平成元年
年次経済報告
平成経済の門出と日本経済の新しい潮流
平成元年8月8日
経済企画庁
鉱工業生産は,62年度中,順調な拡大を続けた後,63年度に入ってからは,更に増勢を強めた。この結果,63年度の生産は前年度比8.8%増,出荷も8.4%増と高い伸びを示した(第2-1表)。
生産・出荷が更に増勢を強めた背景には,民間設備投資,個人消費を中心とする国内民間最終需要の堅調な増加に加え,世界経済が順調に拡大したこと等もあり,62年度に寄与がわずかであった輸出がいくぶん増加したことも寄与している(第2-2図)。また,元年3月には昭和天皇崩御に伴う自粛の反動,消費税導入に伴う駆け込み需要等も発生し,生産が前月比5.4%増,出荷が同6.5%増と大幅な増加となった。
(内需は引き続き増加,輸出も強含み)
出荷の動向を内外需要にみると,国内向け出荷は前年度比8.7%増と高い伸びとなった。一方,輸出向け出荷も63年度は5.9%増と拡大した。年度を通じた伸びからみると,62年度に引き続き63年度も内需中心の増加となっているが,輸出向け出荷は世界経済の同時拡大等の影響を受けて増加寄与を高めた。特に元年1~3月期には国内向け出荷を上回る上昇を示し,出荷全体の増加に対する寄与を拡大した (第2-3図)。
国内向け出荷について財別にみると,耐久消費財は,軽小型乗用車,輸送機械用エアコンディショナ,ビデオテープレコーダ等元年1~3月期には減少したものの年度を通してみると増加した。
非耐久消費財は,医薬品,新製品を投入したビール,コンピュータゲーム機を中心とする電子応用玩具等が増加した。
資本財は,好調な設備投資需要を反映してショベル系掘さく機,パルプ・製紙機械等の製造設備用機械,トラック等の輸送用機械がおしなべて好調であった。
生産財は,61年1~3月期以来上昇が続いており,半導体集積回路や自動車部品等が大きな寄与を示した。
建設財は,アルミニウムサッシ等の建築用金属製品が大きな増加寄与を示したほか鉄骨・軽量鉄骨等ほとんどの品目が増加した。
一方,輸出向け出荷をみると,資本財においては,ファクシミリの輸出向け出荷の水準が60年基本時の約10倍となるなど増加した。
生産財は,半導体集積回路等の電気機械部品を中心に増加した。
耐久消費財は,輸出向け出荷の水準が60年基準時の約3倍になっているビデオカメラ,電子キーボード,電子手帳が寄与した電子卓上計算機等が増加した。
非耐久消費財は,ほぼ横ばいとなった。
建設財は,低水準で低下傾向にあり,建築用金属製品をはじめとしてほとんどの品目が減少している。
以上のように63年度の生産・出荷は建設財,生産財の一部で仮需の寄与はあったものの,全体としてみれば民間設備投資,個人消費を中心とする国内最終需要の堅調な増加に支えられて順調な拡大を示した。
景気の着実な回復と在庫調整の完了により62年度がら上昇局面に入った在庫投資は,63年度に入ってからも増加を続けた。しかし,過去の景気上昇局面と比べればその増加テンポは緩やかであった (本報告第1-3-2図)。
(慎重だった製品在庫投資)
今回の景気上昇局面における形態別在庫投資の動きは従来のパターンと同じようにまず流通在庫から増加に転じ,続いて原材料在庫が増加する形となっている (本報告第5-1-8図)。
こうした中でメーカー製品在庫投資については63年度中も総じて落ち着いた動きを続けた。業種別の製品在庫動向をみると,63年度末の在庫は,主要15業種のうち食料品・たばこ,鉄鋼業,非鉄金属,窯業・土石,金属製品の5業種で減少,それ以外の業種では増加した。また,63年度平均の在庫率は,繊維,その他工業,電気機械,化学,金属の5業種で上昇,プラスチックは横ばい,それ以外の業種では減少した。
素材型関連業種の在庫は,鉄鋼が普通鋼冷延広幅帯鋼,普通鋼鋼帯,特殊鋼熱間鋼管等のため2年ぶりの増加となった。
化学は,皮膚用化粧品,頭髪用化粧品,カプロラクタム,世界的な需要の拡大を受け,高水準の生産が続いているポリスチレンのほか合成ゴム等により増加した。
一方,加工型業種についてみると,電気機械では,セパレート形エアコンディショナ,ビデオカメラ等が増加した。また,モス型半導体集積回路も,需給の緩和見通しが出始めてはいるが依然需要が堅調で,生産拡大に伴い在庫が増加した。
以上のように,63年度に入ってからの生産活動は4~6月期に一時的に低い伸びとなったものの,その後は急速な増加を示した。今後の状況をみると,需要面では輸出は寄与を拡大しつつあり,国内需要も設備投資や好調な個人消費を中心に堅調に推移するものと思われる。
また,在庫率も低い水準にあることから,全体として在庫は需要に応じて引き続き積み増しが行われると思われる。しかし,普通乗用車等の需要が好調な反面,ビデオテープレコーダ等耐久消費財の中には既に在庫水準の高い品目もあり,消費税導入等による特殊要因の影響を引き続き考慮しつつ今後の動向を注視していく必要があろう。