昭和33年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

経済企画庁


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第九章 東南アジア経済の危機的様相

三 工業化の現段階と生産の発展

東南アジア諸国で工業生産が国内純生産の二〇%ちかくを占めている国は香港,インド,マラヤ(シンガボールをふくむ)の三国にすぎない。インドは地域内では工業化率の高い国であるが,それでも主要工業品の生産水準を一人当りで見るときわめて低い状態にある。しかし全般的には国内,純生産に占める製造業,鉱業の比率は目ざましい速度で伸長している。インドの国内純生産に占める工業の比率は,一九五〇年に一六%前後であったが一九五五年には一九%へと着実に上昇しており,パキスタン,フィリピン,ビルマ,タイ等は二〇%以下の国々であるが,これらの国のうちではパキスタンの工業の躍進ぶりが目立つており,国内純生産に対する工・鉱業の比率は一九四九~五〇年度の七%から一九五五~五六年度には一一%に上昇した。

この地域の工・鉱業生産を,一九五二年から五七年にかけての主要生産商品に関するECAFEの資料にもとづいて分析して見ると第9-5表のごとくである。

この資料で注目されることは,(1)各品目ともその生産上昇率がきわめて大きいこと,(2)対前年比増加率では一九五七年のそれが,五六年に比べて,いちじるしく低下しているもののあることである。もつとも一九五七年の数字は上半期だけの実績を土台とするものであり,これによって結論ずけることに無理はあるが,しかし,この鈍化のはげしさ,つまり生産の不安定牲は,東南アジア経済の一ぶす一つの特金と見ること亦できる。

ECAFEの資料に示されたこの主要商品の生産は中国,日本その他の極東諸国をもふくむものであるが,東南アジアだけについて一九五二年以後の状況を見ると次のごとくである。石炭の生産はインド,インドネシア,マラヤ,パキスタンの四カ国だけであるが,インドの一九五七年月平均生産は三六二万トンで,五二年に比べて約二〇%の増産となっているが,その他の国は減少か横這いできわめて振わない状態にあり,インドネシアのごときは一九五二年の月平均生産八一,〇〇〇トンが,五七年第三・四半期には五三,〇〇〇トンに減少している。地域内の石油生産国はプルネイ,サラワク,ビルマ,インドネシア,パキスタンであるが,生産ののびの目立つているのはインドネシアで,一九五七年の第三・四半期の月平均生産は一,三五八,〇〇〇トンで,五二年に比べて約二倍ちかい生産増を示している。その他の国ではなお戦前生産をはるかに下回つている。

電力生産は第9-5表によると,一九五七年の対前年比増加率は一九五六年に比べていちじるしく低下しているが,しかし,インドの一九五七年の生産は九億○,六〇〇万KWHで,対前年比で一二・六%増,対五二年比では七六%の増加となつており,五カ年計画の多目的プロジェクトが全般的に進捗するにともなつて,電力生産も著増していることが知られる。ここ数年来の電力生産の傾向は,主要工業センターよりも,工業化の遅れた地域において著しいものがある。このことは域内電力生産に占める日本の比率が,一九五二年の七四・一%から一九五六年の六七・九%へと不断に下向している事実からうかがうことができる。

インドの粗鋼生産は一九五二年の月平均が一三一,五〇〇トンだつたのに対し一九五七年第四・四半期は一四八,三〇〇トンで,それほど大きな発展が示されていない。インドではすでに既設備がフルに稼動し,しかも新設の大製鉄工場はまだ完成に至っていないことによるものである。セメントの東南アジア地域内の生産は一九五二年の月平均四〇五,七〇〇トンであつた。それが一九五七年第三・四半期の月平均は五二五,四〇〇トンで,年平均約六%という著しい増加率を示している。これは大部分の国が,急激な需要の増大を国内でまかなう必要からきているものであるが,とりわけインドと。パキスタンの増産が目立つている。世界のセメント生産高に占めるKCAPE地域の割合も,一九五五年の一一・五%から一九五六年の一三・二%,一九五七年には一四・六%と着実に上昇した。

綿花,綿織物の対前年比の著しい減少は,主としてインドおよびパキスタンにおける,綿花の収穫減によるものと見られている。綿糸の東南アジアの生産は,インド,パキスタン,香港の合計で一九五二年月平均が,五八,一〇〇トンであつた。それが,一九五七年には八二,三〇〇トンと約四二%の増加となっている。綿織物の生産はセイロン,インド,インドネシア,パキスタンの合計で同じ期間に月平均で三億六,六〇九万メートルから四億五,二六〇万メートルと二三%増となっている。特にインドとパキスタンの増加が目立つている。一般的にいつて東南アジアの綿業は初期の工業開発の段階において最も容易に拡大しうる生産部門であり,国内市場でも,海外市場においでも外国品との競争が生産規模を決定する大きな要因であった。たとえばフィリピンのごとき一部の諸国の綿業は関税保護をうけている。その一方,インドネシアではこうした保護関税がないために輸入品には対抗できず,一九五七年第一一・四半期に閉鎖を余儀なくされた織物工場もあつた。


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