平成4年度年次経済報告(経済白書)公表に当たって

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世界は今,冷戦時代の終焉と共に,新たな政治・経済秩序を模索している過渡期にあります。旧ソ連・東欧経済の市場経済への移行という歴史的変化の中で,日本はアメリカ,ヨーロッパとともに,世界経済の安定的発展を確実なものとするため,重要な役割を担っております。特に,市場経済システムに立脚する先進各国は,インフレなき持続的成長を確保していくことが大切であると考えます。

こうしたなかで,我が国経済をみますと,日本経済は難しい局面に立っています。短 期的な問題としましては,景気が調整過程にあり,経済活動が減速しています。いわゆる「バブル」の発生と崩壊の影響につきましては,中期的に定説な対象を行っていく必要があります。長期的な課題としましては,国民経済の質の向上を図るとともに,我が国の市場経済の構造を国際的に調和のとれたものにしていくことが重要であるという認識が高まっています。国際的な調和を進める際には,先進各国がそれぞれの市場経済について相互理解を深め,中長期的な政策の安定性を踏まえながら,構造調整に努めていかねばなりません。

 本報告においては,「総論」において我が国経済の置かれた状況とその課題について概観した後,第1章「調整過程にある日本経済」,第2章「日本の景気循環の要因と今次循環の特徴」,第3章「日本の市場経済の構造と課題」について,それぞれ検討を行っています。

景気の調整過程については,現在,住宅建設の回復等今後の回復に向けたプラス要因が現れてきています。また,「バブル」崩壊は,各企業の財務体質の健全化に時間を要するものの,景気への影響は限定的であると考えられます。既に,各企業においては新たな展開をめざして,リストラクチュアリングの努力が行われています。経済のこうしした動きと適切かつ機動的な経済運営とが相まって,平成4年度後半にかけて徐々に最終需要が伸びを高め,生産活動も上向いていくものと期待されます。

我が国市場経済の今後の課題といましては,国民生活の質の向上,国際的に調和のとれた市場システムへの変革という目標にむけて,成長と効率性の目標と両立させながら構造調整を行っていくことであり,本報告におきましても,労働時間の短縮や我が国市場の透明性の確保・ルールの明確化が急務であると指摘しています。また,政府の役割としては,国民生活の質の向上を図るため,住宅及び社会資本の整備に大きな役割を果たす一方,市場経済の有効な機能を進めるためには,国民,企業,市場の間の媒介役というソフトな役割を果たすことが要請されています。

以上の内容を踏まえ,本年度年次経済報告の副題は「調整をこえて新たな展開をめざす日本経済」といたしました。本年度の年次経済報告が,我が国経済の現状に対する認識を深め,その課題を解決する上で,いささかでも貢献することができれば幸いであります。

平成4年7月28日

野田 毅

経済企画庁長官

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