1. 国際収支

(1) 世界経済の成長減速

1990年の世界経済は,日本及びドイツ(西ドイツ地域)では拡大を継続しているものの,アメリカ及びイギリス等が後退局面に移行し,フランス及びイタリア等で減速を示す等総じて経済成長が減速した。アメリカでは生産の低下,雇用の悪化等から90年後半から景気後退局面に移行し,実質GNP伸び率は90年で1.0%となった。また,西欧では,ドイツでは10月の東西ドイツの統合をはさんで拡大は継続しているものの,その他^国では,フランス及びイタリア等で減速を示し,イギリスは後退局面に移行する等総じてみると景気は減速している。韓国や台湾では,外需はやや鈍化したものの,個人消費など内需が堅調であることから経済は引き続き拡大している。こうした世界経済の動向を反,映しで,先進工業国の輸出数量(IMF「IFS」による)は89年の6.9%増から90年には5.6%増とやや伸びが鈍化した。また,90年の主要国の対外不均衡をみると,アメリカの経常収支赤字,日本及びドイツ(西ドイツ地域)の経常収支黒字は縮小した。

一方,米ドル相場(実効相場)は,90年に入りおおむね弱含みで推移した後,年末にかけておおむね横ばいとなった。原油価格(北海ブレント・スポット価格)は1月から4月にかけて弱含みで推移した後,一進一退で推移したが,8月のイラクのクウェイト侵攻を受けて上昇し,9月下旬には一時41バーレル40ドルを超えた。その後,年末にかけて軟化した。また,一次産品価格は90年前半は緩やかに上昇した後,6月以降おおむね弱含みとなった。こうした中で途上国の累積債務問題は依然世界経済の不安定要因として存続している。

(2) やや増勢を強めた輸出

(90年度の輸出動向)

90年度の輸出金額(通関額)はドルベースで2,966,3億ドルで前年度比8.4%増と前年度(0.3%増)に比べて高い伸びとなった。これを価格・数量に分けてみると,価格(ドルベース)が同2.0%上昇し,数量も同6.4%増となった(第1-1表)。また,円ベースでは,価格が同1.4%上昇し,金額では同7.7%の増加となった(89年度同11.3%増)。次に,四半期の動きをドルベース(前年同期比)でみると,為替相場が円安に推移したこともあり,4~6月期,7~9月期にはそれぞれ0.5%減,3.7%増と一進一退の動きを示した。しかしながら,10~12月期には数量が9.6%増加したうえに,円高等の影響もあり価格が5.7%上昇したことにより15.9%の大幅増加となった。1~3月期にも数量が5.6%増,価格が8.4%上昇した結果,14.5%増と増勢が続いた。

第1-1表 90年度の輸出動向

(ほぼ全品目にわたって伸び率が上昇)

輸出動向を商品別(ドルベース,前年度比)にみると,繊維・同製品(ドル7.1%増,数量5.1%増)は,アメリカ向けが減少したものの,EC,東南アジア向け等が堅調に増加したため,全体では増加した。化学製品(ドル11.O%増,数量6.6%増)は,世界的な需要増加からほとんどの地域で増加した。鉄鋼(ドル7.9%減,数量4.3%減)は,アセアン諸国を中心に東南アジア向けが増加したが,それ以外の地域,特にソ連,中国向けを中心に大幅な減少となった。

一般機械(ドル7.3%増,数量5.2%増)はアメリカ向け等で減少したものの,東南アジア,EC向けで事務用機器を中心に増加した。電気機器(ドル8.6%増,数量9.2%増)はアメリカ向けがやや減少したが,東南アジア,EC向け等が増加したため,全体では増加した。中でも映像機器は中国,東南アジア向け等を中心に大幅増となった(ドル20.1%増)。自動車(ドル8.O%増,数量2.6%増)はアメリカ向けがほぼ横ばい,その他ほとんどの地域で増加となったため,全体では増加した。船舶(ドル24.4%増,数量1.6%増)は増加した精密機器(ドル8.2%増,数量11.3%増)は東南アジア,EC向け等を中心に増加した。

(東南アジア向け,EC向けで大幅に増加)

次に地域別(ドルベース,前年度比)にみると,アメリカ向け(1.2%減)は自動車及び自動車部品を中心に輸送用機器が微増した他は,ほぼ全品目で前年割れしたため全体では減少した。EC向け(16.8%増)は自動車を中心とした輸送用機器をはじめほぼ全品目で増加し,全体でも大幅増加となった。東南アジア向け(19.3%増)はアジアNIEs等の堅調な資本財需要を反映して,一般機械,自動車及び自動車部品等の輸送用機器を中心にほぼ全品目にわたって増加した。中近東向け(11.9%増)は,金属及び同製品が減少したものの輸送用機器等で大幅増となったため全体では増加した。共産圏向け(12.8%減)については,特に中国向け(13.4%減)がほぼ全品目,ソ連向け(19.0%減)は鉄鋼を中心に大幅に減少した。

(3) 製品類を中心に緩やかに増加した輸入

(90年度の輸入動向)

90年度の輸入(通関額)は2,422億ドルで前年比13.1%増と,4年連続の二桁増となった。

これを価格,数量に分けてみると,価格(ドルベース)が9月以降原油価格の上昇の影響もあって,同5.9%上昇し,数量でも同6.8%増となった(第1-2表)。また,円ベースでは,価格が同5.2%上昇,金額では34兆1,645億円と同12.4%の増加となった。

第1-2表 90年度の輸入動向

次に四半期の動きをドルベース(前年同期比)でみると,4~6月期は5.2%増となった(数量では8.5%増)後,7~9月期も同6.6%増ととなったが,10~12月期は円高等の影響もあり同26.3%増と高い伸びとなった。1~3月期も同13.7%増とかなり高い伸びとなった。

(鉱物性燃料の輸入は大幅に増加)

商品別の動きをドルベース(前年同期比)でみると,食料品は,前年度比4.6%増(数量同4.4%増)と昨年度(同1.4%増)よりも高い伸びとなった。

内訳をみると魚介類は同11.9%増と高い伸びを示したものの,肉類,果実及び野菜がどちらも同1.4%増と低い伸びとなった。

原料品は,同5.7%減(数量同0.7%減)と減少した。金属原料は同3.4%増となったものの,繊維原料,その他原料品がそれぞれ同17.3%減,同8.4%減となった。

鉱物性燃料は,同35ol%増(数量同7.3%増)と大幅に増加した。90年8月のイラクのクウェイト侵攻により発生した湾岸危機の影響による原油価格の高騰等から,原油輸入額は大幅に増加し,石油製品,液化天然ガスもそれぞれ同15.0%増,同29.4%増と大幅に増加した。原油価格(通関CIFベース)は,90年8月までは1バーレル当たり15ドル台から18ドル台で推移してたが,9月以降上昇し,11月には34.2ドルまで上昇し7た。しかし,その後は下落し,91年3月には19.1ドルとなった。この結果,90年度平均は,23,3ドルで,前年度比30.2%の大幅な上昇となった。

製品類は,同11.6%増(数量同10.2%増)と引き続き二桁の伸びとなった。

機械機器は,自動車,航空機がそれぞれ同31.0%増,同36.1%増と大幅に増加したこと等により,昨年度に引き続き同20.5%増と高い伸びを示し7た。また,化学製品は医薬品が同12.5%増となったこと等により同8.4%増,その他の製品類も非貨幣用金が同23.3%増となったこと等により同7.1%増となった。89年度に50.3%となり初めて50%を超えた製品輸入比率は,原油価格の上昇が響いて,49.6%とやや低下した。

(中近東,EC等を中心に拡大した輸入)

地域別の動きをドルベースでみると,中近東(同38.2%増)からの輸入は,原油価格の上昇等から鉱物性燃料が同42.5%増となるなど,大幅に増加した。

東南アジアからの輸入も,鉱物性燃料が同33,7%増と大幅に増加L2たことから,同7.2%増となった。

一方,アメリカからの輸入は,機械機器,繊維製品等の製品類を中心に同7.0%増となり,昨年度(同13.4%増)よりも伸び率は低くなったものの,堅調な伸びを続けた。

また,EC(同20.6%増)からの輸入も,機械機器,鉄鋼,繊維製品等の製品類を中心に増加した。その他では,ラテンアメリカからの輸入は同11.9%増,アフリカからの輸入は同0.6%増となった。

(4) 大幅に縮小した経常収支

(大幅に縮小した経常収支)

90年度の貿易収支は,上記の輸出入動向を受けて前年度より2,070億円黒字幅が縮小し,9兆7,829億円の黒字となった(ドルベースでは1億ドル縮小し,699億ドルの黒字)。また貿易外収支と移転収支の赤字幅は拡大し,それぞれ3兆1,895億円(225億ドル),1兆8,758億円(136億ドル)の赤字となった。この結果,経常収支の黒字は4兆7,175億円と前年度より2兆9,199億円縮小した(ドルベースでも197億ドル縮小し,337億ドルの黒字)(第1-3表)。

第1-3表 国際収支の概要

貿易収支の内訳をみると,輸出,輸入共に前年度を上回ったものの,原油輸入価格上昇による交易条件の悪化等から,輸入の増加幅が輸出の増加幅を上回り,貿易収支はわずかながら縮小した。

貿易外収支をみると,投資収益収支の黒字幅縮小,運輸収支の赤字幅拡大等により,90年度の貿易外収支の赤字は,89年度に比べ大幅に拡大し,既往最大の赤字となった。また,移転収支は,3度にわたる湾岸平和基金拠出金により赤字幅が大幅に拡大した。

(長期資本収支の流出超過幅は縮小)

90年度の資本収支についてみると,長期資本収支は168億ドルの流出超過,短期の資本取引の合計(短期資本収支と符号を転じた金融勘定の合計)は4億ドルの流入超過となり,長期資本の流出超過幅,短期資本の流入超過幅は共に前年度より大幅に縮小した。

長期資本収支のうち本邦資本(資産)をみると,主に証券投資の流出超過幅が大幅に縮小したことにより,1,224億ドルの流出超過と前年度より流出超過幅は大幅に縮小した。本邦資本のうち証券投資は,国内金利上昇に伴う内外金利差の縮小,国内資金需要の高まり,ユーロドルワラント債等の還流の縮小を要因として対外債券投資が大きく減少,また対外株式投資も海外市場の軟調,国内株式市場の低迷を背景に低調となり,流出超過幅が大幅に縮小した。

一方,外国資本(負債)をみると,中長期インパクトローンの取入増から借款が大幅に増加,また年度末にかけて対内株式投資が日本株の値頃感の台頭を背景に増加し,流入超過幅拡大に寄与した。この結果,外国資本(負債)全体で1,056億ドルと史上最高の流入超過となった。

短期の資本取引の合計をみると,金融勘定が流出超過に転じ,短期資本収支の流入超過幅が大幅に縮小した結果,全体では4億ドルの流入超過とその流入超過幅は大幅に縮小した。なお外貨準備高は90年度末で698,9億ドルとなり,前年度末比で36,0億ドルの減少となった。

(年度後半にかけて強含んだ円レート)

外国為替市場における対米ドル円レート(インターバンク直物中心相場)を月中平均値で年度を通してみると,年度後半にかけ円が強含んだ。これを四半期別にみると,90年1~3月期の147,90円の後,下落し4~6月期には155,25円となったが,7~9月期には145,23円,10~12月期には130,83円と上昇し,91年1~3月期には133,86円とやや弱含んだ。91年度に入っては4月には137,10円,5月には138,06円と下落し,その後はおおむね140円前後で推移している。