昭和34年
年次世界経済報告
世界経済の現勢
昭和三四年九月
経済企画庁
第一部 総 論
第二章 国際市場と日本
前章で述べた如く一九五七~五八年における自由世界の景気後退はその最も大きな爪跡を後進国経済の上に残した。次頁に示す第24図は交易条件の推移を示したものであるが,先進工業国の交易条件が漸次好転を見せているのに対して低開発国のそれは漸次悪化の一路を辿つていることが注目される。このような交易条件の相対的な木離そしてそれが後進国における甚だしい外貨の枯渇となつてあらわれていることについては,すでにしばしば指摘されていることであつて,今更ここで取上げるまでもないと思うが実質輸入力と輸入実績との関係を第25図に掲げてみた。
この図における実質輸入力というのは輸出額を輸入単価指数で割つたものである。第25図において,四五度線よりも上にこれがある場合には実質輸入力に対して輸入実績の動きは相対的に小さかつたことを示し,四五度線より下にある場合は実質輸入力以上の輸入をしたと見ることができよう。またこの伸びが大きいことは勿論輸入の拡大率が大きかつたことを示すものである。そこでこの図だけで見る限り,日本と西ドイツ,インドとブラジル,アメリカとイギリスの三者がそれぞれ異つた動きを示していることが分る。最も理想的な動きを示しているのが西ドイツであつて西ドイツの場合には実質輸入力と輸入実績とがほぼ見合つた最も安定した輸入の拡大を示したものであるが,日本の場合にはほんとうはもつと輸入出来る筈であつたともいえる。ところがアメリカ及びイギリスの両国は輸入の拡大率がすこぶる小さく,全体として頭打ちの傾向を見せている。またインドとブラジルの両低開発国はいずれもその拡大率もはかばかしくなかつた上に実質輸入カに対して輸入実質は相対的に大きく,いいかえれば実力以上の輸入をしてきたともいえるわけである。
そこで次に第26図にこの実質輸入力と,それらの地域に対して日本からの輸出が,どの位進出)ているかを示して見た。
この図において四五度線より上にあるのは,東南アジアだけであり,西欧及びアメリカに対する日本の輸出は,いずれも四五度線以下にあるから,このことはいいかえれば日本のこれらの先進地域に対する輸出は,実質輸入力に対比して相対的に高く,東南アジアに対する輸出は相対的に低いということになるわけである。
このことはさらに言葉を換えていえば,日本の輸出貿易が前の節でも述べたように,最近特に工業地域に対する結びつきを強くしてきており,東南アジアに対しては東南アジアが持つている輸入力に比べてはるかに小さな比率でしか進出していないということを示すことになるわけである。そこで次に東南アジアにおける日本及び西欧,アメリカの進出の状況をここ数年来の動向について調べてみるとおもしろい関係があることを発見する。というのは,東南アジアに対する日本の輸出品は西欧ならびにアメリカのそれに比べて最も値下りが大きいにもかかわらず,輸出額の伸びは最も小さいのである。皮肉なることに輸出価格の値上りの最も大きい西欧からの輸入が,その輸入額の伸びもまた最も大きいのである。このような動きはいかなる理由によつてもたらされたものであろうか。
そこでその間の状況を明らかにするために東南アジアに対するアメ9力,西欧,日本の輸出品の商晶別の比校を行つて見よう。第24表はその比較を示したものであるが,これによつても明らかな通りに,日本の東南アジアに対する輸出品目はそめ大半が単価のきわめて安い消費物資であるのに比べて,西欧,アメリカ等の他の先進工業国からの輸出はいずれも単価の高い機械,化学製品等の比率がきわめて高いことを知るのである。すなわち先進工業諸国がその工業国間貿易においてきわめて強い競争力を示した高度工業製品は低開発国であるところの東南アジア市場に対しても同じようにきわめて強い競争力を以つて進出して来ているわけである。反面日本の輸出商品のうち,強い競争力をもつているものは先進国市場においても同じような種類の商品であることを知るのである。もつとも東南アジア諸国と西欧諸国との間には歴史的に政治経済上の特殊な関係を見逃すわけにはいかないが,賠償という特殊な経済協力は別として一般的に日本と東南アジア諸国との経済協力の実は未だに十分上つていないことが日本の貿易構造に影響しているといえるであろう。