昭和33年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

経済企画庁


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第七章 東欧経済の動向

五 ソ連圏諸国の圏内および圏外貿易

東欧諸国とソ連の一九五〇年以降の外国貿易の成長率は世界貿易一般のそれをこえる程であったが,世界の輸出中のこれらの国の割合は一九五〇年の七%から一九五六年の八・五%に達した。その間にソ連の取引高は一二%以上増加したが,東欧のそれは二倍にも達しなかつた。一九五三年以来増加率は低下しているようであるが,これは以前の期間にくらべて物価騰貴が緩慢になつたからである。

貿易の地域的な型の発展の趨勢をみるとき,一九五三年と五四年の政策転換の影響が明らかにみとめられる。一九五三年までは朝鮮戦争勃発,西欧諸国からの輸出の戦略的統制によつて東西貿易関係が悪化したがそれとともにソ連,東欧の経済発展は重工業に集中し,高度に自給自足的となった。ソ連は信用を与えて東欧諸国への輸入に援助するとともに,賠償の引渡しとソ連への低価格輸出によつてこれらの国から資源を引出した。一九五四年に始まる新段階では東西貿易を阻止する政治的緊張がある程度緩和されるとともに,ソ連圏諸国の国内政策にも変化が現われ,消費者の重要増加に重点が置かれ出した。それとともに東独のソ連への賠償引渡の終了,低価格によるソ連への生産物引渡の終了,一九五四年ブルガリア,ハンガリー,ルーマニアにおける合辨会社のソ連の特殊の販売の協定締結等が行われた。

以後東西貿易が漸次活発になるにいたつた。第7-12表により明らかなごとく,東欧諸国の総貿易中における東部貿易地域(Eastern tradearea)の割合は,一九五三年頂点にたつし,一九五六年まで漸次低下した。必要な資料を利用しうる五つの東欧諸国のうちで,総輸出と総輸入中のソ連の割合はブルガリアを除いて一九五三年と五四年に最大限に達した(第7-13表参照)。そして以後低下し,最後に一九五七年にソヴエト信用の新たな増加と東欧における緊急な需要をみたさんとする特殊の努力が,これらの国の輸入の中でソヴエトの占める割合を当然増大させるにいたつたのだ。

東欧諸国の間の貿易は一九五四年を最後にその期内中増大した(第7-14表参照)が,一九五三年以来急速に減少した。それは東欧諸国間の特殊化が非常に困難であって,多くの国が工業化を発展させると共に,燃料,原材料等の輸出向余剰の増加が段マ衰えることにもとづいている。それはまたグループ以外から財貨の輸入の必要があることを示している。一九五七年にはチェッコスロパキア,東独,ポーランドのみが相互罰の貿易を拡大した。東部通商地域の貿易の発展の大きな特徽は中国貿易の発展とそれが地域的に集中したということによるのである(第7-15表参照)。東西貿易が一九五四年以来速かに増大したにもかかわらず,東部貿易地域内部でソ連および東欧各国の外国貿易への集中傾向がみとめられる。

ヨーロッパにおける東西貿易の増大によつてソ連の西ヨーロッパへの輸出の全体中の割合は一九五〇年の一〇%かち一九五六年の一八%に高まった。輸入の割合は一〇%から一四%となった。

ソ連と海外諸国との貿易の割合は大体不変であつた(輸出は約七-八%,輸入は一一-一二%)。しかし五つの東欧諸国については海外諸国からの輸入の総輸入額中の割合は一九五二年の約五%から一九五六年の七・五%に,同じく輸出の割合は五%から九%に高まつた。それは主として後進国からの食糧輸入とこれらの国に対する原材料設備の,輸出の増加にもとづくものである。同じ期間西欧貿易の中の輸入の割合は二二%から約二五%にたかまり,輸出の割合は二三%から二四%になつた。対西欧貿易の商品構成中の注目すべき変化は機械部門における東欧の輸入が減少し,かなり大きな輸出増加へと転化し,食糧飼料については輸出増加から輸入増加を示しているということである(第7-16表参照)。

東欧とソ連の貿易の商品構成の一般的特徴は最近数年間あまり変らなかつた。ソ連は製造工業品の純輸入国であつたし,燃料,原料の純輸入国であった。東欧諸国の状態は反対である。ソ連の食糧の輸出余剰は低下しており,東欧は純輸入地域となった。

東欧内部では機械設備の輸入は過去数年間ほとんど増加していない。これは国内の工業化が進み,投資が緩漫になうたからである。一方これら財貨の商業輸出はソ連や西欧,海外諸国へと増大した。機械部門は一九五〇年の輸出の総価値の五分の一とくらべて三分の一以上を占めている。最近罎の割合は低下した。燃料・原料は東欧グループの輸出入のそれぞれ約四〇%と五〇%を占めている。そして一九五五年と五六年までこの部門の純輸入余剰はほとんど変化がなかった。それが下つたのは主として支払困難にもとづくのである。その地域は食糧の純輸入国としての性格がだんだんはつきりするにいたつた。そのグループの総輸出中の食糧の割合は一九五六年には一九五〇年の水準の半分に低下した。消費財工業の輸出はブルガりア,ルーマニアを除いていずれの国でも非常に低い水準に止まつた。それはこれらの財貨の国内需要が高まつたからである。

しかし消費財の輸入は非常に少ない額に止まっている。

六つの東欧諸国はいずれも燃料,原料の純輸入国である(ポーランド,ルーマニアは別として)。いずれもまた大きな輸出貿易をもつている。ポーランド,ルーマニアにおいては輸出入ともにこの部門に著しく集中している。ブルガリア,ハンガリー,ポーランドは食糧と飼料の純輸出余剰をもつた唯一の国である。東独,そしてそれほどではないがチェッコスロバキアが純輸入に依存する程度はたえず増大したのである。この両国のうちで,東独は最も高度に専門化しており工業的生産物に集中した。その他はより多種多様であつた。さらに東独の工業製品の輸出の約八五%は東部通商地域向けであるが,チェツコスロバキアはもつと多様な製造輸出の型をとりその三分の一が西欧市場向けである。ハンガリア貿易の型の特微は輸出による取得資金をもつて,燃料・原料の輸入品の購入に向けるということである。個々の国の商品購成は第7-17表に総括される。東欧諸国の外国貿易に対する依存性は著しく異なっているが,いま国民一人当り貿易額の外国貿易価格による価値を比較すれば第7-18表の如くである(現在ドルで)。

一人当り所得水準の差異からみると,一九五六年にははじめの四東欧諸国の外国貿易に対する依存性は最後の三つよりも大きい。チェッコスロバキアと東独は最も依存性が大きい。ソ連の地位は最少である。