昭和63年
年次経済報告
内需型成長の持続と国際社会への貢献
昭和63年8月5日
経済企画庁
第3章 我が国産業の新たな展開
我が国の金融システムは,「金融革新」の進展を背景として大きく変貌しつつある。こうした中で,金融自由化は着実に進展を遂げており,このことが金融システムの変貌をさらに推し進める形となっている。そこで本節では,まず金融システム変貌の背景となっている「金融革新」について概観した後,金融自由化のインパクトや課題について探っていくこととする。なお,以下原則として,①預金取扱金融機関を銀行ないしバンクとし,②預金取扱金融機関と証券会社,保険会社等非預金取扱金融機関を総称して金融機関と呼ぶことにする。また,非預金取扱金融機関と流通業といった非銀行部門をノンバンクとする。
現在,金融・資本市場で「金融革新」(financial innovation)が進展している。金融革新について,ここでは金融商品・サービスといった金融取引面において新たな動きが急速に拡がっていくこととしておく。金融革新は金融・資本市場,ひいては金融システム全体に大きなインパクトを及ぼしている。このような金融革新は日本でのみ起きているのではなく,既にみたように世界的に生じている。
金融革新について,商品面からみていくと,銀行ではMMC,期日指定定期預金,ビッグ,ワイド,証券会社では中期国債ファンド,保険会社では変額保険といった新商品が登場し,また企業の資金調達手段として,コマーシャルペーパー(CP),ワラント付社債等が導入されている。サービス面では,クレジットカードやプリペイドカード,さらにはエレクトロニック・バンキングといった決済サービスの充実,金融先物,スワップ,オプション取引といった不確実性下のリスクヘッジ手段の開発などがあげられる。
このような金融革新の背景についてみると,第一に通信・情報処理分野を中心とした技術革新があげられる。中期国債ファンドをはじめ多くの新商品はコンピュータ処理や通信といった技術面の対応があってこそ可能になったものである。また,通信・情報処理分野の技術革新によって金融のオンライン・ネットワーク化は大きく進展し(付表3-5),エレクトロニック・バンキングをはじめサービス面での金融革新を促している。金融のオンライン・ネットワークは銀行部門の為替オンラインシステムやCDオンライン網といった銀行間のネットワークからファーム・バンキングシステムといった取引先を含めたネットワークに拡大しているほか,クレジット・カード,保険,証券会社といったノンバンクのネットワーク化へと拡大している。これは言わば金融取引に係わるインフラストラクチャーであり,国際金融市場における「24時間トレーディング」はこうした金融ネットワークが国際的なネットワークになっていることにより可能となっている。従って,技術が金融取引を変化させているといっても過言ではなく,その点については十分な認識が必要である。
第二に,国際化の進展である。第2章でみたようにバンク,ノンバンクの内外相互進出が活発化している状況下,海外での金融商品・サービス等が日本に伝播しやすくなっている。
第三に,ストック化の進展である。家計部門で貯蓄といった形で資産蓄積が進んでいるほか,企業部門でも内部留保の増加を背景に資産が着実に増加し,一方政府部門では国債の発行残高が増加している(第3-3-1図)。ストック化の進展とともに,企業・家計の金利選好意識が強まり,ニーズも多様化している。また,国債の発行増は,①公社債の発行,流通市場全体の整備を牽引しているほか,②金利の自由化を促し,③さらに中期国債ファンド,国債定期口座などの新商品を可能としている。
第四には,金利規制や業務規制等の緩和である。技術的に提供が可能な商品やサービスを実際に提供するためには,金利規制や業務規制等の緩和が必要な場合がある。
こうした金融革新の進展の下で,金融システムも大きく変貌しつつある。第一に,金融取引の多様化や相互提携の進展である(第3-3-2表)。既にみたように,新型の貯蓄商品が数多く開発され,また相互提携を通じて多くの組合せ商品,サービスが提供されている。さらに,証券の取扱についても,銀行や郵便局で国債の窓口販売が行われるなど,様々な金融機関で様々な商品,サービスが利用可能となっている。
第二に,セキュリタイゼーション(証券化)の進展である。証券流通市場が一段と整備されつつある状況の中で,流動性確保への貸し手の意識の高まりといった不確実性下のリスクに対する認識の強まりもあって,貸出から証券(社債,転換社債,ワラント付社債等)へのシフトが急速に進展している。こうした流れに伴うビジネスチャンスの拡大の下で,金融機関の証券業務取扱に対する関心が一層高まっている。
第三に,内外金融・資本市場のリンケージの強まりである。既にみたように内外の金融・資本市場の相互連関が強まっており,金融取引において,時間や国境といった概念が薄れつつある。
第四にペイメント・システム(支払決済システム)の変革である。これまでの支払決済は銀行券や小切手・手形といった「ペーパーマネー」が中心であったが,クレジットカードやプリペイドカードによる支払が普及し,さらにはファーム・バンキングやホーム・バンキング等端末を通じた資金決済方法が登場するなど支払決済の形態は大きく変化している。こうしたペイメントシステムの変革の中で,既にCDやATMの普及に伴い金融機関の店舗の様相も変わってきており,今後,エレクトロニック・バンキングが進展すれば企業や家庭の端末機が金融機関の店舗の代わりとなる可能性もあろう。
このように,金融革新が進展し,金融システム全体が大きな変貌を遂げている中で,金融の自由化が着実に進展をみている。ここで改めてやや広い視点から我が国の金融自由化について振り返っておこう。金融自由化を具体的にみると,預金金利規制,国際金融取引を含む業務規制の緩和,店舗規制の緩和,社債の有担保原則の見直しなどがあげられ,現状それらが着実に進展している(付表3-6)。例えば,預金面では大口自由金利商品の導入からその小口化へと段階的に金利自由化が行われているほか,証券業務面ではまず公共債の窓口販売からそのディーリングへと漸進的に緩和されている。一方,欧米をみると,預金金利規制は欧州では西ドイツが1967年,イギリスが1971年にそれぞれ全面自由化されているほか,米国では3年間かけて自由化が進められ1983年に実質的な自由化を終了した。証券業務関連については,株式手数料は米国では1970年初頭以来,交渉手数料制が段階的に行われており,1975年に完全自由化され,英国では1986年(ビック・バン)に一挙に自由化された。(自由化により,大口投資家の手数料は下がり,個人の小口投資家の手数料は上がる傾向がある。)さらに,米国では銀行業務と証券業務を分離することを定めた「グラス・スティーガル法」の見直しが現在進められているが,銀行・証券分離という基本的枠組みは維持されている。
(金融自由化が銀行収益に与える影響)
これまでみてきたように,日本の金融自由化も着実に進展しているが,そこでまず,金融自由化の銀行収益に及ぼすインパクトについてみていくと,それにはプラス,マイナス両面がある(第3-3-3図)。マイナス面としては競争活発化による利鞘の縮小があげられる。もちろん,低成長下において企業の借入意欲が低下し,財務内容の改善が進められてきたことや,直接金融による調達が増加したこと等も,金融機関の貸出金利競争を活発化させた大きな要因であろうが,金融の自由化・国際化が進むなかで,CDや大口定期預金による高コストの調達が増加していることも1つの要因であろう。また,自由化に対応するための機械投資のコスト負担が増加することも考えられる。一方,プラス面としては第一に効率化経営によるコスト削減がある。窓口業務の機械化はもとより,後方事務のオンライン処理により人件費率を中心に経費率が着実な低下を示している。第二に,金融自由化により,預金等の調達手段に市場金利に敏感な商品が登場したことである。これによって,他の金融商品へのシフトから,預金吸収が振るわなくなるといった「ディスインターミディエーション」が起きにくくなり,資金の確保がしやすくなると考えられる。因みに,銀行の自由金利調達比率をみると,大口定期預金,MMCが導入された60年以降急上昇している(第3-3-4図)。但し,こうした動きは銀行間の量的拡大を巡る競争を強める可能性があることに注意する必要がある。第三に,業務の自由化によるビジネスチャンスの拡大がある。国際業務や証券業務といった分野での収益は,国内預貸金業務といった本来業務からの収益を上回る伸びを示しており,現在では全体の収益の3割弱を占めるに至っている(第3-3-5図)。国際業務や証券業務といった業務分野の拡大は,単に新たな収益源が加わったということだけではなく,定期預金の受け入れと国債の窓口販売を同じ窓口で取り扱えるというように,従来のサービスと新たなサービスを言わばセット・メニューとして提供可能となっており,「範囲の経済」(economies of scope)が働いている点も無視できない。また,国際業務,証券業務の拡大は,運用・調達両面での量的拡大効果もあろう。
このように金融自由化の銀行収益に及ぼすインパクトはプラス,マイナス両面あるが,普通銀行の収益動向でみる限り,現在のところは利鞘の縮小を量的拡大や証券業務,国際業務等の収益増加で補う形でプラスがマイナスを上回っているようにみられる(前掲第3-3-3図)。もちろん,現在の好収益は,金融緩和といった循環要因も大きいが,過去の緩和局面に比べても収益水準はかなり高く,金融自由化は目下のところ,収益にプラスに働いているとの評価も可能であろう。
しかしながら現在の好収益は,61年以降の金利低下局面において,銀行の資産負債の期間構造,市場性資金調達比率が変化した結果,調達コストが運用収益に比べ市場金利の変動を反映しやすかったという要因が大きい点には注意する必要がある。現在のところ,こうした資産負債構造の変化は,銀行収益に対しプラスに寄与しているが,長い目で見た場合,金利リスクを増加させているわけであり,これについて十分な認識が必要である。また,自己資本比率規制への対応もあって,各金融機関の考え方も今後は従来の資金量,収益といった量的拡大を通じて収益を向上させていくという考え方から,「ROA」(return on asset)のように資産に対する収益率を重視する方向へ変わっていくものと考えられる。
(リスクへの対応)
金融自由化進展の下で,「範囲の経済」が働くようになっているが,金融機関としても業務拡大にだけ目をとらわれず,改めてリスクに対する十分な認識が必要である。リスクには①信用リスク,②為替リスク,③金利変動リスク,④流動性リスク等があるが,諸外国の金融機関破綻もこうしたリスク・マネージメントの失敗が原因となるケースが多い第一の信用リスクからみていく。これは金融機関の与信先が倒産したり,経営危機に陥ったりして貸付債権が回収できないリスクであり,近時国際的な問題として取り上げられている累積債務問題などもこれに含まれよう。
第二に為替変動リスクがある。為替変動については先物市場の発達などヘッジ手法が整備されてきているが,60年以降の円高の下で外国有価証券を保有する先では多額の為替差損を計上しているものもある。
第三に金利(価格)変動リスクである。これには,保有資産自体の価格変動リスクと金融機関の資産及び負債の期間構成にずれがある場合に金利変動ないし債券価格の変動に伴い金融機関の収益が不安定化するというリスクがある。
第四に,流動性リスクである。これは金融機関の預金等の資金が急激に自行から流出したり,市場調達資金の借入ができなかった場合に支障をきたすリスクである。
こうしたリスクへの対処としては,金融機関の側ではスワップ取引,先物取引,オプション取引等リスク回避を図るための取引を積極的に活用しているほか,金融自由化の進展に対するための経営戦略の一つとして,ALM(Asset Liability Management-資産負債総合管理)の本格的な導入を図ろうとしているものも少なくない。ALMとはコンピュータ技術を駆使することにより経営データの総合的分析を行うとともに金利,為替相場等経済・金融情勢の予測を行い,これらを踏まえてリスクの許容限度及び経営戦略の決定を行うものである。金融自由化の下では,銀行経営の健全性(サウンド・バンキング)が何より重要であり,その見地からは経営の自己責任原則が一層厳しく問われることになろう。
一方,公的部門としては①最後の拠り所(last resort)としての中央銀行信用機能や②準備預金制度が確立している下で,③預金保険制度の整備・拡充が実施され,④検査・考査体制が一段と整備されつつあるほか,自己資本比率規制の国際的統一基準の作成が進められているといった動きがある。もっとも,自己資本比率規制については,バンク・ノンバンクの取扱いといった問題,また預金保険機能についてはそれにより金融機関のリスク・マネージメントが甘目になりがちといったモラル・ハザートにどう対応するかなどの問題が指摘されており,その点十分な検討が必要である。
この間,金融技術革新の進展,とくにコンピュータ・ネットワークの拡大もあって,金融取引の規模が飛躍的に増大し,決済システムが大きく変化していることの影響も無視することはできない。すなわち,決済額の急増に伴い,金融機関相互間の未決済残高が膨張し,ある金融機関の決済不能を招き,これが次々と他の金融機関に伝播していくという,いわゆるシステム・リスクも潜在的に拡大しているという問題である。こうしたシステム・リスクを軽減するためには,①同じ当事者間で重複した債権・債務関係が生じた場合には,決済日を待たずにその都度取引自体をネット・アウトして新たな債権・債務に置き換えていくこと(いわゆるオブリゲーション・ネッティング)や,②ファイナリティ(支払完了性)を有する決済手段による連鎖の防止の工夫を凝らしていくことが重要である。
このような金融自由化は実体経済にどのような影響を与えているのであろうか。金融自由化と実体経済の連関について,①産業としての金融業の見方,②自由化の取引先へ及ぼす影響,③マクロ経済へのインパクトに分けてみていこう。まず,産業としての金融業についてみると,設備投資が実質ベースで57年の9,467億円から,62年には1兆6,875億円とここ5年間で約1.8倍になるなどその増加が注目される。銀行では現在第3次オンラインの構築を進めているが,その位置付けは金利自由化に伴うコスト軽減といったことに加え,何より顧客とのオンライン化といったエレクトロニック・バンキングの自由化への対応が指摘できよう。また,店舗規制の緩和措置も講じられてきており,とくに金融機関の店舗の賃貸に関する規制緩和は建設投資を活発化させるとみられる。なお,エレクトロニック・バンキングについては,通信における規制緩和と無縁でないが,高度なネットワークの形成が通信・情報処理産業といった先端産業の技術に刺激を及ぼすなど,こうした分野との相互連関も無視できない。
次に,金融自由化の取引先に及ぼす影響である。第一に,企業の金融収益の改善がある(第3-3-6図)。企業の金融収益の改善は企業の財務内容の改善により,運用資金が増加していること自体も原因であろうが,金利自由化に伴い,特定金銭信託,公社債投信,転換社債といった運用・調達手段の多様化とその利用が進んだことも少なからず寄与している。また,最近では金融自由化が進み大口定期預金等の自由金利の預金が増加していることも一因となっていると考えられる。
第二にリスクヘッジ手段の整備である。為替変動に際し,「実需原則」の撤廃もあって各経済主体が為替の先物予約を行うことはかなり一般的になっているが,金利変動についても債券の先物取引や金利スワップ,オプション取引などのリスクヘッジ手段が整備されつつある。こうしたことは,一時的あるいは短期的な為替変動や金利変動が生じても,輸出入あるいは投資といった企業活動がそれにより打撃を受けることが小さくなっていることを意味しているとみられる。
第三に,金融ネットワークの整備による金融取引コストの低下がある。従来決済に際して,取引先は通帳等を銀行の店頭にその都度持参する必要があったが,エレクトロニック・バンキングの出現により,こうした手間が省けることになる。また,資金運用・調達が端末操作で可能となれば,取引コストが軽減されるばかりでなく,一層資金効率が向上することになろう。
金融自由化のマクロ経済に及ぼす影響はどうであろうか。金融自由化は,固定的に運用されていた金融指標が自由に動くことを可能とするものであり,こうした指標が日々変動することになる。近年の金融の国際化と相俟って,内外金融市場のリンケージが強まっている状況の下で,例えば海外の要因等で人々の期待が変化を通じて,国内の金融指標が比較的大きな変動を示す場合がある。この場合,これが短期的な変動であれば,企業家の投資行動や貿易取引面等への影響が軽微にすむ可能性がある。それは,既にみたように金利・為替変動リスクのヘッジ手段が整備されつつあり,また各経済主体がリスクマネージメントに取組んでいるとみられるためである。また金利が弾力的にに変化する状況の下では,例えば物価上昇期待が生じた時,金利が上昇し(フィッシャー効果),在庫等の投資採算を通じて仮需がむしろ抑えられるといったことが期待可能であり,そうであるなら金利自由化はむしろ投資安定化要因であるとみられる。
以上のように,金融自由化が実体経済の不確実要因になるかどうかは限定的にみてよいと考えられる。因みに,実体経済の指標の変動について金融自由化が進展したとみられる55年以降とそれ以前に分けてみると,最近は景気循環の主役である投資あるいは物価の変動は小さくなっており,実質GNPのフレも小幅化するなど,安定成長が維持されているとの結果が得られている(第3-3-7表)。なお,金融自由化により投機が容易になり,それが金融指標のオーバーシュートをもたらすとの見方があるが,理論的には投機はむしろ安定化要因である場合があることには留意する必要がある。
この間,金利自由化は資金の効率的配分をもたらすというメリットがある点は重要である。金利が自由化により市場実勢を反映するようになると,投資や消費がその機会費用である金利に対してむしろ感応的になる可能性もある(第5章第3節参照)。
金融自由化はこのように着実に進展しているが,金融システムのあり方について残された課題が少なくない。それらを検討するにあたって幾つかの視点をあげておく。
第一に,国際化と自由化の関係である。内外の規制の相違は,より規制の緩やかなユーロ市場の発展にみられるように制度の国際化が促進するが,その結果内外に様々な問題を生じる場合がある。
例えば「国内市場の空洞化」の問題がある。例えば国内社債市場は海外に比べ,①起債日程②償還期間③変動利付債といった発行形態④担保(日本では有担保が主流,海外は無担保)⑤発行限度といった点で規制度が強い。近年,日本企業の海外での社債発行が急増し,ほぼ国内での発行と肩を並べるに至っているほか,非居住者の円建債発行についてもユーロ市場で行うケースが既に約8割を占めている(第3-3-8図)。これは,内外市場動向や,企業活動の国際化といった要因による面も大きいが,そうした制度・慣行面の要因も指摘されている。このような状況は「国内市場の空洞化」の恐れがあることを示唆するものである。国内市場の空洞化は,国内の投資機会を流出させている可能性があり,また,資金調達の海外市場依存は海外市場に支障が生じた場合,直ちに企業の資金調達が困難となる可能性を持っている。
なお,金融の国際化で見逃せないのが,金融取引に係わる税制である。これを海外主要国と比較したものが第3-3-9表である。前述のように資金は自己に有利な市場を選択することを考えれば,このような税制の相違が国内市場から海外市場へのシフトをもたらさないか注視していくことも必要となろう。
このような内外の制度の違いの下で,日本では海外から進出してくる金融機関に対しては,日本の金融機関と同じ扱いを保証する内国民待遇がとられてきた。ところが最近,西欧諸国の中では金融・資本市場を改革する際,自国と同様の業務を行えない国の金融機関に対しては,自国内への進出を制限するといった形の相互主義が盛り込まれる例もみられる。
また,本邦金融機関の海外進出については,海外市場で本邦金融機関が活発に活動を行うことに伴い,これが日本の「オーバープレゼンス」として問題とされることもある点に留意する必要がある。(本邦金融機関の海外進出はのべ500弱にのぼっているが,ユーロ取引の中心であるロンドン市場での邦銀のユーロ預金取り扱い分のシェアをみると1980年前後から上昇し,1982年には米国銀行を抜き最近では約4割と最大のシェアを占めるに至っている(第3-3-10図)。
以上のような状況にたいしてどのように臨むかはかなり難しいが,金融のグローバリゼーションが進展する中で,我が国においても,預金者保護,投資家保護といった点には十分配慮しつつ,今後とも一層の金融自由化を進めていくことが望まれる。
第二に金融政策の有効性確保の問題である。我が国の金融調節手段としては,貸出政策(公定歩合操作を含む),準備率操作,手形の売買操作等が使われている。これらの金融調節手段は主としてインターバンク金利を操作することにより,金利水準全般に影響を与え,企業,家計の支出活動を変化させることを目標としている。
近年のオープン市場の急拡大を踏まえ,金融政策の有効性を確保するためにも,短期金融市場の整備・拡充を継続するとともに,引き続きオープン市場における金融調節の有効性を高めるよう努めることが望まれる。