昭和33年
年次世界経済報告
世界経済の現勢
経済企画庁
第五章 外貨危機に悩むフランス経済
第一次近代化・設備計画(一九四七~五三年)に端を発した経済拡大政策の推進のために巨額の財政投資や補助金供与が行われたためにフランスの財政は年々赤字を続けてきたが,とくにアルジェリア紛争の激化した一九五六年以降は財政赤字が飛躍的な増大を示している。すなわち,一九五五年までは一九五二年六,六八〇億フラン,一九五三年六,五二〇億フラン,一九五四年六,六四〇億フラン,一九五五年六,六二〇億フランとほぼ同一水準の赤字を記録していたのに,一九五六年には一躍一兆四〇億フランを記録している。
一九五八年には思いきつた節約方針が立てられたため予算面ではいちおう五,九九〇億フランということになってはいるが,最近のアルジェリアにおける軍事行動の発展に伴い約八〇〇億フランの臨時支出が必要とされたような事情もあり,一九五八年度の赤字も予算面の五,九九〇億フランをかなり上回るものとみられている。アルジェリア軍事費は一九五五年度四八〇億フラン,一九五六年度三,一五〇億フラン,一九五七年は三,四四二億フラン(推定)である。
このような尨大な財政支出によりインフレ傾向が助長されていることは周知の通りであるが,財政赤字の補填は国債,国庫債券,取引銀行預金,フランス銀行貸付,フランス連合海外地域発行銀行その他に頼つている。一九五六年まではもっぱら国債に頼り,国債の消化を促進するために市中銀行に対して一定割合の国債保有を強制する一方,長期債については償還価格を金または一般物価にスライドさせる特別約款国債の発行を行い所要資金を調達してきたが,このような債券の発行方法は将来に大きな負担を残す点で問題があるばかりでなく,現実にこの種の国債の消化そのものが困難になつたので,最近ではフランス銀行貸付に最も多く依存するようになつた(一九五七年六月政府はフランス銀行と協約を結び,同行に三,五〇〇億フランの対政府特別貸付枠を新設し財政赤字を直接フランス銀行信用によって補填することとした)。このフランス銀行の貸付に頼る方法は,貸付をうけただけ,それだけ通貨が創出されることになるので財政インフレの様相をますます濃化させている。
一九五五~五六年の好況の過程を通じて潜在し,一九五六年下半期から顕在しはじめたフランスのインフレの第一の要因がアルジェリア戦争の長期化にもとづく財政支出,とくに軍事支出の増加にあることは否定できない。この財政インフレの進行を阻むために政府は一九五六年下半期からすでに物価釘付,消費財,ガスに対する間接税の引上げなど消費者需要を対象とする抑制措置を講じたが,一九五七年に入つてからの外貨危機とインフレの進行とはついに政府をして投資需要の抑制ならびに政府支出の削減に乗出すことを余儀なくさせた。モレ内閣による四月一一日のフランス銀行公定割引歩合の引上げ(三%から四%),財政支出削減,および増税による歳入増加計画などはこの間の推移を物語るものである。その後も政府は事態の推移に応じて,フランス銀行公定割引歩合の五%への引上げ,フランス銀行における商業手形再割引限度の一〇%の削減,物価の凍結その他のインフレ抑制措置を講じてきたが,一九五八年に入ってからも商業銀行の対顧客貸出制限(二月),フランス銀行の高率適用強化(再割引最高限度をこえる部分に対する適用歩合を七%から八%,一〇%から一二%に引上げる)などの措置をとり,金融引締め方針の堅持を明らかにした。しかし,従来とられた数多くの措置が所期するほどの効果を示していないところをみると‐効果を示していないからこそ新しい措置がとられるわけなのだが‐これらの措置が十分な効果をあげうるや否や疑問とせざるをえないし,このような銀行貸出の抑制によるディス・インフレ的効果が対政府信用の増加によって相殺されてしまう危険もあるわけである。