昭和33年
年次世界経済報告
世界経済の現勢
経済企画庁
第九章 東南アジア経済の危機的様相
一九五七年の東南アジア諸国の物価動向は国によってちがいはあるが,概していえることは戦後において最も騰貴の幅の大きかつた年であるといいうる。
これまで比較直安定をたもつてきたインドですら,対前年比で一〇%以上の上昇を示している。インドネシアに至つては,国内の政治不安定のためもあって,一九五三年を一〇〇として昨年第三・四半期は一六三という著しい様相を示した。フィリピンもいままで安定を得ていた国であるが,昨年の上昇はかなり目立つている。
このような最近における一般的な値上りは,一つは貿易の項で見たごとく,資本財輸入を確保するために消費財輸入の抑制方針をとつているのと,日常必需物資の不足が徐々にあらわれてきていること,他の一つは経済開発の投資が多くなり,国内の購買力が上昇してきつつあることである。つまり,経済開発のための投資が増大し,それにつれて国民の購買力が大きくなりつつあるにもかかわらず,消費財の供給が減少していることからもたらされるものである。このことはインドネシアを別とすれば比較的経済開発に大きな力をそそいだ国において,物価上昇の幅の大きいことに遺憾なく示されている。
各国の物価の動きは通貨価値の上にも現われている。すなわち一九五六年一月から最近までの公定レートに対する自由価格変動比率を見ると,比較的小幅に動いているのはタイ,マラヤ,インド,香港の四カ国であり,これらの国で本一〇%未満の動きでしかない。これに対し他の国の動きはかなり大幅で,インドネシアのごときは一九五六年一月の二八三から昨年九月には四三九という大幅な動きを示している。