平成元年
年次経済報告
平成経済の門出と日本経済の新しい潮流
平成元年8月8日
経済企画庁
63年度の建設投資総額は名目で67兆1,200億円(見込み),前年度比9.3%増となり,過去最高となる見込みである。また,名目建設投資総額を実質建設投資総額で除したデフレーター(以下「建設投資デフレーター」という。)が前年度比約1.9%の上昇となったため,実質では同7.3%増となる見込みである (第5-1表)。名目GNPに占める建設投資総額の割合は,61年度より2年連続して前年度水準を上回ったが,63年度は18.1%と引き続き前年度を上回り,57年度以来の18%台が見込まれている。
63年度の名目投資額(見込み)動向を建築と土木とに分けてみると,まず建築は,前年度比で住宅投資が6.8%増,非住宅投資は18.2%増となり,全体としては11.6%増と投資総額の伸びを上回った。また,土木は公共事業が4.9%増,公共事業以外が7.3%増となったため,全体としては5.7%増となった。63年度は非住宅投資に支えられて建築が高い伸びとなり,土木も堅調となったことから,全体として好調であったといえる。
投資主体別にみると,前年度比で政府投資の4.7%増に対して民間投資は12.0%増と高い伸びとなった。
建設投資デフレーターは落ち着いている。
建設資材価格の動きを品目別にみると,製材・木製品は下降傾向にあったが元年に入って上昇し,窯業・土石製品は横ばい,鉄鋼,金属製品は変動はあるもののほぼ横ばいで推移した。
公共投資の動向を一般会計の公共事業関係費予算(当初)でみると,62年度の前年度比2.3%減の後,63年度は同19.7%増と大きな伸びとなった。これは,厳しい財政事情の下ではあるが,経済情勢に適切に対処するため,一般会計において62年度当初予算と同額を確保するとともに,NTTの株式売払収入の活用により産業投資特別会計社会資本整備勘定に1兆2,000億円を計上したことによる。なお,一般公共事業費でみると,前年度補正後予算と同額となった。
また,63年度の公共事業等の執行については,上半期における契約済額の割合の目途を設定しない方針の下,景気の動向に応じて適切な運用を図ることとされた。
予算執行状況を反映する公共工事請負金額の推移をみると (第5-2図①),上半期は前年度に前倒し発注が行われたにも関わらず前年同期を上回ったが,下半期は前年度に「緊急経済対策」による補正が行われたことなどから前年同期を下回り,63年度全体では前年度比1.6%増となった。
公共工事請負金額の動向を発注主体別にみると,前年度比で,国,都道府県,公団・事業団等が減少したのに対し,市区町村,地方公社,その他の発注額が増加した。
一方,公共事業の進捗を示す公的固定資本形成(実質)の推移をみると,63年度全体では,前年度比2.1%増となった。四半期別にみると,前期比で4~6月期は2.4%減,7~9月期は1.8%減となった後,10~12月期は0.7%増と増加に転じ,元年1~3月期は0.9%増となった。公的固定資本形成のデフレーターは落ち着いている。
元年度における一般会計の公共事業関係費予算(当初)は6兆1,974億円,前年度比1,9%増となり,NTTの株式売払収入の活用による産業投資特別会計社会資本整備勘定の1兆2,300億円と併せた公共事業関係費は,前年度比2.0%増の7兆4,274億円となった。
63年度においては,建設投資のうち民間建設投資は64.9%を占め,前年度の63.4%より比率を高めた。また,建築着工総床面積のうち,民間建築主によるものは,91.8%を占めている。
そこで,まず民間建設投資の動向を建設業大手50社の民間からの建設工事受注額でみると (第5-3表),62年度に前年度比20.9%増の後,63年度も同31.0%増と高い伸びとなった。これを業種別にみると,製造業からの受注は,機械工業,鉄鋼業が極めて高い伸びとなり,他の業種も2割以上の増加となったため,48.6%と大幅な増加となった。また,非製造業からの受注も,商業・サービス業・保険業,不動産業をはじめとして全ての業種で前年度を上回り,27,5%増と大幅な増加となった。なお,民間,公的を合わせた施工高は,前年度比で14.3%増となり,年度末未消化工事高は,22.5%増となった。
また,民間からの建設工事受注額(元請工事額)を中小465社についてみると,前年度比で28.7%増と高い伸びとなった。
次に,建設投資での比率の高い建築工事についてみることとする。63年度の建築着工床面積は,居住用は前年度比で1.5%の減少となったものの,非居住用が16.9%増と大きく伸びたことから,全体では5.4%増と5年連続で増加した。
居住用建築物の内訳をみると,居住専用,居住産業併用いずれも減少となった。また,非居住用建築物の内訳をみると,公務・文教用など一部が減少となったものの,鉱工業用,商業用,サービス業用等が前年度比2桁の増加を示したことから,非居住用建築物全体として高い伸びとなった。
63年度の住宅建設の動向を新設住宅着工戸数でみると,総戸数は166万戸で前年度比3.8%減となったが,前年度に引き続き高水準で推移した(第5-4表)。
これを資金別にみると,民間資金による住宅は,分譲住宅が2桁の増加となったものの貸家,持家が減少したことから,全体として1.7%減となった。公的資金住宅は,ウエイトの大きい公庫住宅が9.6%減となったこともあって,全体では8.3%減となった。
また,利用関係別にみると,持家は11.7%減と大きく減少し,貸家も5.1%減と8年ぶりに減少に転じたが,分譲は16.7%の増加と高い伸びを示し,とくに共同住宅の分譲は2年度連続で20%以上の伸びとなった。
年度内の動きをその後の動きも含めてみると,貸家は,前期比で4~6月期小幅増加の後減少し,とくに10~12月期は10%を超える減少となった。1~3月期には増加となったが,全体として減少に転じた感がある。分譲住宅は,4~6月期前期比2桁増など年度前半に増加し,年度後半は年度前半の増加に比べ小幅ではあるが減少となった。持家は,4~6月期に前期比16.1%減と大幅に減少し,その後増加したものの,1~3月期には小幅ながら再び減少となった。この要因としては,公庫持家が年度を通じて前年度水準を下回り,前年度比19.3%減と大幅に減少したこと等が挙げられる。こうした動きを反映して,63年度の住宅建設は,過去3番目の水準であった前年度より減少したものの高い水準で推移し,元年度に入っても高い水準で推移している。
なお,新設着工住宅の一戸当たり平均床面積は63年度には80.1m2と前年度を1.0%上回った。これは,持家,貸家及び分譲が前年度より床面積が拡がったことのほか,分譲住宅の戸数が高い伸びを示したことなどによる。こうした結果,新設住宅着工総床面積は,前年度比で2.9%の減少となり,戸数ベースの減少率より小幅の減少となった。
63年の住宅金融の動向を住宅ローン新規貸出額でみると,全国銀行及び相互銀行は前年比で62年60.3%の大幅増の後,63年には11.6%の減少となった。また,住宅金融公庫は24.8%の増加となり,住宅金融専門会社は10.5%の減少となった。以上の結果,全国銀行,相互銀行,住宅金融公庫,住宅金融専門会社の新規貸出額の合計でみると,前年比2.5%の減少となった。また,住宅ローン金利の推移をみると,住宅金融公庫貸付金利は63年1月及び4月に,民間住宅ローン金利が4月に低下したが,ともに10月に上昇した。その後,63年末に公庫貸付金利が低下した。
最近の地価の推移を地価公示でみると,全用途の全国平均の変動率(当年1月1日時点の価格の前年1月1日時点の価格に対する変動率)は,62年に7.7%,63年に21.7%,元年には8.3%の上昇となった。
元年の地価公示により63年中の全国平均変動率をを用途別にみると,住宅地7.9%,宅地見込地10.0%,商業地10.3%,準工業地11.6%,工業地9.3%とそれぞれ上昇した。これらの用途の上昇率は,市街化調整区域内宅地5.5%上昇に比べて相対的に高いものとなっている。
地域別に全用途平均の動きをみると,大阪圏で32.1%(住宅地32.7%,商業地35.6%)と著しい上昇がみられ,名古屋圏でも16.4%となったほか,一部地方主要都市等でもかなりの地価上昇がみられたが,東京圏では1.8%となり地価が下落する地域が拡大する等沈静化傾向が顕著となった。それ以外の地域では地価は落ち着いている。なお,東京都地価動向調査によれば,63年10月1日がら元年1月1日の東京都の変動率は,住宅地マイナス1.5%,商業地マイナス0.5%となったが,64年1月1日から元年4月1日までの変動率をみると,住宅地マイナス0.8%,商業地マイナス0.2%となり,下落の幅が縮小している。