昭和33年
年次世界経済報告
世界経済の現勢
経済企画庁
第九章 東南アジア経済の危機的様相
東南アジアの輸出貿易における変動のはげしさは,従来から先進工業国の東南アジア主要輸出商品に対する,わずかの輸入需要の変動でも輸出価格と輸出数量とに相乗的に現われることを原因とするといわれてきた。このことについてはECAFEの一九五七年の経済概観が適切な分析を行っているので,それをここで紹介して見よう。ECAF Eのこの作業は,輸出価格と輸出数量との相関関係から輸出額変動への影響を分析したもので,ゴム,綿花,ジュート,砂糖,コプラ,錫,石油,米,茶の一〇品の一九五六年間の平均変動(一〇〇分比)を出し,それと,この間の輸出額の年平均変動率を照応したものである。それによると,輸出単価の変動率はフィリピンの砂糖と石油は例外的に一〇%以下であるが,米(タイ),茶(セイロン),錫(インドネシアとマラヤ),砂糖(台湾),アバカ(フィリピン)ば一〇%から一五%であり米(ビルマ),コプラ(フィリピン),綿花およびジュート(パキスタン)は一五%から二〇%,変動率の最も高いものはゴムで三〇%にも達した。なお一〇種商品全部の変動率の単純平均は約一五%とされている。
これに対し,輸出数量の変動率を見ると,大体において価格の変動率と同じか,または若干小幅であった。セイロンの茶,インドネシアの錫,マラヤのゴムのばあい輸出数量の平均年間変動率は五%以下であったが,その他の商品のばあい一〇%から一五%までのものは石油(ブルネイとインドネシア),錫(マラヤ),ゴム(インドネシア),コプラ(フィリピン),米(タイ)であり,一五%から二〇%までのものは米(ビルマ),砂糖(フィリピン),ジュートおよび綿花(パキスタン),アバカ(フィりピン)であって,砂糖(台湾)の変動率は三二%であった。一〇種商品全体の単純平均による変動率は一四%であった。
輸出額の変動は輸出価格が輸出数量と大体同じ方向に動くばあいには価格と数量の変動よりも大きいであろうし,また価格と数量が反対の方向に動くばあいには,少なくとも価格と数量のうち変動の幅のヨリ大きいものよりも小幅となるであろう。ここで問題とされている期間を通じた輸出額の平均年間変動率が輸出価格または輸出数量ないし両者の変動率より小幅であつた商品は,わずかに米(ビルマとタイ),砂糖(台湾)および茶(セイロン)だけであつた。その他の商品のばあいにはすべて輸出額の変動率が価格と数量のそれよりも大幅であった。換言すれば,輸出数量の変動が価格不安定の影響に拍車をかけたわけである。実際また,一〇種の商品のうち輸出額の平均年間変動率が一〇%以下のものは一つもなかった。変動率が一〇%から一五%のものは米(ビルマとタイ),茶(セイロン),錫(マラヤ)および石油(インドネシア)であり,また一五%から二〇%のものは砂糖(フィリピン),錫(インドネシア),および石油(ブルネイ)であった。二〇%から二五%までのものば砂糖(台湾),コプラ(フィりピン),ジュートおよび綿花(パキスタン)およびアバカ(フイリピン)であり,三一%から三三%までのものはゴム(インドネシア,マラヤおよびエカフェ地域全体)であった。また一〇種商品の変動率の単純平均は二〇%であった。
かかる価格変動のはげしさについては,従来需要の変動が主要因とされてきた。しかし,もう一つの要素として,東南アジアの主要輸出商品の生産発展が先進工業国における輸入需要の増加速度を上回っているということ,つまり供給過剰からもたらされるものであるとする解釈も行われている。
東南アジアの八つの主要商品の一九五〇年から最近までの輸出価格は第9-10表のようにいずれもかなり変動のはげしさを示しており,最も変動の幅の大きい商品では二・五倍以上の動きが見られる。そして全体的には一九五一年の朝鮮動乱期が最も高く,一九五四年から五五年にかけて谷底を示し,それが一九五六年に若干回復しているが,一九五七年下期にふたたび下降を示している。