11. 財  政

(1) 平成2年度当初予算

我が国の財政事情は,平成元年度末の公債残高が160兆円を上回る見込みであり,国債費が歳出予算の約2割を占めるなど極めて厳しい状況が続いており,今後の社会経済情勢の変化に財政が弾力的に対応していくためには,財政改革を強力に推進して財政の対応力を一日も早く回復することが引き続き緊要な課題となっていた。以上の観点から,平成2年度予算は,特例公債依存体質からの脱却を実現するとともに公債依存度の引下げを図るため,更に歳出の徹底した見直し,合理化に取り組むこと等により公債発行額を可能な限り縮減することとして編成された。このため一般会計予算においては,既存の制度・施策の見直しを行い,経費の節減合理化に努め,特に経常部門については,厳しく抑制した。この結果,一般会計予算の規模は,66兆2,368億円となり,前年度比で9.6%増となった。

主要経費別にみると,経済協力費,社会保障関係費等が高い伸びを示した一方,食料管理費等が前年度比減少となった。歳入についてみると,2年度の公債発行額は元年度当初発行予定額から1兆5,178億円下回る5兆5,932億円となり,特例公債の発行額はゼロとなった。この結果,2年度予算における公債依存度は8.4%となり,前年度当初予算から3.4%ポイント低下した(第11-1表)。

第11-1表 予算規模の推移

(2) 平成2年度の財政政策

<1>公共事業の施行状況

平成2年度上半期における公共事業等の事業施行に関しては,我が国経済が引き続き内需中心の持続的拡大局面にあることにかんがみ,63年度,元年度に引き続き,景気の動向に応して適切な運用を図る(自然体)ことを基本とし,目標とすべき契約率等は設定されなかった。

<2>平成2年度補正予算

平成2年度補正予算(第1号)は平成2年12月17日に成立した。この補正予算は,歳出面において,災害復旧等事業費,給与改善,中東貢献策のうち追加協力分(10億ドル相当)等特に緊要となった事項等について措置を講ずる一方,歳入面においては,租税及び印紙収入1兆1,270億円の増収等を見込むとともに,前年度剰余金の受入れを計上し,また,災害復旧事業費等に対応して公債7,500億円を追加発行することとした。以上により,第1次補正後予算の総額は,当初予算に対し2兆2,810億円増加し68兆5,178億円となった。

平成2年度補正予算(第2号)は,平成3年3月6日に成立した。この補正予算は,歳出面において,湾岸平和基金拠出金1兆1,700億円等を計上する一方,歳入面において,その他収入1,645億円の増収を見込むとともに,臨時特別公債金9,689億円を計上することとした。以上により,第2次補正後予算の総額は,第1次補正後予算に対し1兆1,334億円増加し69兆6,512億円となった。

また,公債依存度は10.5%となった。

(3) 財政資金対民間収支の動向

平成2年度の財政資金対民間収支は,交付金や郵便局・公共事業費の支払いに加え,国債利子の支払いも嵩んだものの,租税や厚生・国民年金保険料の受入れが多額に上ったことなどから,全体では2兆1,525億円の受け超となった。

この間,国債については,短期国債を中心とした借換債の発行増及び2年度の長期国債(新規財源債)の発行増を反映して,全体では5兆8,837億円の発行超となった(前年度9,523億円の発行超)。

(4) 平成3年度予算,財政投融資計画及び地方財政計画

<1>平成3年度予算平成3年度予算は平成3年1月25山こ国会に提出されたが,湾岸地域における平和回復活動に対する我が国の支援に係る財源措置について1月31日財源措置の大綱,2月15日同大綱の改正の閣議了解が行われたことに伴い,その一環として,一般会計予算及び特別会計予算について所要の修正が行われた。3月14日に衆院において修正後の政府案どおり可決されたが,4月11日に参議院で否決された。同日の両院協議会を経て憲法第60条第2項前段の規定により衆院の議決が国会の議決となり,成立した。

我が国経済は内需主導型の持続的な拡大を続けている。また,我が国の財政事情は,平成2年度末の公債残高が165兆円にも達する見込みであるなど依然極めて厳しい状況が続いており,人口の高齢化や国際社会での我が国の責任の増大などの課題に財政が弾力的に対応するためには,公債残高が累増しないような財政体質を作り上げることが不可欠である。平成3年度予算は以上の観点から,公債依存度の引下げを図るため,更に歳出の徹底した見直し,合理化に取り組むこと等により公債発行額を可能な限り縮減することとして編成された。

(ア)歳入予算

一般会計歳入のうち租税及び印紙収入は前年度予算額に対し3兆7,680億円(6.5%)増の61兆7,720億円,その他収入については,同5,928億円(44.3%)増の1兆9,324億円を見込んでいる。また,公債発行額は前年度当初予算比2,502億円減の5兆3,430億円となり,公債依存度は7.6%となっている。

(イ)歳出予算

歳出総額は前年度当初予算比4兆1,106億円(6.2%)増の70兆3,474億円となり,一般歳出は前年度比1兆6,634億円(4.7%)増の37兆365億円となっている。主な経費についてみると,公共事業関係費については,物価の安定を基礎とする経済の持続的拡大の維持に配慮しつつ,また,社会資本整備の重要性にかんがみ,NTT株売却収入の活用を含めて,前年度比3,750億円(5.0%)増の7兆8,197億円を計上している。

社会保障関係費については,すべての国民が安心してその老後を送ることができるよう「高齢者保健福祉推進十か年戦略」の着実な実施を図るなど,国民に身近な福祉施策についてきめ細かな配慮を行うこととし,一般歳出中最大の伸び額である前年度比5,974億円(5.1%)増の12兆2,122億円を計上している。

文教及び科学振興費については教育環境の整備,生涯学習の振興などの施策の充実に努めるとともに,基礎的・創造的研究をはじめとする科学技術の振興のための施策を推進することとし,前年度比2,815億円(5.5%)増の5兆3,944億円を計上している。

また,昭和63年6月に策定された政府開発援助の第4次中期目標の着実な達成を図る観点から政府開発援助予算について前年度比656億円(8.0%)増の8,831億円,経済協力費については前年度比615億円(7.8%)増の8,459億円を計上している(第11-2表)。

第11-2表 一般会計歳出予算の主要経費別分類

<2>平成3年度財政投融資計画平成3年度財政投融資計画については,内需を中心としたインフレなき持続的成長の確保に配慮しつつ,社会資本整備,住宅対策,国際社会への積極的貢献,地域の活性化,中小企業対策等の政策的要請に対し,重点的・効率的に資金を配分することとされた。その結果,3年度の財政投融資計画は前年度比2兆2,332億円(6.5%)増の36兆8,056億円となり,郵貯,年金,簡保の資金運用事業を除いた一般財投は前年度比1兆4,832億円(5.4%)増の29兆1,056億円となっている。

また,資金配分を使途別分類でみると,住宅に一般財投全体の32.6%の9兆4,745億円を予定し,生活環境整備については同14.8%,厚生福祉については同3.8%,文教同2.2%など,日常生活と密接に関連した分野の他,社会資本では道路に同10.3%となっている。

3年度の財政投融資計画の原資としては,2年度計画額に対し8,332億円(5.3%)増の37兆4,056億円を計上している。このうち,36兆8,056億円については,3年度財政投融資計画の原資に,また,6,000億円については,3年度において発行される国債の引受けに充てることとしている(第11-3表)。

第11-3表 財政投融資計画の使途別分類

<3>平成3年度地方財政計画平成3年度の地方財政計画は,近年中期的な財政の健全化のための措置が講じられてきたものの,なお多額の借入金残高を抱えている地方財政の状況をかんがみ,おおむね国と同一の基調により策定されている。すなわち,歳入面においては,地方債の抑制に努めるとともに,地方税負担の公平適正化の推進と地方交付税の所要額の確保を図り,歳出面においては,経費全般について徹底した節減合理化を図るとともに,地域の特色を活かした自主的・主体的な地域づくり,住民生活の質の向上のための社会資本の整備及び地域住民の福祉の充実などを積極的に推進するため必要な事業費の確保に配意する等限られた財源の重点的配分と経費支出の効率化に徹し,節度ある行財政運営を行うことを基本として策定されている。

なお,3年度の地方財政計画の総額は前年度比3兆7,446億円(5.6%)増の70兆8,848億円となっている(第11-4表)。

第11-4表 地方財政計画