第1章 景気循環からみた日本経済の現状
90年度においても世界経済は激動を続けた。ソ連・東欧の経済改革が走り出し,改革の成果は見え始めているものの,一部の国ではなお混乱といってよい状態が続いている。東西ドイツが統一され,ECの1992年に向けての動きと重なって大きな波紋を引き起こした。そして8月にはイラクがクウェートへ侵攻し,湾岸危機が始まった。91年1月には多国籍軍が武力行使に踏み切り,世界を揺るがせたが,2月末に戦火は収まった。こうした中で,アメリカなどの景気後退がみられ,世界経済の長期拡大も減速局面を迎えている。
こうした世界経済の変化にもかかわらず,国内においては,1986年の11月を谷として始まった景気上昇局面が,90年度の下期から拡大テンポの減速をみながらも,巡航速度,すなわちインフレを起こさない適度の成長経路に移行しつつ拡大を続けている。そうした中で,いざなぎ景気とならぶ長さとなる時点が目前となっている。いずれにせよ,昭和,平成にまたがる長さを持ち,平成の劈頭を飾る上昇局面が現出したのである。「平成景気」という呼び方がすでにあるが,そうした固有名詞を付されるに相応しい長さを既にもっている。
最近の需要面の動きをみると,住宅投資が減少傾向を示しているが,比重の大きい消費が堅調な動きを続けている。鍵を握るのは設備投資の動向であるが,目下のところ各種の設備投資計画調査などからして,90年度に比べると減速はするものの,底固い増加傾向が続いている。これらから考えても,年度の上期は経済の拡大局面が続いているとみられるのである。
これらの点をさらに詳しくみることによって,今回の景気上昇がどのような局面を迎えているのかを,明らかにしていくことが,本章のテーマである。