第3章 日本の市場経済の構造と課題
市場経済が世界全体に拡がっていく歴史的潮流の中で,日本,アメリカ,ヨーロッパの各国は,世界の市場において競争を続けながら,世界経済全体が安定的に発展していくため,協調していくことが必要となっている。これら各国経済は,市場経済に基づくものであるが,それぞれの発展経路を反映して,市場経済の構造や機能(市場経済システム)にはそれぞれの特徴があり,マクロ・パフォーマンスにも相違が出ている。これらの相違をこと更に強調して,日本,アメリカ,ヨーロッパが対立的関係に向かっていくと考えるのは賢明ではない。競争していく上では相手国の効率的な面は互いに取り入れていく動きがあり,また,協調していくためには,国際的に調和した経済にしていくことが必要となっている。日本,アメリカ,ヨーロッパの市場経済は,その基本的特徴は維持しつつも絶えず相互に影響を及ぼしあいながら,互いに良い点は取り入れ,問題点は指摘し合い,構造調整を進めながら発展していくと考えられる。
市場経済システムと一口にいっても,それはかなり広い概念であり,更にそれを包含する政治・社会システム全般と密接な関係にある。この中で,本章では市場経済システムをその構成員である企業,消費者,政府等の間の有機的な結びつきと捉え,その特徴をみるために,企業とそれを取り巻く金融・資本市場,労働市場,製品市場との関係,更には,政府と企業・市場の関係に着目することとする。特に,製品市場については,最終財市場での消費者との関係のみならず,生産や流通における企業間の関係も考えてみたい。
このような観点から,日本の市場経済システムを他の諸国の市場経済システムと共通のフレーム・ワークを用い,国際比較を行いながら,その特色を明らかにすることとする。そして,市場経済システムに内在する効率性・メリットと表裏一体となっているデメリットも指摘したい。さらに,それぞれの市場経済システムが市場経済の持つ問題を様々な方法で解決をしており,固定的なものではなく,常に変化していることを明らかにした上で,今後の課題を示したい。