九五五年下期から一九五七年秋までの時期であつて,この時期におけるヨーロッパ経済は過度緊張とインフレ圧力の増大を特徴としており,一部の設備や労働力に不足があらわれ,物価も高騰傾向をつづけ,輸入の膨張,輸出の阻害から国際収支難におちいる国が増えてきた。そのためイタリアを除いて,殆どすべての欧州諸国が過大需要抑制のために引締め政策の採用をよぎなくされた。

この時期におけるヨーロッパの経常国際収支は,第2-37表のように欧州全体としては依然年間一二億ないし一五億ドルの黒字であつたが,これはもつぱら西ドイツの巨額な黒字のせいであつて,西ドイツを除けばむしろ赤字であつた。

すなわち西ドイツを除いたOEEC諸国の経常国際収支は五五年の黒字八億ドルから五六年の赤字○・四億ドル,五七年上期の赤字八・二億ドルヘ逆転した。

このような経常国際収支の悪化に加えて,欧州の資本輸出が五六年は前年より二倍も増えて約二〇億ドルとなり,その結果西ドイツを除くOEEC諸国の金ドル準備は五六年中に六・八億ドル減少した。

五六年末におけるスエズ問題の発生は商品価格の高騰と思惑輸入をひきおこし,欧州の輸入の膨張と対米収支の悪化をきたした。その結果五七年上期の国際収支はさらに悪化した。西ドイツを除くOEEC諸国の五七年上期における赤字額は八一七百万ドルに達した。

金・外貨準備も五七年一~九月間に七・八億ドルの減少を示した。

五六年はじめから,五七年九月までの二一カ月間に西ドイツを除く西欧諸国は一四・六億ドルの外貨準備を失つたわけである。しかも,この間に,イギリス,フランス,オランダ,ベルギー,デンマークなどがIMFや米輸出入銀行からの借款など特別援助一二・二三億ドルを受けているので,実質上の金・外貨喪失額は約三七億ドルに達する。

ただし西ドイツを含めたOEEC諸国全体としてみれば,五五下期から五七年秋までのインフレ期においても経常国際収支は一応黒字をつづけていたし(ただし黒字額は五五年の一四・六億ドル,五六年の一二・二億ドルから五七年上期の○・二億ドルヘ激減)金外貨準備も五六年末におげるスエズ危機の時期を別にすれば一貫して増加しつづけていたのである。

したがつてこの時期における西欧の国際収支難や外貨危機は主として欧州内部における収支アンバラス,具体的にいえば西ドイツとその他西欧諸国間のアンパランスの問題だつたといえる。

この欧州内収支アンバランスの激化から五七年夏に猛烈な為替スペキュレーションがおこり,イ1ギリス,フランス,オランダ等が外貨危機に見舞われたことは前述したが,同年九月の緊急対策によりスペキュレーションが終息してからは欧州諸国の国際収支と外貨準備は著しい好転をみるに至つた。すなわち西ドイツを除くOEEC諸国の経常国際収支は五七年上期の赤字八・二億ドルから下期の黒字五・八億ドルヘ好転,さらに五八年上期には八・六億ドルの黒字を出した。五八年下期については,若干の国しかわからないが,イギリスのばあいは上期の黒字九・一五億ドルのあと,下期も三・六億ドルの黒字を出した。

このような国際収支の好転を背景として,西ドイツを除くOEEC諸国の金ドル準備は五七年第4・四半期から再び増加に転じ,同期の九・三億ドル増のあと,五八年中にさらに二七・八億ドルの増加をみた。

西ドイツを含めれば五七年第4・四半期に八・一億ドル増,五八年中に三四・六億ドルの増加となり,五八年末における金外貨準備総額は二〇七・八億ドルに達した。個々の国について五八年中における金・外貨の増加額をみると,イタリア(七・八九億ドル)と,イギリス(七・四九億ドル)が最も大きく,西ドイツ(六・七八億ドル)がそれにつぎ,オランダ(四・三七億ドル)と,ベルギー(三・五億ドル)も著しく増加した。

第2-37表 OEEC諸国の経常国際収支

第2-38表 OEEC諸国の国際収支内訳

第2-39表 OEEC諸国の金・外貨準備の増減

(二) 西欧の対米国際収支

西欧の対米国際収支は商品貿易の赤字をサービス取引の黒字とアメリカの海外軍事支出によつて相殺するという形で一九五二年以来黒字をつづけてきた。しかし五三年以降における西欧経済の拡大に伴い対米輸入が膨張し,その結果入超額も五三年の六億ドルから五五年の二一億ドルへと著増した。さらに五七年にはスエズ危機による石油や欧州不作による小麦,余剰農産物処理法による綿花の大量輸入などにより西欧の対米バランスも赤字となつた。しかし五七年下期から五八年にかけてこれらの特殊要因が消滅したのと西欧の景気後退により,対米輸入が大幅に減少,その反面で対米輸出はアメリカの不況にもかかわらずむしろ増加したから,西欧の対米入超額も五七年の三六・三億ドルから五八年の一七・三億ドルへと半減した。そのほか五七年秋の欧州通貨危機にさいしてアメリカに逃避した短期資金の還流もあつて,欧州の対米総合収支尻も前年の赤字から黒字(約一五億ドル)に転じた。

ヨーロッパの対米収支の変動は従来主として貿易収支の変動によつてひきおこされ,また貿易収支の変動は概して輸入の変動を反映していた。対米輸出は趨勢的に増加をつづけてきた。その意味では欧州の対米貿易はアメリカの景気変動よりもむしろ欧州自体の景気変動によつて支配されてきたといえよう。欧州の経済拡大が急速で国内資源により賄い切れぬばあい,アメリカからの輸入が異常に膨張する。五三年以来の経済拡大期においても,石炭,鉄鋼,鉄屑その他の燃料および原料半成品の対米輸入が大幅に増加し,また一部資本財の輸入も増加した。これらの商品は概してアメリカ以外では入手不可能な商品であつた。アメリカの対欧経済援助は近年著しく減少しているが,欧州における海外軍事支出が増加しているので,両者の合計額についてみるとさして大きな変化がない。

第2-40表 アメリカの対OEEC国際収支

(三) 輸出入の動向と貿易尻の改善

一九五八年のリセッション期において,西欧の貿易はどのような動きを示したか。

一九五三年以来の西欧経済の伸長と世界貿易の拡大を反映して,西欧の貿易は輸出入ともに増大の一途を辿つてきた。この増加傾向は,一九五五年のブーム絶頂期を過ぎてからやや鈍化してきたものの,かなり高い増加率で一九五七年まで続いた。しかるに,一九五八年にはいるにおよんで,輸出入ともに減少に転じ,第3,第4・四半期に若干の改善を見たとはいえ,年間で輸出額は前年より○・七%減,輸入額は六・七%減となつた。

輸出額は前年同期比でみて,第1・四半期に一・一%減少,第2・四半期には三・五%と減少の幅を深めたが第3・四半期には前年同期と同じ水準に帰り,第4・四半期には逆に二%前年同期を上回るにいたつた。輸入額は上期に前年同期比九%の下落を示したが,第3・四半期六・二%,第4・四半期一・八%と減少の幅を縮めてきている。これは第4・四半期における西欧の経済活動の動きともほぼ合致している。

一九五八年にみられた輸出の減退は世界的な経済活動の沈滞によるものではあるが,なおこの程度の僅かな減少にとどまり得たのは注目すべき現象である。輸入額の大幅な減少は,世界の経済状勢特に後進国のそれに深刻な影響を与えた。これは一部は西欧内部の経済活動が減退したためであるが,輸入価格の著しい低落がその主たる原因となつた。

輸出入額を国別にみれば,輸入はノルウェーを唯一の例外として軒並み減少しており,減少額が最も大きかつたのはイギリス,フランス,オランダ,ベルギーであつて,この四カ国だけでOEEC諸国の輸入減少の七割に及んでいる。イタリアとスイスを加えれば,六カ国で輸入減少額の九割を占めることになる。比率でみれば,スイス(一三%)オランダ(一二%)が大幅な縮小をみせ,ベルギー,イタリア,フランスは九%程度,イギリスが七%の減少であつた。西ドイツの輸入額は一・四%の減少に止まつた。

輸出額では,西ドイツ,オランダ,デンマークが若干増加,フランスば不変,その他の諸国は減少した。減少額の最も大きかつたのはイギリスであるが,比率ではノルウェー(八・八%),オーストリア(六%),ベルギー(四・五%)が大きい。

このような輸入の大幅減少と輸出の堅調維持とは西欧諸国の入超額の著しい縮小をもたらし,金・外貨準備の急増をよび起して西欧景気の立直りに大いに寄与するところがありた。

OEEC諸国の入超額は一九五三年以来の経済拡大につれて逐年膨張を続けてきた。一九五三年から一九五七年までの輸出の増加率が四五・六%であつたのに対して,輸入の増加率は四五・七%で僅かながら高かつたし,また増加率に大差なくとも,入超額は当然拡大するわけである。しかるに一九五七年後半,輸入の増勢が鈍化するにつれて,この傾向に変化が現われ,入超額は縮小を始めた。一九五八年の入超額はかくして月平均二九〇百万ドルとなり,前年と比較して実に四五%もの減少である。国別にみてもノルウェー,オーストリアを除き,すべての国の貿易尻が改善されたのである。

ところで,西欧の輸出入を数量指数でみると,一九五八年の輸入量は一四一,(一九五三-一〇〇)で前年と等しく輸出量は一四一で前年より一ポイント増加さえしている。したがつて輸入額の六・七%減輸出額の○・七%減は輸出入価格の低落の影響を受けたものであることがわかる。特に輸入価格の低落は顕著であり,OEEC諸国の平均輸入単価指数は一九五七年下期から低下しはじめ,一九五七年の一〇五(一九五三-一〇〇)から一九五八年の九八へ六・六%下落した。一方輸出単価指数は一九五七年の一〇五から一九五八年の一〇三へ一・九%低落したとどまり,かくして交易条件は一九五七年の一〇〇から五八年の一〇五へ五%の改善となつた。もし交易条件が不変であつたとすれば,一九五八年の入超額は月平均四五・八百万ドルとなり前年の五二・六百万ドルからいくらも減少しなかつたであろう。したがつて一九五八年に起つたOEEC諸国の貿易尻の好転月平均二三六百万ドルのうち七割は交易条件改善の結果だつたことになる。国別では,ノルウェーとベルギー,ルクセンブルグ以外はすべて交易条件の改善をみたが,とくに西ドイツ(八%),イギリス(六・七%)の好転が大きく,オーストリア(四・七%)やフランス(四・二%)も大幅な改善であつた。

第2-41表 OEEC諸国の輸出入

第2-1図 OEEC諸国の輸出入数量指数

第2-42表 OEEC諸国の貿易

第2-43表 OEEC諸国の貿易尻

(四) 商品別輸出入の動向

西欧主要国の輸入を品目別にみると,金額においても比率においても原料と燃料が最も大幅な減少を示している。一九五八年一~九月間の統計を前年同期と比較すれば,原料は二二%減,燃料は一五%減であり,両者を合計すれば輸入総額の減少分の九割にもあたる。しかも減少は主要国すべてに及んでおり,生産活動の減退と在庫削減の結果を示している。また燃料の輸入減少は西欧の石炭危機をいくらか反映したものであろう。ただし,石炭危機にあえぐベルギー,ルクセンブルグ,西ドイツ,イギリスなどよりも他の諸国の燃料輸入の減少率の方が大であるが,これは長期契約にもとづく米炭の輸入が引きつづき行われていたため前記諸国の減少率が少なくなつたせいかも知れない。

原料,燃料に次いで減少の激しかつたのは卑金属(一三%),繊維製品(一一%)である。鉄鋼,石炭と並んで今回のリセッションの波を最も大きく被り,衰退産業と目されている繊維が減少している反面,輸送機器(一〇%増)と化学製品はかえつて増加しており,輸送機器,化学製品とも西ドイツの輸入増加率がずば抜けて大きい。金属使用製品の輸入は主要国全体としては前年同期と同じ水準に止つたが,ここでも西ドイツは三割以上の増加を示している。

輸出についてみても,輸入と同様,原料(一五%減),燃料(五%減),卑金属(一一減%),繊維製品(一〇%減)が目立つて減少しており,輸送機器と化学製品は増加している。特に輸送機器の輸出増加は,金額(一,五六九・九百万ドル)でも比率(一四%)でもずば抜けて大きく,金属使用製品も四%の増加である。

国際貿易において成長産業と目されている化学製品,機械類(金属使用製品),輸送機器の三商品グループについて,主要輸出国英,独,仏を比較すると,西ドイツとフランスは三商品グループのいずれにおいても増加を示し,とくに西ドイツの輸送機器輸出は二五%も増加しているのに対し,イギリスは輸送機器以外の二品目において減少している。

製造品の輸出を一括した統計についてみると,世界の主要輸出国一一カ国全体では一九五七年まで著しい増加のあと一九五八年に前年比で二%減少しているが,西欧諸国はかえつて一・五%の増加である。したがつて主要輸出国の輸出合計額に占める西欧工業国の比率は六三・二%から六五・四%へと高まつている。イギリス,ベルギー,スイスが減少したほかは皆輸出が増加しており,中でも西ドイツの伸長は目覚ましく,イギリスを追越して世界第二の製造品輸出国となつた。この傾向は一九五八年後半に入つて益々顕著となり,合計額に占める西欧諸国の比率は六六・四%に増加,西ドイソはイギリスを更に引離した。

第2-44表 OEEC諸国の貿易価格指数および交易条件

第2-45表 西欧諸国の輸入の品目別構成

第2-46表 西欧諸国の輸出の品目別構成

第2-47表 製造品輸出

(五) 相手地域別輸出入の動向

一九五八年における西欧諸国の輸入減少の八割余は域外からの輸入の減少によるものであつた。比率でみても域内二%減,域外一〇%減となつており,域外ではアメリカからの輸入減少が最大で域外からの輸入減少の六割以上を占め,対前年比で二二・五%も減少している。減少の残り四割はラテンアメリカ(前年比一三・一%減)海外スターリング地域(六・九%減)OEEC属領(八・一%減)といつた後進国からの輸入の減少である。東欧・ソ連および日本からの輸入は逆にそれぞれ三%増加している。

西欧に対する日本の輸出の伸びは日本の輸出総額の伸び,とほぼ比例している。増加の著しかつたのは食糧であつた。西欧のリセッションによる輸入減少はこのようにアメリカと後進国からの輸入に集中された感があるが,いずれも一九五八年第2・四半期を底として下期は次第に立直つてきており,特に海外スターリング地域からの輸入は第4・四半期に対前年同期比で○・八%減というところまで回復している。ただし,東欧・ソ連を除いた輸入相手地域を工業国と後進国とに分けると,若干の食い違いがあり,工業日からの輸入は第1・四半期に急激に減少し,以後次第に立直りを見せているが,後進国からの輸入は第1・四半期,第2・四半期と減少,第3・四半期から回復しはじめた。輸出についても同様のラグが見受けられる。

一方輸出額は対前年比○・六%の減少に止つたが,これは対米輸出の伸長によるところがはなはだ大きい。対米輸出は第1・四半期には前年同期を○・二%下回つた事,以後増加を続け,第4・四半期にいたつては対前年同期比二四・二%増を記録した。年間では二四八・四百万ドル,八・八%の増加である。

減少の著しかつたのは域内輸出であるが,後進国のうちラテンアメリカ,OEEC属領向け輸出はわずかながら増加,海外スターリング地減は微減であり,後進国全体としてはほぼ前年の水準を維持している。後進国のうち,ラテンアメリカと海外スターリング地域に対する輸出は第1・四半期以後次第に減少の幅を深めてきているが,これはこれら地域の輸出所得の減少によるものであろう。他方OEEC属領とその他地域に一括される残余の国々は第2・四半期を底としてその後急テンポで回復してきている。

東欧,ソ連向け輸出は前年より一%増加,日本向け輸出は二〇・五%も減少したが,下期には好転してきている。

日本の西欧からの輸入の減少率は,日本の輸入総額の減少率と大差なく,羊毛,金属くず等の工業原料が著しく減少したし,鉄鋼の減少が特にはなはだしかつた。

輸出相手国から東欧・ソ連を除いて工業国と後進国に分けてみると,工業国向け輸出は対前年比一・九%の減少であり,域内貿易の減少が対米輸出の増加によつてかなり相殺された結果とみられる小幅な減少率である。これに対し,後進国向け輸出は○・二%増加している。

四半期別にみると,輸入の場合と同様,工業国向け輸出は第1・四半期に大きく減少し以後回復に向い,後進国向けは第2・四半期が底であつた。

次に西欧貿易の中で特に重要な地位を占める三つの地域,すなわち域内,アメリカ,後進国別に貿易動向をみよう。

域内貿易が各国の輸出総額中に占める割合は三〇%からから八〇%近くに及んでいる。したがつて国によつて程度は異なるにせよ,域内貿易は各国の経済活動を反映すると同時に,国内経済に対して大きな影響を及ぼすのである。

域内貿易は一九五三年以後の経済拡大と域内貿易自由化の進展によつて急速な増加を示してきた。一九五三一五七年間に域外輸出は四〇%増であつたが,域内輸出は五五%伸びている。しかし一九五七年にはいるにおよんで経済活動の停滞を反映して増勢を停止し,下期には低下の兆が現われた。

一九五八年における域内貿易の縮小は西欧の景気後退の反映であると同時に,ベルギー,ルクセンブルグ,スエ―デン,ノルウェー,オーストリア等に対してデフレ的影響を及ぼしたようである。域内輸入を最も大きく減少せしめたものはオランダ,イタリア,フランス,ベルギー,ルクセンブルグであるが,時期的にみるとオランダとフランスの輸入が一九五八年上期に大幅減少を示し,下期に改善に向つたのに対し,ベルギー,ルクセンブルグ,イタリアの輸入は下期に減少している。オランダとフランスの輸入減少は一九五七年春以来国際収支難是正のために引締め措置が強化された結果であるが,これら諸国の域内貿易に占める比重の高いことから,その及ぼした影響が察せられる。

イギリスの域内輸入も若干低下していた。

これに反し西ドイツの域内輸入は増加傾向を続け,他の欧州諸国の輸出水準の維持に資するところ大であつた。しかも西ドイツの域内輸出の増勢が低下し,前年同期比で一~二%低い水準を横ばいしたため,西ドイツ対他の西欧諸国の収支アンバランスはかなり改善をみた。域内輸出の増加した国にはオランダ(八・六%),イタリア(四・一%)があるが,減少の著しかつたのはフランス(八・五%),イギリス(六・一%)であつた。

国によつて域内貿易の変動により蒙つた影響は様々であつたが,西欧全体として見れば,輸入総額の減少ほどには域内貿易は減少せず,また輸出総額はかなりよく維持されながら域内貿易はそれよりもかなり低い水準まで落ちたのであるから西欧は域外からの輸入を大幅に削緘し,域外輸出を増やすことでリセッションのらせん的深化を阻止したともいえよう。

五八年中におけるヨーロッパの国際収支改善と外貨準備増強の原因は,主として貿易尻の改善にあり,そして貿易尻の改善は主として輸入の減少によつてもたらされたものであつた。しかもこの輸入の減少の五割は対米輸入の減少に帰因する。

そこで西欧の,対米貿易の分析がきわめて重要なポイントとなる。元来西欧の対米輸出は西欧の経済活動に対する直接的影響の点ではそれほど重要ではない。OEEC諸国の輸出総額に占める対米輸出の比重は五六,五七年の実績で七%程度であり,サービス輸出を含めてOEEC諸国の国民総生産の一%にしかあたらない(米国にとつては対西欧輸出が輸出額の約三割余を占めている)。

それにもかかわらず対米輸出が重視されるのはドル不足問題との関連からであるが,ドル不足の問題はむしろ西欧の対米輸入の変動と一層大きな関係がある。戦後の経験でみると,西欧の経済拡大の行過ぎで対米輸入が異常に膨張することが対米収支の悪化を招く原因となつている。五四年にはアメリカのリセッションで西欧の対米輸出が一〇%ほど減少したが,西欧の対米貿易尻は五五年以降,つまり西欧のブームによる対米輸入膨張の時期に悪化している。

西欧の対米輸入は西欧の経済拡大がはじまつた五三年から五七年までの間に非常に伸びた。西欧の輸入総額は五三年~五七年間に四七%の増加(同期間における工業生産の伸張率は三一%)であつたが,対米輸入は一一七%も増加している。とくに五五年下期以降の増加率が大きいが,これは西欧の経済拡大1完全雇用の達成につれて鉄鋼や石炭など基礎資材と燃料の輸入需要が増大し,それを賄いうる地域がアメリカ以外になかつたからだ。ヨーロッパのピーク需要をアメリカが充足するという限界供給者的な立場にアメリカがあつたわけである。のみならず,五三年以来ドル輸入の自由化が進展したことも対米輸入の増加を促進した(OEEC諸国のドル輸入自由化率は五三年一月の一一%から五七年五月の六一%へ漸次拡大された)。燃料の輸入についてみると,五五年の三・四三億ドルから五七年の八・七七億ドルへと約二・五倍化であつて,この間における対米輸入総額の膨張額の約三分の一を占めた。このほか特殊事情としては,欧州の小麦不作のために五六年下期に多量の小麦が米国から輸入されたことや,五五年に綿花在庫を減らした欧州に対して五六,五七年に米綿の安売りが行われたこと,またスエズ危機によるアメリカの石油や石炭の一時的な輸出膨張などがあつた。対米輸入を膨張させる循環的要因と特殊要因が重なつたわけである。しかしこれらの特殊な情はおおむね五七年下期頃までに消滅し,他方欧州の経済活動の停滞から欧州の対米輸入は五七年下期から急激に減少に転じた。

五八年上期を五七年上期と比較すると,石炭の輸入は三分の一以上石油の輸入は八割余も減少,このほか原料,半成品の輸入も三割余の減少であつた。この燃料と原料,半成品の減少だけで輸入総額減少分の九割を占めている。これに対して,完成晶の輸入はわずかしか減少せず,食糧の輸入はむしろ若干増えている。

西欧の対米輸出は五三~五七年間に三〇%の増加で,西欧の輸出総額の伸張率四五%に劣るが,これは西欧がこの間経済拡大の一途をたどつたのに対してアメリカが五三~五四年後退を経験し,概して西欧ほどアメリカの需要の圧力がつよくなかつたせいであろう(アメリカの輸入総額自体は同期間に約二〇%の増加にとどまつた)。

この西欧の対米輸出を商品別にみると,増加の大部分は完成品輸出の増加(五三~五七年間に二・二倍)である。(西欧の対米輸出に占める完成品輸出の比重は五三年の二一%から五七年の三六%へ上昇)。完成品のなかでは機械類の輸出も増えているが,とくに乗用車とカメラその他高級消費財の輸出の伸びが大きい。このような完成品の対米輸出の大幅な伸張は西欧商品の相対的な競争力強化を示しているといえよう。

五八年上期と五七年上期とを比較すると,さすがに原料品と半成品の対米輸出は減少したが(一八%減),完成品輸出の増大傾向は止まず約二割の増加である。しかしこの増加の大部分は自動車輸出の増大によるもので,他の消費財や機械類の輸出は微減であつた。

一次生産諸国にとつて,最大の輸出市場は西欧であり(約四〇%),その規模はアメリカ(二〇%)の二倍である。

西欧のなかでもイギリスの比重がとび抜けて大きく,一次生産諸国の輸出市場としてのイギリスはほぼアメリ力に匹敵する。

他面において,後進諸国向け輸出の変動が国内経済に与える影響からみると,アメリカよりも西欧の方が大きい。

輸出総額を占める後進国向け輸出の比重は五六年の実績でアメリカ三八%に対して西欧三三%であつて,あまり変らないが(ただし西欧のなかでもイギリスのばあいは後進国向けが五四%,フランスは四五%と高く,西ドイツは二四%で低い),輸出変動の国内経済に与える影響はむしろその国の産出高と比較すべきであるから,GNPに対する一次生産国向け輸出の比重をみると,アメリカの二%に対して,西欧は六%となつている。

OEEC諸国の一次生産諸国からの輸入は五三年~五七年に三割近くも増加した。

地域別にみると,比率的に最も増加したのがラテンアメリカからの輸入で約五割増,これに対して海外スターリング地域からの輸入は一割余しか増加しなかつた。

むしろ海外スターリング地域からの輸入は五六年以降停滞的であるが,これは主たる輸入先であるイギリスの経済活動が五六年以降全く停滞的となつたせいである。

ラテンアメリカその他地域から欧州向け輸出は,欧大陸諸国とくに西ドイツとフランスの経済拡大につれて急増した。

五七年上期はスエズ危機による商品相場の値上りで,一次生産諸国からの輸入額も膨張したが,下期には欧州の生産停滞を反映して輸入も減少しはじめ,一九五八年には前年より七・二%減少した。

一次生産諸国に対する西欧の輸出は,五三~五七年間に一〇〇億ドル余から,一四〇億ドルへと三七%増加,とくに,五七年には一部後進諸国の経済開発の活発化を反映して,大幅に増加した。

地域別にみると,輸入の場合と同様,ラテンアメリカ向け輸出の伸びが大きい(約五割)が,他の地域向け輸出も三割ないし四割の増加を示した。

五八年上期にはこれら一次生産諸国向けの輸出の増勢も停止し,とくに海外スターリング地域向けおよびラテンアメリカ向けは次第に減少に向つた。

以上のように種々な角度から西欧の貿易を眺めてみると,西欧は自らリセッションを経験しつつ,原料と燃料の輸入を主にアメリカと後進国において削減し,特に後進国に深刻な打撃を与えながら,他方自らのリセッションによる域内貿易の縮小を対米輸出の伸長,特に完成品のそれで補い,後進国向け輸出もかなりよく維持することができた。貿易面を通じて世界的景気後退と西欧の関係を考えると,輸出の伸長が貿易における成長産業と目される自動車,化学製品,機械等において達成され,しかもそれがアメリカおよびその経済阻にはいると考えられるラテンアメリカで増加していることからみても,西欧は,世界的な貿易パターンの変化に自らを適合させることによつて,成長産業の国際競争力を高め,最近までの貿易拡大と経済活動の増強を達成し,また景気後退をアメリカと後進国の犠牲において切抜けることができたといえよう。

第2-48表 OEEC輸出入額の対前年同期比変動率

第2-2図 主要国の輸出総額と域内輸出額

第2-49表 輸出総額に占める域内輸出の比重

第2-50表 各国輸入額の占める比重

第2-51表 西欧諸国の域内貿易

第2-52表 OEEC諸国の対米貿易尻

第2-53表 OEEC諸国の対米輸出

第2-54表 OEEC諸国の対米輸入

第2-55表 一次生産諸国(1)からの西欧諸国の輸入

第2-56表 一次生産諸国に対する西欧諸国からの輸出

第2-57表 西欧諸国の輸出総額に占める一次輸出諸国向け輸出の割合


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