昭和34年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

昭和三四年九月

経済企画庁


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第一部 総  論

第二章 国際市場と日本

第一節 主として貿易面より見たアメリカと西欧および日本

前章第10表で示したとおり一九五八年の世界貿易は全体として前年に比べ四・六%減少した。その中で工業国間すなわちアメリカ,西欧,日本の三者相互間の増減率を比較してみると次のとおりである。まずアメリカの輸出は全体として対前年一四・四%減少で西欧向け輸出は二三・三%減,日本向け輸出は三二・四%減そいずれも大幅な減少である。これに対し西欧のそれは全体としては○・七%減少でアメリカ向けは八・四%の増加,日本向けは二四・四%の減となつており,更に日本のそれは逆に総体として○・六%増加でアメリカ向けは一四%増加,西欧向けは一・五%増加となつている。つまり,アメリカの対西欧対日輸出は激減しているのに,西欧及び日本の対米輸出は逆に増大しているのである。このような現象が単に一九五七~五八年だけのものであつたかどうか。われわれは貿易面だけでなく,生産段階をもふくめ,ここ数年来のアメリカ経済の動きを他の工業国のそれと比較しながら少しすう勢的に追つて見ようと思う。上に示す第10図は世界の生産に占めるアメリカ,西欧,その他地域の割合を比較したものであるが,一九五三年には全世界の生産の五七%を占めていたアメリカが,一九五八年には四九%に低下しているのに対し,西欧の比重ば一九五三年の三一%から一九五八年の三六%へ高まつている。このアメリカと西欧との間の比重の変化は更に上の第11図によつてより一層明瞭となるであろう。第11図はアメリカ及び西欧における鉱工業生産指数の変化であるが,これによれば一九五三年以降の指数は景気循環とはかかわりなく,アメリカの指数を上廻り,その開きを大きくして来ている。

また第12図に示しだものは貿易のすう勢であるが,ここでもアメリカに対して西欧の貿易が輸出輸入共に高い拡大率で伸びて来ていることがわかる。

ここ数年来世界貿易の一般的な傾向は,工業国同士の貿易が拡大して来たのに対して,一次生産品産出国すなわち低開発国と工業国との間の貿易の比率が相対的に減少してきている。つまり工業国間貿易の拡大であり,また商品別にみれば,化学製品,機械といつたような高次製品貿易の増大である(第13図,第14図)。しかしながら工業国貿易の大宗をなすアメリカと西欧諸国の間だけに限つて貿易の動向を見てみると,工業国間貿易の拡大,高次製品貿易の増大の意味はやや異つてくる。次頁の第21表をみてみよう。

このはOEEC諸国の輸出および輸入の地域別内訳の推移を示したのであるが,これによると西欧諸国の対米貿易は一九五七年から五八年にかけて著しい変化を示しているようである。すなわち,西欧諸国の輸出はアメリカに対しては増大,域内に対しては減少,また輸入の場合には誠内からの輸入の減少よりもアメリカからの輸入の方が激減したということを示している。すなわち同じ工業国同士であるが,アメリカと西欧諸国間には最近になつて西欧のアメリカからの輸入は激減し,逆に西欧のアメリカに対ずる輸出は一九五八年の景気後退の最中においてもかえつて増加した上いうことが分るのである。またこのような西欧の対米貿易の変化がどのような商品によつてもたらされたかをみると,西欧のアメリカに対する輸入の減少の多くは原料及び燃料の減少によつて,また西欧のアメリカに対する輸出の増大は主として完成品特に自動車の増大によつてもたらされたことを知る。逆にアメリカの輸出の減少の中で最近に至つて特に完成品の輸出の減少が目立つてきている。

以上のように鉱工業生産の比重において,また工業国間市場にしめる割合において,アメリカのもつ絶対的優位の地位へ西欧諸国がわずかずつ接近していつているということは何を物語るのであろうか。その一つに,アメリカ工業製品の輸出競争力の相対的低下逆に西欧諸国の競争力の強化があると思われる。

最近ベルンシュタイン氏はアメリカの工業製品の輸出競争力がまだ失われていないということを論証する論文の中で,その材料の一つとしてこの第15図をかかげているが,なるほど,イギリス,フランス等の西欧の主要国はアメリカと同じように世界の工業製品輸出額の中の比重を若干低めつつあるけれども,西ドイツ及び日本の躍進はそれを相殺して余りあり,結局全体としては世界の工業製品輸出の中でアメリカの優越的地位が最近漸次減退しつつあることを示すものと見た方がよいのではなかろうか。

一つの例をあげておこう。アメリカの最も有利な市場であるカナダ及びラテンアメリカに対するアメリカと西欧諸国の輸出度合を比較してみよう。第22表は一九五二年を一〇〇にした場合の一九五七年における西欧諸国とアメリカの輸出額指数である。全輸出額ではカナダにおいてアメリカは一三〇であるのに対して西欧は一六八であり,ラテンアメリカにおいて前者一一四に対して後者は一二五と,いずれも西欧諸国の伸長度合が優つており,中でも投資財についてそのことがより明確となつている。

そこで次に全米産業評議会(NICB)が行つたアメリカとその他の国々との生産コストの比較研究の結果をかかげてみよう。これは第23表注にも示してあるごとく,世界の主要な国々における合計一七九の工場について調査を行い,その結果を各国毎にアメリカを一〇〇としそれに対して他の国々がどれ位の比率になつているかを示したものである。国によつて調査対象になつた工場の種類が異るために基準となるべきアメリカの労務費,原料費,問接費の比率は異つているけれども,しかしこの表を通じていえることはアメリカの工業製品の生産コストが主要な工業国に対して相対的に割高傾向にあり,アメリカが相対的に割安であるのは,低開発国に対する場合に多いということ,またアメリカが割高である場合はいうまでもなくアメリカが割安の場合といえども,労務費を比較してみると,殆んど例外なくアメリカの方がその比率が高いという事実,また,割高である場合にば間接費が例外なく高いという事実である。

この結果表では,間接費の内容が詳らかにされていないから,それにもとづく判断は差し控えるが,少くとも,アメリカのコストが他の主要な工業国に対して相対的に高いのは,労務費の比率が大きいことによつているといえる。

上述のようにアメリカにとつて最も有利と思われる市場における輸出の伸長度合,及び生産コスト比較の二つにおいていずれも西欧諸国がアメリカに優つているという事実は,アメリカの工業製品の競争力が西欧のそれに比べて,相対的に低下してきているといえるのではないだろうか。

もちろんこの二つの事例調査から即断することは危険であるし,もしそう判断することが許されるとしても,アメリカの絶対的優位性をくつがえす程の問題ではないかもしれないが,少くとも西欧諸国の競争力がアメリカに接近しつつあることだけははつきりしている。

西欧の経済力の評価を行うにあたつて見のがすことが出来ないのは昨年末に行われた通貨の交換性回復と,今年の初頭に結成された共同市場である。

この二つの事態が昨年の末から今年の初にかけて何故行われたか,この間に答えることはとりもなおさず西欧の経済力の最近の特徴的なすう勢を物語ることになるであろう。西欧の共同市場の目的とするものは,貿易上の措置もさることながら,資本並びに労働の移動の自由ということを通じて西欧経済のより一層の近代化を行おうとしたことである。

ここ数年来の傾向として,アメリカに対して西欧が貿易並びに鉱工業生産の比重を相対的に高めつつあることは以上に見たとおりであつて,その結果昨年末通貨の交換性を回復した時には,西欧諸国の金・ドル保有高は著しい改善の跡を見せていた。一九五〇年には,イギリス及び欧州大陸諸国の保有外貨総額は,約一〇〇億ドルで,アメリカの半ばにも達しなかつたものが,昨年末現在ではそれが二〇〇億ドルに達し,アメリ力とほぼ比肩し得るに至つたのである(第16図)。

このような西欧の全般的な経済的地位の改善が,通貨交換性を可能にしたことは今更いうまでもないけれども,ことに通貨交換性回復以後の西欧経済は,当初の予想よりも更に順調な足どりをみせ,交換性回復当時,恒常的債務国ととして,いわゆるヨーロッパの病人といわれていたフランスの地位さえ,その後著しく改善して,今やフランスがヨ―ロ―パの病人といわれたことは昔語りになろうとしている。すなわち,かつて保有外貨が五億ドルというような状態であつたフランスが一九五九年内には二〇億ドルもの保有外貨を持つであろうといわれている。

西欧の経済力の向上は,アメリカから西欧に対する援助額の推移から背うかがい知ることが出来る。すなわち,第17図に示すように,一九五〇年以降の推移をみると経済援助はいうまでもなく,軍事援助でさえも激減している。これはとりもなおさずアメリカのドル援助を受けなくとも西欧の経済が自立してやつていけるようになつてきたことを意味するものであろう。かつて,終戦直後アメリカとアメリカ以外の国々との間にドル不足という現象があつて,それが久しい間の世界経済の課題になつていたこともまだわれわれの記憶に新しいことである。

このような西欧経済の進展から見て推察されることは,今やアメリカとアメリカ以外の先進工業国なかんずく西欧との間にはドル不足のギャップが埋められて,いわゆる国際流動性の増大のあとが著しいものがあろうということである。更にこれをアメリカの西欧に対する投資の推移という点からながめると,アメリカの対外投資の中で対欧投資の比率は年を追つて多くなり,アメリ力の資本にとつて最も好ましい投資先が西欧工業国であることをものがたつている。

ここでもう一度,先にかかげたNICBの調査結果を想起してほしい。アメリカの工業製品の生産コストが他の主要工業国のそれに対して最近割高になつてきていること,しかもその有力な原因が労賃コストの比率の増大にあるということ,このことはアメリカの工業にとつて軽視できないであろう。すなわち,従来アメリカの工業製品と他の先進工業国,とくに西欧の国々の工業製品との比較においては,アメリカは西欧に比べて著しく労賃が高いが,他の費用がその高度の合理化のために労賃コストの割高を相殺して,結果においては大きな競争力をもつているといわれていた。ところが,最近では西欧工業国の合理化の進展によつて,そのようなうま味がだんだんなくなつて労賃コストの差が漸次むき出しになり,このことがアメリカの製品コストの割高となつてそのままあらわれて来ているようである。その場合,アメリカの工業として当然考えられることは自国において,より一層の合理化をすすめるか,あるいは自国の労賃を切下げるか,さもなければ他の労賃が安くてしかも十分に合理化している地域に資本を進出させるか,そのいずれかといわざるをえなくなる。その場合,労賃を切下げることはもとより不可能なことであり,また合理化をこれ以上すすめれば現在問題になつているプロダクティビティ・アンエンプロイメントをますます大きくさせることになろう。とすれば当然アメリカの資本として当面とるべき方策は,第三の道,すなわち,十分に合理化されていて,しかもアメリカよりも労賃の安い地域への進出ということになる。これすなわち,アメリカ資本の西欧に対する加速度的な進出の背景というべきであろう。したがつてこのようなアメリカ資本の動きもまたアメリカの工業製品の輸出競争力が西欧のそれに対して漸次低下して来ていることのあらわれだと見られなくもない。

これに対して日本の経済の動きはどうであつつたろうか。日本もまた表面的には一九五八年の対米貿易は予想よりも堅調あり,アメリカに対して相対的に輸出競争力が強まつたことを示した。

また同様に,ここ数年来の日本の貿易の動きをみると第18図に示すように形の上でば明らかに対工業地域に対する貿易の増大なかんずく対米貿易が増大をつづけており,したがつて表面的な動きだけを比較すれば,日本の貿易と西欧の貿易とはきわめて相似た動きをして来ているようにみえる。すなわち,日本もまた工業国間貿易の増大という世界的風潮にその歩調を合せているようにみえる。

そこで,日本の北アメリカ並びに西欧の二大工業地域に対する貿易商品の動きと他の工業諸国のそれを比較すると,次頁に示す第19図の如く,最も対照的な相違は日本の場合は繊維品の比重がきわめて高く,機械類の比重がまだ相対的にきわめて小さいという事実である。

そこで,更に問題をはつきりさせるために日本とイギリス並びに西ドイツの地域別,商品別貿易の比較を試みたのが次頁以下に示す第20,第21,第22,第23の四図である。

この両者を通じて共通的にいえることは,日本は西ドイツやイギリスのような西欧の工業国に比べ,繊維品輸出の比重がきわめて高く資本財の比重が低いこと,また輸出相手国の比較では彼等は対西欧貿易の比重が高いということである。したがつて同じく工業国間貿易とはいうもののかれらの貿易パターンと日本の貿易パターンとでは商品別にいつても,地域別にいつてもかなり異つていることがうかがわれる。そこでアメリカ市場において日本,イギリス,西ドイツの三国がどのような関係にあるかをもう少し詳しく分析してみよう。まずアメリカ市場において,日本,イギリス,西ドイツ三国の輸出品目のうち,上位一五品目をかかげてみると次のようなものである。

日 本  1生糸 2ベニヤ板 3陶磁器 4魚介類調製品 5綿織物 6衣類 7木製品 8パルプ,紙及び板紙の製品 9動物性油脂 10船舶 11雑機械 12雑品 13冶金用非鉄金属 14繊維または繊維製品を主として用いた製品 15織物(綿織物等を除く)

イギリス 1組立家具及び部品 2金及び白金属の金属 3道路走行車両(原動力機つぎ)4けん引車 5砂糖菓子等 6アルコール飲料 7貴石,半貴石及び真珠 8航空機 9原動力機 10織物類のくず 11道路走行車両(原動力機なし)12敷物類 13織糸及び糸 14鉱物製品 15革類

西 独  1道路走行車両(原動機つき)2維機械 3事務用機器 4電気機器 5道路走行車両(原動機なし)6コールタ―ル染料 7革類 8産業機械 9衛生,水道用具等 10金属加工機械 11鳥獣肉類 12金属製品 13ガラス製品 14革製品 15有機薬品

これらのリストを,見てただちに気づくことは,日本の優位商品には特産品や軽工業品が多いということである。すなわち上位一五品目のうち,いわゆる重化学工業品とみなされるものは,西ドイツが九から一〇,イギリスが四から五であるのに対して,日本は二から三に過ぎない。もう一つ注目すべきことは,相対的な増加率,すなわち,一九五七年と一九五三年の両年において,アメリカの日本からの輸入額の増分とアメリカの日本以外からの輸入額の増分の比をとつて比較してみると(以下西ドイツ,イギリスついても同様の計算を行うものとする),イギリスは対象品目九六のうちこの比率が一よりも大きくなるものが三〇で総数の三一%,西ドイツは七五品目中四八で六四%であるのに対して,日本は全六七品目の約七〇%に上る四七品目が一よりも大きくなつている。更にこの比が二よりも大きい品目数は,イギリスが四,西ドイツが四,西ドイツが一七であるのに対して日本では全品目の三分の一の二二品目に上る。というようにアメリカの市場に対してこれらの日本商品は非常に高い増加率で進出していることが分るのである。しかしながら更にここで,注目しなければならないのは,国際競争力の点からいつて,優位にある商品と需要の成長率が高い商品とが必ずしも一致しないという事実である。今日本のアメリカへの総輸出品のうち上位一五品目について,一九五三年実績に対する一九五七年の比率をそれぞれ比較すると次のとおりである。

一,生 糸      ○・九五        二,べニヤ板                 一・七一

三,陶磁器      一・四八        四,魚介類調製品               一・二五

五,綿織物      一・六一        六,衣  類                 二・〇七

七,木製品      一・六一        八,パルプ紙及び坂紙の製品          二・一八

九,動物性油脂    一・〇〇       一〇,船  舶                 一・七四

一一,雑機械     一・九八       一二,雑  品                 一・九〇

一三,冶金用非鉄金属 一・二六       一四,繊維または繊維製品を主として用いた製品  一・二〇

一五,織物(綿織物等を除く)一・二六

上位一〇商品について平均をとると,一・五六,一五商品の平均は一・五五となる。同じ比率をイギリスと西ドイツについて算出してみると,前者は一・九六と一・七九,後者は二・二二と二・〇八でいずれも日本よりも高い。この数字から判断すると,アメリ力市場における国際競争力と需要との対応関係のよさは西ドイツ,イギリス,日本の順となつている。したがつて長期的観点からみた場合,当面アメリカの市場に洪水のごとくに進出している日本の輸出商品も決してアメリカ市場における需要の成長率と充分に合致しているものとはいい難く,むしろイギリス,西ドイツの,それの方が需要の成長率と一致していることをうかがい知るのである。このように日本と西欧との輸出構造は実質的にはかなり異つた姿をしており,日本及び西欧の輸出競争力が世界経済の中において,相対的に強化されできたこと事実であるとしてもその実態的な内容についてはかなり異質的なものであることを知らねばならない。

そこで話を再びもとに戻して,アメリカの経済政策の帰趨についての展望を試みようと思う。アメリカの経済政策は周知のように,伝統的に国内市場第一主義であつたことは,従来のアメリ力の経済の性格が他の先進工業圏すなわち西欧,日本等に比べて著しく貿易依存度が低く,いわゆる封鎖体系の経済であつたからである。いいかえるならば,従来のアメリカ経済においては,国際収支はさして重大な問題ではなく,より極端な表現をするならば,国際収支に対しては余り心配しなくてもよい経済であつた。したがつて従来景気が悪くなれば,財政を増やし賃金を上げていわゆる高賃金→高生活水準→経済繁栄の方式に従えばよかつたのであり,事実今までのアメリカ経済はその巨大なる国内市場の存在の故にその筋書通りに推移し,いわゆる高賃金,高生活水準のアメリカ方式というものが世界経済の中における一つの典型であるかのように見えた。しかし最近特にやかましく論ぜられる金流出,そしてまた前述したごとき工業製品の輸出競争力の相対的低下が軽視できないものであると指摘されるならば,アメリカの国内において従来の伝統的な経済政策をこのまま持続してゆくべきか否かということに対して反省の目を向けはじめるであろう。また現にそうした動きがあらわれている。このことは西欧並に日本にとつて重要な関心事であるといえる。アメリカの経済政策が,国内均衡主義から国際均衡主義に傾いていくとすれば輸入制限を強化するか,あるいは綿花補助金の引上げにみられる如き輸出産業振興のための措置がとられるであろう。もしアメリカが今後輸入制限を強力に押しすすめるようなことになれば明らかにそれは世界貿易ひいては今後の経済成長に対して大きなブレーキとなるに違いない。最近アメリカ国内においても,いわゆる安定か成長かの論議がやかましく論ぜられていることは周知のとおりであるが,ソ連の七カ年計画等を持ち出すまでもなく,アメリカの経済政策が今後積極的な成長政策にふみ切るか,あるいは国内安定に傾くかは自由世界にとつて大きな関心事となるに達いない。これを我が国との関係について考えても,もしアメリカがこのような国内引締めを強化するようなことになつた場合に,我が国からの輸出品目が特産品,雑貨類等の消費物資を主としていることを考えれば輸入制限その他の措置によつて今までも大きな障害をうけてきている傾向が更に一層加重されるであろうことは容易に想像できることである。更にまたもしアメリカの経済政策が自らの輸出産業の振興に対して本格的な対策を取ろうとした場合に西欧並に日本はそれに対してどのような対応の仕方をするであろうか。今までの記述ですでにおおむね明らかになつた思うけれども答は明らかに不利のようである。日本の輸出競争力はアメリカに対して相対的に強くなつた,あるいは日本の貿易が世界貿易の風潮と同じように工業国間の貿易の増大の線に沿つているということの本当の性格がどのようなものであつたかをわれわれは見て来た。すなわち日本の貿易は表面だげの工業国間貿易であつてその実態は多分に後進的な性格を残しており,少くとも西欧のそれとはかなり異つた姿のものであつた。そのような姿のままもしアメリカがほんとぅに自らの輸出競争カ強化のために本腰を入れて立ち上つたとしたならばその影響は少くとも西欧に対する影響の何倍もの大きさになるのではなかろうか。西欧の通交貨換性回復以後,わが国においてもようやく経済の体質改善という事が大きく取り上げられているけれども,果してその意味する所をどれ程現実的にまた具体的に理解し取り上げているであろうか。