平成9年度年次経済報告(経済白書)公表に当たって
日本経済は,90年代初めの2年半にわたる長期の景気後退の後,景気回復過程に入ってからも2年間以上極めて緩慢な景気回復にとどまっておりました。これは,今次景気回復局面においては,生産から雇用,最終需要へつながる回復の好循環のメカニズムがなかなか働き出さなかったことによるものと考えられます。しかしながら,昨年度半ばより,好循環の姿が次第に明確になって
きました。消費税率引上げ等の影響はなお慎重に見極めなければなりませんが,日本経済は民間需要主導による自律的回復過程への移行をほぼ終了しつつあります。
このような状況は,構造改革に絶好の機会を与えるものであります。バブルの崩壊や急速な国際分業構造の変化の中で,ともすればこれまでの日本経済の競争力や日本的経済システムに対する信頼感が揺らいできており,企業も家計も,将来を切り開いていく方途を摸索しております。当面の経済情勢が改善し,日本経済が思い切った改革に踏み切ることのできる体力がついてきた今こそ,積極的に構造改革を進め,自由で透明な市場を創出し,発展基盤の再構築を行うときであります。そうすることで,積極的にリスクをとろうとする経済主体は多様な選択が可能となり,我が国経済は将来への挑戦が可能となるのです。
本報告のねらいは,こうした景気の現状を明らかにするとともに,日本経済が中長期的な発展をするためには何か必要かという問いにこたえようとするものです。
以上の内容を踏まえ,本年度の年次経済報告の副題は「改革へ本格起動する日本経済」といたしました。本年度の年次経済報告が,我が国経済の現状に対する理解を深め,その課題を解決する上で,いささかでも貢献できれば幸いであります。
平成9年7月18日
麻生 太郎
経済企画庁長官