第1節 我が国の経常収支黒字の長期的要因

[目次]  [戻る]  [次へ]

我が国は,1981年以降,経常収支の黒字を続けてきた(第4-1-1図)。特に,83年から87年頃までは,絶対額でも対名目GNP比率でも黒字幅は大きく拡大し,我が国は短期間で世界最大の純債権国のひとつとなった。このような我が国の黒字幅拡大には,内外の景気動向や為替相場の変動等一時的ないし循環的な要因が作用したとみられる一方,より構造的な要因も存在したといった見方も有力である。例えば,我が国の対外競争力,特に活発な技術開発力を背景としたハイテク品における競争力の強まりが,この分野での対外収支を長期的に黒字方向に動かしているといった見方がある。また,これと関係しているが,国内産業の技術向上を背景にエネルギーや原材料等の原単位が低下(生産性は上昇)し,輸入を長期的に鈍化させているといった見方もある。一方,視点を変えて,経常収支が事後的に国内貯蓄と国内投資の差に等しいことを考えると,長期的な国内貯蓄と国内投資の関係の変化も,経常収支の動向に関係している可能性がある。本節では,まず,こうした長期的に我が国の経常収支黒字に影響している可能性がある要因について検討し,次節では,最近の経常収支黒字縮小の原因を考えることにする。

1 我が国の技術開発力の高まりと対外競争力の強さ

ここでは,対外収支に影響を与えている可能性のある要因について,まず,第1番目として,輸出入それぞれの長期的な伸びに作用した要因に注目しよう。

(輸出の高付加価値化と対外競争力の強まり)

我が国の輸出の長期的な推移における特徴のひとつは,高付加価値化が継続的に進んできたことである。このような輸出品の高付加価値化は,第一義的には,我が国の経済成長持続による産業の高度化,所得水準の向上の相互作用によって生み出されたと考えられるが,加えて,これは,二度の石油危機や85年のプラザ合意以降の大幅な円高等,外部環境の変化に対する企業の迅速かつ柔軟な対応の結果でもあった。このような環境の変化への対応は,輸出品の非価格競争力を強め,国際環境の様々な変化を乗り越えて我が国の輸出が長期的に比較的安定した伸びを続けたひとつの背景になったとみられる。また,こうした持続的な輸出品の高付加価値化,特に外部環境が急激に変化した際の柔軟な対応は,我が国産業の高い技術開発力によって始めて可能となったものと考えられる。

そこで,こうした我が国の輸出の高付加価値化とそれを可能にした我が国の技術開発力について,簡単な国際比較をしながらみてみよう。

まず,我が国の輸出における持続的な高付加価値化と高付加価値製品における我が国の比較優位の上昇を,我が国と各国の輸出に占めるハイテク品の比率とハイテク品特化係数とを比較することにより,みてみよう(第4-1-2図)。特化係数とは,ある商品についての輸出入差額÷輸出入合計額で定義され,輸出完全特化の場合は1,逆に輸入完全特化の場合は-1となる。したがって,ハイテク品における比較優位が強いほど,この係数は1に近づくと考えられる。主要先進国と一部の発展途上国の80年以降のハイテク品輸出比率をみると,各国とも概ね上昇傾向にあるが,日本は水準が高いうえに上昇幅も大きい。一方,発展途上国のなかでは韓国の最近における上昇が著しい。次にハイテク品特化係数の推移をみると,日本の輸出特化の度合が非常に大きく,しかも,緩やかながら着実にその度合を強めていることがわかる。日本以外では西ドイツが輸出特化を続けており,アメリカは逆に輸出特化から輸入特化に転じてきている。この間,韓国は,従来の大幅な輸入特化から,輸出入ほぼ均衡する状況に移ってきている。

ところで,我が国は,貿易収支黒字が拡大を続けた80年~87年頃をとると,輸出の所得弾性値が輸入の所得弾性値を大きく上回った(輸出所得弾性値約1.0,輸入所得弾性値約0.75,計測方法については付注1-3参照,ただし,関数型や計測期間によって値は変化するので,上記の数字は多少幅をもってみる必要がある)。このような構造のもとでは,我が国の内需が海外諸国の内需を大きく上回る伸びを示さない限り,我が国の貿易黒字は拡大しやすかったと考えられる。

我が国のハイテク品における比較優位は,こうした弾性値の相対的な大きさに関係をもっているものとみられる。一般にハイテク品は,非価格競争力が強く,また,所得弾性値が大きいと考えられる。なぜなら,こうした技術集約的な製品は,いわゆる「上級財」であり,技術集約的でない製品に比べ,一般的には,消費者にとっても,企業にとっても高級品あるいは高性能品といった側面が強く,むしろ所得水準が上昇してくると,需要の伸びがより高まるといった性質をもっているからである。

もっとも,ハイテク品における比較優位については,上でみたように最近においても変化がみられないにもかかわらず,87年以降,輸出の伸びがやや鈍化し,輸入の伸びが大きく高まり,貿易収支,経常収支の黒字幅は大きく縮小した。これには,背後に日本経済の構造変化があったとみられるが,この点については次節で検討する。

(高付加価値化を可能にする広い意味での技術開発力)

我が国のハイテク品における比較優位の著しい上昇を可能にしたのは,広い意味での技術開発力の高まりである。広い意味での技術開発力とは,通常の狭い意味での研究開発に加え,生産技術等の開発力を含む概念である。たとえ高度な基礎技術があっても,それを具体的な製品開発に結びつけ,しかもその製品を効率的に生産できなければ,実際にハイテク品を輸出して国際市場で勝ち抜くことはできないからである。こうした広い意味での技術開発のパフォーマンスを規定するものは,なんであろうか。まず,第1には,その国の持つ技術・知識の水準,及びそれを絶えず高め,また実際の開発活動に結びつける研究開発等の投資活動が挙げられる。また,近年注目を集めているものとして,企業組織やマネージメント等のシステムや,人材の「質」といった点も無視できない。このうち人材の「質」は,教育や学習といった投資の一種によって蓄積される生産要素とみることもでき,こうした観点から,ときに「人的資本」といった用語で呼ばれることもある。人材の「質」の重要性は,技術開発を担うのは結局は人間であり,その人間の持つ能力の高さは,当然,結果のパフォーマンスに大きな影響を及ぼすことからも理解できよう。特に,製品の国際競争力においては,生産技術の占めるウエイトが大きく,技能労働者等の能力の差が大きくでるものと考えられる。

このような広い意味での技術開発力の高さについて,いくつかの指標を取り上げて,国際比較を試みよう。ここでは,代表的なものとして,研究開発費,技術貿易収支,および労働力の「質」あるいは人的資本の賦存状況の代理変数として就業者に占める高校卒程度の学歴を持った人々の比率をとり,比較してみた(第4-1-3図)。高校卒程度の学歴を持つ就業者の比率をとりあげたのは,特に現場での技能労働者の能力が,生産技術上重要な意味をもち,これがコストや品質を通して国際競争力に大きく影響すると考えられるからである。無論,ここで取り上げた指標はごく一部であり,各国の技術開発力の実勢を判断するには幅をもってみる必要がある。(第4-1-3図②)(第4-1-3図③)

結果をみると,まず,日本の研究開発費の対GNP比率は水準が高いうえに上昇傾向にある。また,旧西ドイツも,水準が高く,緩やかに上昇しており,韓国は絶対水準はまだ低いものの,上昇テンポが速い。一方,アメリカは,水準は高いものの,85年以降頭打ち傾向にある。

次に,技術貿易収支の対GNP比率をみてみよう。技術貿易収支は,特許料等の授受が一定期間継続するため,実際の技術水準の動きにかなり遅行するものと考えられるが,アメリカが依然圧倒的に高水準にありながら80年代に入って低下傾向にあるほか,イギリスも頭打ちであるのに対し,日本は長期的に緩やかな上昇傾向にある。

また,労働力の「質」も,データの制約から2時点のみの比較になっているが,旧西ドイツ,日本の水準が高く,韓国,台湾が,80年代初めには低水準にあったのが上昇傾向にある。

以上の各国の研究開発費支出,技術貿易収支,労働力の「質」などの水準や動きは,いずれも,前記のハイテク品における比較優位の水準や動きと,何らかの関連性を窺わせるものであり,こうした指標で代表される広い意味での技術開発力が,対外競争力を大きく左右しているものと考えられる。

このうち,労働力の「質」の重要性については,比較的最近注目されてきた要因なので,これが一国の技術開発力を通して実際に経済成長やハイテク品貿易のパフォーマンスにどのような影響を与えているかを少し詳しくみてみよう。

まず,OECD(経済協力開発機構)に加盟している先進諸国を中心とする23か国の長期的な成長要因(成人1人当たり国内総生産の上昇要因)を分析すると,投資率,人口要因等と並んで労働力の「質」の要因が有意な影響を及ぼしているとの結果が得られた。また,分析対象諸国間では,出発時点の所得水準が低い国ほど,成長率が高いという結果が得られ,これは,これら各国における所得水準が,長期的には収斂する傾向を持っていることを示しており,興味深い(推計の詳細は付注4-1参照)。

この労働力の「質」の差が,ハイテク品の貿易における比較優位にどのように関係しているか,次にみてみよう。前述の分析結果から,1960年から85年までの成長のうち,労働力の「質」等の要因によって説明される部分を抽出し,これとハイテク品における貿易のパフォーマンスである特化係数とを比較してみると(第4-1-4図,推計の詳細は付注4-1参照),日本が両者ともに高いほか,各国の間には緩やかな正の相関が窺われる。

このように,ハイテク品における比較優位には,技術水準や研究開発活動等と並んで,労働力の「質」といったものも一定の影響を及ぼしているとみられ,我が国のハイテク品等における競争力の強まりは,活発な研究開発投資活動に加え,我が国における労働力の「質」の高さや,その高さを十分に生かす「システム」に負っている部分も大きいとみられる(我が国企業に多くみられる企業システムと技術開発力の関係については,経済企画庁「平成2年度年次経済報告」第2章参照)。

(技術開発力を原動力とする成長と輸出)

このような国内の技術開発活動を,産業別にみてみよう。まず,各産業の技術開発が各産業の産出物にどの程度体化されているかをみるため,産出物に含まれている研究開発費支出の比率を計測し,これをその業種の「技術集約度」と呼ぶことにしよう。その際,産出物に含まれている研究開発費については,当該業種において直接支出された分に加え,他の業種において支出されたものが,中間投入を通じて加わる分についても考慮した。

この「技術集約度」の75年から85年にかけての変化をみると(第4-1-5図①),精密機械,輸送機械,電気機械,化学等の業種をリード役に,ほとんどの業種で技術集約度が上昇していることがわかる。これは,ひとつには,リード役となっている産業の技術集約度が,投入産出関係を通じて他産業に広がり,経済全体の技術集約度が上昇するといった波及メカニズムが働いているものとみられる。さらに,こうした技術集約度が高まっている産業ほど成長率(実質付加価値伸び率)も概ね高いとの結果がでた。これは,日本経済全体が技術革新をひとつの原動力として成長してきたことを示しており,先程の輸出品の高付加価値化,ハイテク化は,国内産業の高度化の結果であり,こうした我が国の成長パターンの反映とみることができ,また,逆に輸出市場におけるハイテク品の高い競争力がこうした成長パターンを促進した面もあろう。このような技術集約度の上昇は,ごく最近においても勢いが衰えることなく続いているとみられる。第4-1-5図②において,80年以降の産業別の技術集約度の推移をみると,各産業ともに技術集約度の上昇がごく最近まで続いている。これは前述のハイテク品における比較優位の足下までの持続と整合的である。

2 原材料輸入の鈍化

我が国の技術開発力の急速な高まりや環境変化に対する柔軟な対応力のもうひとつの側面として,原単位の低下による鉱物性燃料等の輸入の鈍化,さらにこれを含んだ産業の付加価値率上昇による輸入の鈍化があるとみられる。

(エネルギー原単位の低下と輸入の鈍化)

我が国の技術開発力や対応力は,特に2度の石油危機に際し,省エネルギーに向けて全面的に発揮され,この結果,エネルギー生産性が向上し,これが鉱物性燃料の長期的な輸入の伸びの鈍化につながったとみられる。こうした省エネルギーによる輸入鈍化の影響をみるために,GNP1単位当たりの輸入エネルギーの推移をみると(第4-1-6図①),2度の石油危機以降,82年頃まで大きく低下し,87年以降はほぼ横ばいとなっている。こうした数量ベースのエネルギー輸入の鈍化に加え,原油価格が第2次石油危機時をピークに88年頃まで長期的に低下してきた点(原油通関輸入平均価格,81年37.3ドル/バーレル→88年15.6ドル/バーレル→90年22.3ドル/バーレル)も,金額ベースでの輸入の鈍化が続いたひとつの要因となった。

(産業の付加価値率上昇と輸入の鈍化)

もちろん,生産性上昇はエネルギーのみに対して生じたわけではない。その他の輸入原材料に対する生産性の向上も輸入の伸びの鈍化につながったものとみられる。この点を直接確かめるのは困難であるが,国内産業の付加価値率の長期的上昇は,国内産業に対する投入のなかで大きな割合を占める輸入原材料の伸びの鈍化につながった可能性が大きい。国内産業の付加価値率の長期的変化をみると(第4-1-6図②),素材産業,加工組立産業双方で80年から87年頃にかけて起伏を伴いながらも上昇し,特に素材産業の上昇が顕著である。付加価値率の上昇には上述のエネルギー生産性の上昇を含み,また国内資源の節約分も含むこと,さらに86年以降為替相場変動にともなう交易条件変化の影響を含むことに注意する必要があるが,このような産業全体の付加価値率の上昇は,エネルギー及びその他の輸入原材料の伸びの鈍化につながった可能性が大きいといえよう。

3 貯蓄・投資バランスと経常収支

経常収支は,国内貯蓄と国内投資の差に事後的に等しい。したがって,我が国が長期間にわたって経常収支黒字を続けたということは,この間,事後的にみて国内貯蓄が国内投資を上回る状況が続いたことを意味する。

(我が国の貯蓄・投資バランスの推移)

そこで,最初に,我が国の貯蓄・投資バランスの長期的な動きを主体別に分けてみてみよう(第4-1-7図)。まず,法人企業部門をみると,83年度まで投資超過幅が縮小した後は拡大に転じ,特に88年度以降は,設備投資の急速な拡大により,投資超過幅が拡大している。一方,一般政府部門は,80年代初頭においてはかなりの投資超過となっていたが,その後投資率が低下する一方,貯蓄率が社会保障基金を中心に拡大し,87年度には貯蓄超過に転じ,またその後も貯蓄超過幅が拡大している。この間,家計部門では,80年代前半までは貯蓄率,投資率ともに縮小するなかで貯蓄超過幅はおおむね横ばいを続けたが,86年度以降は,主として貯蓄率が低下するなかで,貯蓄超過幅が縮小している。以上の結果,マクロの貯蓄・投資バランスは,86年度まで貯蓄超過幅が拡大し,その後は縮小傾向を続けた。これはもちろん当該期間の経常収支の動きとほぼ一致する。

もっとも,上記の各部門の貯蓄・投資バランスの動きをもって,それが我が国の貯蓄・投資バランスを決定し,ひいては我が国の経常収支の原因となっていると結論づけることはできない。なぜなら,こうした各部門の貯蓄・投資バランスは必ずしも相互に独立ではなく,しかも,それぞれが内外金利,内外所得,為替相場等のマクロ変数を介して,経常収支→貯蓄・投資と,貯蓄・投資→経常収支の双方向の因果関係をもっていると考えられるからである。こうした貯蓄,投資,経常収支,さらにこれらに影響をあたえる種々のマクロ変数間の複雑な関係の一例を示したのが第4-1-8表である。ここでは,民間設備投資比率,経常収支比率,家計貯蓄率,為替相場の4変数間の関係を多変量自己回帰モデルにより推計した。これをみると,家計貯蓄率の独立性が比較的高く,一方,民間設備投資比率は,家計貯蓄率を含め,他の変数によって影響される度合いが強いという結果となっている。これは,貯蓄と投資の関係について,前者が後者を規定する関係の方が,その逆の関係より強い可能性を示唆しており,この点は,第3章第4節で展開した議論と一応整合的である。しかしながら,それでは,貯蓄率→投資率→経常収支比率といった影響の関係のみで経常収支の動きが説明できるかというと,ことはそれほど単純ではない。経常収支比率と為替相場の間には相互に影響を及ぼす関係があるとみられ,また,為替相場と,貯蓄率,投資率等との関係にも注意が必要である。しかも,ここではとりあげていない内外の所得,金利といった変数も上記の4つの変数との間で相互に影響を及ぼすとみられる。

したがって,経常収支の長期的動向を考える際に,観測される貯蓄率の相対的独立性に着目して,貯蓄率の長期的な変化につながる要因に注目することは重要であるが,一方,ある特定期間の経常収支を,貯蓄,投資及びその他のマクロ変数の因果関係の結果として簡潔明瞭に説明するのは困難である。

(経常収支に対する国際資本移動自由化の影響)

しかしながら,貯蓄・投資バランスに関しては,別の重要な論点がある。それは,両者の関係を制約するものとしての国際資本移動の自由度とそれを規定する為替管理である。内外の資本移動が為替管理によって制約されている状況のもとでは,事後的に国内貯蓄と国内投資は大きくかい離しえない。したがって,大幅な経常収支の不均衡は,一般的には,国際資本移動がより自由化されている状況のもとで起こりやすいといえる。

80年代前半の我が国とアメリカそれぞれの経常収支黒字持続,経常収支赤字持続との関連では,このような対外不均衡が長期的に解消されなかった要因のひとつとして,円安,ドル高の持続がある。そして,経常収支における日本の黒字,アメリカの赤字が続いたにもかかわらず円安,ドル高が続いた背景としては,アメリカの財政赤字拡大,高金利持続,日本の財政赤字縮小,金融緩和,といった両国のマクロ政策のスタンスの違いを挙げる議論も有力である。この議論によれば,前記の黒字と赤字が日米両国において生じた要因として,日米双方のマクロ政策のもとで,高金利を求めて大量の資本が日本からアメリカに向けて移動することにより,経常収支不均衡から生じる円高圧力が減殺されていたと考えられる。

こうした点を考慮すると,我が国における80年代初頭の新外為法施行や,機関投資家に対する外債投資規制の緩和等の為替管理の自由化や,国際金融市場の発達による,我が国を巡る国際資本移動の活発化により,80年代前半において為替相場の国内投資と国内貯蓄とのかい離に対する調整機能が妨げられた面はあるものとみられる。別の言い方をすれば,金融の国際化が進展したもとでは,為替相場は資本取引およびそれを規定する内外金利の影響を強く受け,経常収支不均衡を調整する力が弱まるとみられる。無論,このことをもって国際資本移動の自由化,活発化を批判するのはあたらない。国際資本移動が制約された状況のもとでは,各国の資金不足・余剰がうまく調整されず,また内外の投資家から有利な投資機会を奪い,経済の効率性を損なうことによる弊害が非常に大きいからである。

以上のように,国際資本移動が自由化され,国内貯蓄と国内投資の間の独立性が高まったもとでは,前述のような輸出入の所得弾力性の違いや,マクロ経済政策の違いといった要因が,経常収支の長期的な黒字または赤字に結びつきやすくなっているといえる。

[目次]  [戻る]  [次へ]