昭和33年
年次世界経済報告
世界経済の現勢
経済企画庁
第九章 東南アジア経済の危機的様相
東南アジアの戦後の外貨事情は第9-11表に明らかなように一九五一年の保有量が最高を示し,それ以後その蓄積を食いつぶしている状況下にある。一九五〇年六月の朝鮮事変の勃発をきつかけとして,東南アジアの主要輸出商品価格は急騰,輸出額は飛躍的に増高しその出超額は,一九五〇年に八億二,四〇〇万ドル,五一年は七億六,五〇〇万ドルと二カ年連続的に巨額を記録した。それを主因としてほとんどの国の外貨保有量は増加している。それ以後一九五四年まで継続的に減少し,一九五五年の景気もち直しを反映して若干好転したが,それもつかの間で本年三月には最高時の半分にちかい減少状況を示した。その減少状態は特にインド,インドネシア,フィリピン,パキスタンにおいて目立つており,この四カ国の本年三月末の外貨保有額は,一九五五年末の二六億二,三〇〇万ドルに対して一一億八,八〇〇万ドルと著しい減少を示している。
このような最近の著しい外貨準備の減少は,いうまでもなく,主として経済開発の実施による輸入の増大に原因するものであるが,各国ともこの対策として,一方では輸出振興と輸入抑制によって貿易収支を均衡化する努力がなされ,他方外貨導入についての努力がなされている。
現在のところ東南アジア諸国の外貨涸渇を緩和するために大きく役立つているものは外国の援助であるが,外国経済援助に対する依存度の最も高い国はカンボジア,ラオス,南ヴエトナムであり,パキスタンでは政府の開発支出の四五%以上が援助に依存しており,ネパールのばあいは七〇%にもおよんでいる。インドも急速度に各種の海外援助の大きな受益国となりつつある。
援助計画のうちで最も大きなものはアメリカで,一九五六年度においてICAのECAFE諸国向け計画分は九億五,八〇〇万ドルにおよんでいる。農産物貿易振興・援助法による,この地域への割当ては一億八,二〇〇万ドル,このほかに開発貸付基金(Development Loan Fand)の割当てもあるはずであるが,これは現実の割当てまでにはいたっていない。ソヴエトの援助は,アフガニスタン,インドネシアなどに拡大され,その援助の規模も全体としてますます大きくなりつつある。インドはソヴエトの供与した一二億三,〇〇〇万ルピーのクレジットを利用して重機械,建物,火力発電所等の建設にあてており,昨年一一月に妥結した協定に基づいて一二月一四日には八件の契約が成立し,重機械,炭鉱施設,ガス工場,褐炭工場,火力発電所等に投じられた借款額は合計五億ルーブルにのぼつたとみられている。インドネシアは一九五六年九月,化学,パルプ,紙,セメント等の工場建設と鉱業,ならびに電力開発の資金として一億ドル相当の工業クレジット提供の申入れをうけ,この借款取決めは五八年二月初旬インドネシア議会で批准された。
アフガニスタンは道路建設その他の公共事業と軍需品に対する三○力年一億ドルの贈与をうけている。ビルマのばあいは,一九五七年一月に各種の建物,設備と裾付を内容とする約九〇〇万チヤツの協定の成立を見た。その他中国は,北ヴエトナム,ガンボジア,ネパール,セイロンとの間に援助計画をすすめている。
ヨーロッパの東南アジアに対する経済援助は,カンボジア,ラオスおよび南ヴエトナムに対するフランスの援助,西独のインドとの間に締結された一九五七年の延払協定等がある。コロンボ・プランはー九六一年六月まで延長されることになつており,世界銀行貸付総額は一九五七年六月末でインドに対し三億三,四〇〇万ドル,パキスタンに七,七〇〇万ドル,タイに対し四,一〇〇万ドル,ビルマとセイロンに各一,九〇〇万ドルとなつている。