昭和63年
年次経済報告
内需型成長の持続と国際社会への貢献
昭和63年8月5日
経済企画庁
第3章 我が国産業の新たな展開
我が国産業は円高の下で着実な構造変化を示しつつ,情報技術革新を中心とした技術革新の進展の下で,新たな発展に向かって進みはじめている。こうした動きは製造業,非製造業を問わず生じていることであるが,非製造業においては製造業と異なり貿易を通じるインパクトが小さいだけに,国民生活の向上に応えていくことを含め,今後取り組まなければならない課題を抱えている分野がなお多い。また,こうした課題を解決していくことが,国民生活をより豊かなものにしていく上でも非常に重要になっている。以下では,流通,運輸,通信,建設,農業について直面する課題と対応策についてみていくこととする。
1.流通業
流通業については既にみたとおり,個人消費の堅調等を背景として業況は順調に推移しており,設備投資,雇用吸収面でも積極姿勢を示している。こうした中で,POS,VANといった情報技術革新への対応等から労働生産性も着実に上昇している。しかし,流通業については,円高差益還元や国際化との関係で,①生産性が低く,消費者に高い小売価格を強いていないか,②市場アクセスを阻害していないか,という批判が存在する。こうした批判につながる問題点としてあげられることがある以下の3つの点についてみていくことにしよう。
第一は,産業構造的側面であって,小売業の零細性,稠密性と卸売業の多段階性である。これはまず,小売業では従業員10人未満が店舗全体の93%を占めているとともに,店舗密度も1万人当り135店と,米国の81店(82年),西独の67店(85年)に比べ稠密になっている。これは,①我が国では生鮮食料品の消費量が多いこと,②欧米と異なり大規模な貯蔵庫を持つ家庭が少ないという住宅事情もあって,多頻度小口購買という消費行動が一般的であること,③消費者がコミュニケーションの場として考えていること等から身近な小売店へのニーズが高いなど,生活習慣,社会事情が背景となっている面もあると考えられる。小売業の効率性を販売効率(一人当り売上高)でみると,①販売効率では測れないサービスの質を考慮する必要があること,②コンビニエンスストアの急成長等により販売効率の上昇率は零細小売業の方が高いことには留意する必要があるものの,規模が大きいほど高くなっている(第3-2-1図)。卸売業では繊維製品,生鮮魚貝,穀物類等で多段階となっているが,これは小売店舗数が著しく多いという状況の下で,効率よく小売店へ配達を行うこと等がこうした仕組みを作り上げた理由と考えられる。この卸売業の多段階性が,高い商業マージン率の原因であると指摘されることが多いが,第3-2-2図をみる限り一般的にそうした関係がみられるとは言えない。また,物流・商流に係るコスト削減という卸売業の本質的機能から考えると卸売段階数が多く,商業マージンが高くても,これを上回る取引コストを節約しているのであれば効率的に機能しているとの見方も出来るであろう。近年消費者ニーズの多様化を背景として小口多頻度流通が要請されており,卸売業のこうした機能の重要性は高まっていると考えられるが,その反面,決済処理のオンライン化と小口多頻度輸送能力の飛躍的向上により,商流・物流双方の面で卸売業が多段階であることによる取引コスト節約機能の必要性が緩和されている面もあると考えられる。
第二は,返品制度やリベート制などの商習慣の問題である。
まず,返品制については,返品受け入れにより売れ行きの悪い商品の早期回収と他の地域・店舗への再配置を可能にしたり,新規商品の参入を容易にするという機能を持つが,一方で返品に伴い輸送コスト及び管理コストを増大させ流通コスト全体を押し上げる面もあると考えられる。また,輸入品の場合には,外国メーカーがこのような慣習を持たないことから,輸入代理店が返品リスクを被ることになり,市場アクセスを困難にするという指摘もなされている。
次にリベート制の問題については,複雑かつ不明瞭なリベート体系が市場アクセスとの関連で議論されたりしているが,さらに,メーカーの価格戦略とあいまって小売価格の硬直性を招いている点も指摘されることがある。つまり,流通段階における取引はメーカーの設定する希望小売価格とこれを基に設定される流通段階における取引価格(建値)を基準に行われる(公正取引委員会アンケート調査,希望小売価格を採用しているメーカー:全部の取引78.9%,半分以上の取引21.1%,合計100%。建値制を採用しているメーカー:85.5%)ことが多いが,メーカーはブランドイメージの確保を重視するために末端の小売価格をメーカーの希望小売価格近くに維持したいと考えていることが多い。メーカーの多くは流通業者が価格競争的な行動(低価格の仕入れと低価格の販売の価格)よりも,希望小売価格で販売促進を行うことにより利益確保を図るようなインセンティブを与えたいと考えており,リベートがこうした手段に使われることもある。無論,リベートは価格競争促進的な役割をもっている面もあるが,それが小売価格の下方硬直性をもたらすような場合には注意を要する。
第三に系列化の問題である。一般的にメーカーの収益は販売力に左右されることが大きいことから,家電・自動車・化粧品等一部の分野では流通機構を系列化し,アフターサービスを充実させる他,先にみたリベートの支給等により販売促進を図る仕組みをつくりあげている例がみられる。こうした系列化は特に国内に流通ネットワークを持たない外国メーカーにとって利用しにくい流通チャンネルであるといった指摘がなされることもあるが,外国メーカーが国内メーカーと提携して販売促進を図る動きもみられる。以上みてきたようなシステムは一面で合理性をもつものであることは確かであるが,とくにこうしたシステムが小売店の価格競争促進よりも利益確保,小売価格硬直化につながる場合には,価格選好を強めている消費者の強い不満の原因となるものと考えられる。また,流通業がこうしたシステムに頼って価格競争を回避している場合には,流通業自身がダイナミックな成長・発展の芽を自ら摘みとってしまう可能性がある。
以上のような日本の流通構造は,我が国の歴史的な流れの中で形づくられてきた訳であるが,近年円高や技術革新といった大きな環境変化が流通業の変貌を迫っている。
まず,円高やアジアNIEs製品の品質向上といった下での製品輸入の急増である。従来輸入品国内流通ルートは,輸入総代理店等の既存の国内流通ルートを通じるものであったが,今回の円高の下で,輸入チャンネルの増大が顕在化した。流通ルートの多元化としては,並行輸入,開発輸入,外国企業の対日販売ル-ト強化,等がある。
並行輸入についてみると,小売店の並行輸入品販売状況は,公正取引委員会の62年3月公表の調査によると,百貨店57社のうち50.9%,量販店72社のうち44.4%が取り扱っており,最近ますますその動きは活発となっており,取扱業者も輸入専門業者,卸売業者,百貨店等の小売業者,さらには大手総合商社まで広範にわたっている。開発輸入も,大手の百貨店,ス-パ-を中心に急速に拡大している。取扱商品は,衣料品が中心であるが,食料,家具,家電製品など多様化が進んでいる。
また,外国企業の対日販売ル-ト強化の動きについては,海外の大手メーカーが輸入総代理店との契約を解消して直接我が国に進出したり,複数の新たな提携先を開拓したり,日本向け商品を新規に開発・投入するなどの積極的な販売姿勢をみせるようになっている。
このような輸入製品の販売ルートの拡大は,消費者の価格意識の高まりの下で,小売店間,卸売店間あるいは小売店と卸売店との間の競争を激化させている。輸入品を取り扱う量販店ディスカウントストアーがまだ規模としては小さいものの,急激に台頭してきたことから,既存の流通業者は新たな対応を迫られていると言えよう。
次に情報技術革新である。情報システム化の動きをみると,POS(販売時点情報管理)については63年3月末で設置店舗数が20,000店を超えるなど,ここ1年で約倍増しており,引続き急速な拡大が予想されている(第3-2-3図)。VAN(付加価値通信網)利用に関する流通業のニーズをみてみると,63年3月末現在で,約197社(届出数の約40%)が一般第二種電気通信事業者の届出を行って電気通信網の利用を行っており,そのニーズの高さがうかがわれる。また,ホームオートメーションの下で家庭にある端末操作だけで商品のリストアップ,注文,決済が可能となるホームショッピング,ホームバンキングも現実のものとなりつつある。
こうした情報技術革新の流通業界へ及ぼすインパクトとしては,第一に,小売店経営の効率化があげられる。POSの導入により,売れ筋情報が迅速にとらえられるようになることから在庫管理が効率化する(前掲第3-2-3図参照)。第二に,卸売業の活性化である。POSの導入により流通コストが低下し,生産,販売の不確実性が薄れるため,その役割が改めて問われる。卸売業者が付加価値の高い情報提供サービスや,より有利な仕入れ先,販売先を求めていく努力を怠れば,生産者及び小売業のいずれからも排除されてしまう立場に立たされているといえる。第3に,流通業界全体の効率化である。小売,卸売それぞれが効率化することにとどまらず,POS,VANさらにはホームショッピングといったネットワークの拡がりによりこれまで補完関係にあった小売と卸売が競争関係となる。
以上のように,円高や情報技術革新の進展の下で,流通業も今後一層ダイナミックに変貌を遂げていくものとみられ,そうした状況下,企業でも生き残りのためには環境変化への積極的な対応が求められる。この場合,流通業には第5章でみるように大店法や,酒税法・食糧管理法等の規制が存在している。こうした規制はそれぞれ,消費者の利益保護に配慮した小売業の発展,税の確保,主食である米の安定的供給等を目的にしたものであるが,新しい消費者ニーズへの対応との兼ね合い等に配慮する必要も生じてきている。平等な競争条件の確保,ひいては流通業の活性化のためにもこうした規制についても必要に応じて見直していくことが必要であろう。
2.運輸業
運輸業の中には鉄道,自動車,航空,海運等,事業の内容・規模を著しく異にする業態が存在し,互いに競合関係を持ちつつ,産業構造,企業行動,顧客ニーズの変化に直面している。これらの産業のうち,あるものについては,経済・社会の急速な変化などから,通勤ラッシュの問題等需給のアンバランスや運賃問題についての関心が国民生活上高まっている。
ここ10年間における各業態の発展についてみると,旅客については航空,民営鉄道が概ね順調である一方,タクシー,バスが停滞しており,旧国鉄については昭和57年度以降微増となっているが,概ね停滞傾向で推移している。また貨物については航空,トラックが順調である一方,旧国鉄,海運などが低迷しているなど,旅客,貨物ともに二面性がある(第3-2-4図)。このような,二面性をもたらした要因は次のように整理される。
第一は,時間・利便性選好の高まりと所得水準の上昇である。これが旅客,貨物における航空,自動車輸送の発展と旧国鉄,海運の停滞の大きな原因であった。
第二は,貨物については産業構造の変貌の影響がある。重厚長大型から軽薄短小型へと運ぶ物の重点が移り,また加工組立型産業工場が内陸部地方に立地するようになった。これは航空やトラックにとっては競合関係上プラスに働いたが,旧国鉄や海運にとってはマイナスに働いた。
第3は,社会資本整備の進捗がもたらした影響である。高速道路網の整備や地方空港の建設は,航空やトラックにとって業務拡大の可能性を与えた。他方,旧国鉄は,これらによって航空・自動車が遠距離輸送分野の主要な担い手に成長するなど,交通機関相互の競争が活発化する中で対応が遅れた上,採算にのらない新線を押し付けられ収益悪化に苦しんだ。因みに,39年に旧国鉄が赤字に転落した後も工事未了路線を含めると約1800km(全体の約8%)の新線が建設された。バス,タクシーにとっては都市の社会資本不足が交通混雑となって効率低下を招いた。
第4は,人口の都市集中である。これによって民営鉄道は効率のよい経営が可能であるばかりでなく,兼業部門の収益増加が実現した。旧国鉄にとっては全国一律料金制で都市では民営鉄道との対比で約5~6割の割高運賃で客を失い,地方では人口流出と乗用車普及のため客を失った(第3-2-5図)。
第5は,技術進歩と設備投資である。航空では大型ジェット機の導入で高速大量輸送が可能となった。トラック運送業ではまず,大口貨物に比べコスト高である宅配便の取扱いを効率化するため,自社内の全国オンラインネットワ-クを構築し,さらには取引先との受発注等を効率化するため,VANの活用により取引先とのネットワ-クを整備している。こうした対応により,資本装備率の上昇から労働生産性の上昇も明確にあらわれている(第3-2-6図)。
第6は,経営者精神の発揮である。トラックでは宅配便という新分野を開発し,発展させた。そのサ-ビス内容も現在では,ゴルフ・スキ-はもとより,産地直送,買物,書籍さらには国際宅配便と多岐にわたっている。民営鉄道では不動産や商業・レジャーへと多角化を図った。これに対し,旧国鉄は業務範囲が制約され,多角的・弾力的な事業活動が困難となっていた。
こうした環境変化に対応するため,近年運輸産業の枠組みを見直す大きな改革が実施された。民営化,規制緩和である。第一に62年4月1日の民営JR各社の誕生である。我が国の基幹的輸送機関であった国鉄は,6つの旅客会社と一つの貨物会社等に分割され,地域に密着した利用者重視の効率的な輸送を提供し得る体制が整備されるとともに,国鉄時代に比較して,その事業運営に関する国の規制は大幅に緩和され,本来事業である鉄道事業との関連の有無にかかわらず広く事業範囲を拡大し得ることとなった。第二に,航空の分野においては,航空憲法を廃止し,国際線の複数社制及び国内線のダブル・トリプルトラック化を促進するとともに,競争条件の均等化等を図るために,日本航空を完全民営化したことである。第三に,やや古くなるが宅配便の規制緩和,そのほか細かい運賃規制の緩和である(種々の割引き料金の認可など)。
今後の課題としては,次の3点があげられる。第一は,経営努力である。JRについては民営化後,1年目の結果は労使の意識改革が進み,収益についても概ね順調に推移している(第5章参照)が引き続き労使一体となった企業努力が求められている。他の運輸業についても競争の導入により一層の経営努力が要請される。
第二は社会資本の一層の充実である。航空については我が国の国際,国内の航空輸送需要が増大し,しかもその大部分が東京圏,大阪圏に存する三基幹空港に集中していることから,これらの三空港の処理能力は,限界に達しつつある。今後の航空輸送需要の増大に適切に対処するとともに,航空企業の競争促進施策を円滑に推進するため,現在,関西国際空港の整備,新東京国際空港の整備,東京国際空港の沖合展開等を進めており,今後ともこれらをはじめとする空港の整備を計画的に推進していく必要がある。バス,タクシーにとっては,交通混雑をなくす都市の道路整備が必要である。民営鉄道は自らの手で混雑緩和のための輸送力増強に取り組まなければならない。大都市部の民営鉄道は,従来から路線の新設,複々線化,列車の長編成化等を図ってきたが,さらに,61年度に創設された運賃収入の一部を非課税で積み立て,これを複々線化等の工事資金に充てることができる特定都市鉄道整備積立金制度の活用により,工事の促進を図っている。
第三は一層の競争促進施策の導入である。例えば,航空についてみると米国においてはかなり大胆な規制緩和(56年路線認可制,58年運賃認可制がそれぞれ廃止)が実施されている。この米国における規制緩和の評価については大きく2つに分かれている。即ち,①サービスの選択の幅が拡大するとともに,効率性の上昇により実質運賃は低下し(第3-2-7図),利用者の利益がもたらされている,②不採算路線における路線の切り捨てやスケジュール・運賃面での格差が発生したほか,航空便の採算路線への集中等により,主要空港の混雑化が進み,航空便の遅延が生じるようになったといった指摘である。我が国の場合,安全性等の面から米国と同じ政策をとることが最適であるとは断言し難い環境にあること,空港容量の不足という制約があること等から,当面は極力弾力的な行政運営を行うことにより競争促進施策を進める方針が打ち出されている。従って当面はこのような方針の下,ダブル・トリプルトラッキング化の一層推進,各種割引運賃の積極的導入等により実質的な運賃負担の軽減を図っていくことが必要である。
3.電気通信業
電気通信業(以下「通信業」という)は情報化の流れの下で急成長を遂げているが,とくに技術進歩と規制緩和・電電公社の民営化という二つの要因が発展を加速している。まず,技術革新は,①アナログ通信からデジタル通信への高度化,②自動車電話,無線呼び出し等の移動体通信の出現といった通信サービスの多様化,③データ通信を含めた通信の国際化といった発展を可能にしている(前掲第3-1-9図)。
また,規制緩和と電電公社の民営化は好ましい効果をあげている。第一に新規参入による競争活発化である。第3-2-8表にみるとおり参入が著しく増加している。これに対しNTTも経営効率化に努めている(第5章第2節参照)。業種の活性化,効率化をもたらす点も重要である。他業種の通信関連分野のビジネスチャンス拡大による活性化はいうまでもないが,流通,運送といった業種が物流等の合理化,効率化を図るため,VANを積極的に活用している。
第二に,競争活発化の下での通信料金引き下げである。電話料金については第1種電気通信事業者は新規参入するに際し,区間や事業者によって異なるもののNTT対比約1~4割安の料金設定を行った。これに対し,NTTでも63年2月に長距離通話料(320km超)を10%引き下げた(第3-2-9図)。また,専用サービスについても新規事業者の低料金に対抗してNTTは62年8月には平均10%の引下げを行っている。
第三に内需拡大効果である。新規参入に伴う設備投資額は60年から62年の3年間で約7000億円にのぼっており,通信業全体の設備投資が底上げされている。この間,通信機,コンピュータ,端末等の生産動向をみると,最近全産業合計の生産をはるかに上回る伸びを示している(第3-2-10図)。このことは,競争活発化の下で,通信サービスの低廉化・多様化がさらに進展していけば,それに誘発されてユーザーサイドの支出も一層活発化していくことを期待させるものである。実際,電話機販売の自由化により,メーカーが機能性,利便性,ファッション性で競争を行った結果,販売が急増している。
以上のように,規制緩和,民営化は目下のところ所期の目的に沿った形で成果をあらわしつつある。電気通信事業法は本年4月で施行後3年を経過し,同法附則第2条に基づく同法の施行状況の検討の結果,この段階では法改正の必要はないとされたが,引き続き今後の市場実態,技術革新の進展状況あるいは内外の社会経済状況の動向を踏まえ,必要に応じて適宜検討を行い,利用者の利便の向上,電気通信事業全体の発展に資するよう適切な措置を講じることが必要であると考えられる。
今後の主要な検討課題としては,まず第一に,円滑な参入を促進し,活力ある市場に育てていくことである。この場合,行政の判断基準の明確化,透明性確保を図ることについて経済界から意見,要望が寄せられている。
第二に,事業者の一層の経営努力や事業者間の競争を通じて料金の引下げが望まれる。その際,NTTと新規参入事業者との間の公正かつ有効な競争を確保することが重要であり,そのためには回線網の相互接続の円滑化,技術・ネットワーク情報等の開示などが重要である。さらに,事業展開に当たり他者の設備等を利用することが合理的な場合における業務委託システムの一層の有効活用方法について検討を行うことが求められている。
第三に,電気通信事業者の企業体質の強化,電気通信ネットワークの高度化,国際化への積極的対応,通信と放送の境界領域的サービスへの対応などがあげられる。この中で,通信と放送の境界領域的サービスについて述べると,今後の技術革新に伴い,通信と放送の境界領域的サービスとも言うべきものが開発されることが予想されるが,このような新しいサービスの普及に十分対応し得るよう先行的研究が必要であると考えられる。
通信は多様化を伴いながら急速に成長している分野である。また,国民生活との係りからみても益々密接なものとなっている。こうした観点からも上記の措置を通じて通信業の一層健全な発展が望まれる。
4.建設業
建設業をめぐる環境は,海外工事を除いて最近,民間建設,住宅,公共工事いずれの分野をとっても順調であり(第3-2-11図),その背景には基本的には内需主導型成長といた需要面の拡大がある。
こうしたマクロ的,量的な動きの中でミクロ的,質的な面での変化も同時に進行している(付表3-3)。第一に,情報化への対応である。OA(オフイス・オートメーション)化,FA(ファクトリー・オートメーション)化さらには高度情報通信機能と防災・防犯などのビル自動管理システムを備えたインテリジェント・ビル,HA(ホームオートメーション)化,CATV(有線テレビ放送),高度情報社会の振興というように建設活動の情報技術革新への積極的な対応がある。
第二に,規格生産への取組がある。住宅建築においては注文住宅のみならず,建設会社がプレハブ住宅やユニット型というように一定の規格を設定し,住宅のパーツを工場生産した後,現場で組立を行うといった工法を導入している。こうした工法により,住宅の品質の確保,工期の短縮が可能となるとともに,コスト・ダウンを通じた安価な住宅(上物)が提供可能となる。
第三に,建築技術の進歩である。建設業でのそれは他業種に比べやや遅れているものの,超高層建築技術の進歩や今後ロボット技術の利用が期待される。 こうした中で建設業は次のような課題を抱えている。第一に,労働生産性の向上である。建設業では資本金1億円未満の中小零細業者が全体の98.6%(「個人」を除く)を占めているが,規模が小さいほど生産性が低いという関係がみられる(第3-2-12図)。また,全体でも生産性が低い。規格生産の導入,建築技術の進歩などによって規模を問わず,生産性上昇が期待される。それとともに,公共工事についても発注等級区分(公共工事においては,建設業者を等級区分し,工事規模に応じて対応する等級の企業に発注する方式が採用されている)の合理的な運用に今後とも努める必要がある。
第二に,技能労働者の不足がその高齢化の下で目立ってきていることである(第3-2-13図)。技能労働者数の推移をみると最近はやや減少している。このような状況の下で,労務単価の上昇傾向はやむをえない面があるが,技能労働者の絶対的不足が生ずることは避けなければならない。従って,今後は技能労働者の教育訓練を行いつつ,人材確保を行っていく必要がある。
第三に,国際化への取組みである。我が国建設業の海外受注実績は,第3-2-14図の通り,昭和56年度に急速に増加して以来,61年度には9,521億円と堅調な推移をみせており,我が国建設業にとって海外建設活動は今後とも重要な分野となろう。一方,先般決着した公共事業をめぐる日米間交渉を契機とした外国企業による我が国建設市場への参入の動きも国際化の新たな局面としてクローズアップされてくると考えられる。これらの急速な国際化の進展をふまえ,価格・非価格競争力の向上等を通じた国際競争力の強化を図るとともに,外国建設業界との交流を促進する等の積極的対応が必要となろう。
第四は,公正な競争の確保である。公正取引委員会では59年2月「公共工事に係る建設業における事業者団体の諸活動に関する独占禁止法上の指針」を策定し,事業者団体の公共工事に係わる「情報提供活動」,「経営指導活動」等の諸活動について指導を行っている。建設業の健全な発展のためにも,市場原理に基づく公正な競争を今後とも確保していくことが望まれる。
5.農業
我が国の農業の環境は,国際化に関連し大きく変化している。円高進行の下で内外価格差が注目される中で,輸入自由化問題に前向きに対応している姿が窺われる。最近の自由化問題を振り返ると,本年2月にGATT勧告を受けた農産物12品目のうち,いわゆる8品目については自由化の検討を行うこととなっている。また,牛肉,かんきつの輸入についても日米間等で話合いが行われた結果,同年6月,牛肉,生鮮オレンジは66年4月に,オレンジ果汁は67年4月に自由化することが決定された。こうしたことの背景の一つには,世界的な農産物の過剰状態のなかで輸出国間での競争の激化がある一方で輸入国に対する市場開放要請が一層強まっていることがある。こうしたことから国際的に農業政策を見直そうとの気運があり,1987年5月のOECD閣僚理事会コミュニケでも,①農業助成の漸進的削減等を通じ,長期的に市場原理が生産の方向付けに影響を与えるようにする,②食糧の安定供給の確保等純経済的でない社会的その他の要請に配慮する,③市場の不均衡の悪化を阻止するため需要見通しを改善,供給過剰を抑制する措置を実施する,など農業政策の協調的改革を均衡のとれた方法で実施する旨謳っている。なお,我が国の農水産物の輸入制限品目は22品目(その他,米,小麦等の国家貿易品目がある)となっており,一方他の先進国の輸入制限品目数をみると,アメリカが5品目(この他ガット上輸入制限が認められているウェーバー条項品目14品目),フランスが19品目,西ドイツが3品目,イギリスが1品目,この他ECは共通農業政策に基づく課徴金制度が64品目となっている。
このような国際化の流れの中で我が国の農業が急を要する課題は,生産性向上である。我が国の農業がコストダウンを図っていくことが,産業として生き残っていくための必須の条件だからである。物的な生産性について,国際比較を行ってみると(第3-2-15図),アメリカは労働生産性が高い一方,土地生産性が低い。逆に我が国は労働生産性が低く,土地生産性が高い。そしてその中間にあるのが西ドイツである。このような違いは,そもそも各国毎の地理的,自然的条件や土地を中心とした要素賦存状況,社会的条件やこれまでの歴史的経緯の違い等によって発生したものとみられる。
次に,個別品目の物的生産性をみてみると,差異が窺われる。まず米については(第3-2-16図),40年代までは農薬,品種改良といった技術革新の応用から労働生産性,土地生産性ともに上昇していたが,50年代に入り,機械化等から労働生産性は引き続き上昇する一方,国際的に優位にある土地生産性は,その伸びが鈍化していることがわかる。米の土地生産性について国際比較を行うと,我が国はタイとの比較では断然高いものの,韓国には50年代初めに逆転され,アメリカとの格差も最近急速に縮小している(第3-2-17図)。これは,我が国では需要が停滞する中で,食味を重視した品種選択が行われている面が大きいとみられる。一方,アメリカの米の大宗を占める長粒種の土地生産性は低いが,我が国の米と同じ種類に属しカルフォルニアを中心とする短粒種は土地生産性が高く,単収籾ベ-スでは8.4トン/ヘクタール(直近3ヶ年平均)と日本の6.3トン/ヘクタール(同)を凌駕するに至っている。これは,我が国とアメリカで気象条件,土地利用形態等の違いが主たる要因と考えられるが,土地生産性が高い品種の改良・普及を行ったこと等技術革新による点も指摘されている。鶏卵については,①自由競争の下で規模の拡大による企業的経営もみられるようになったこと,②疾病予防をはじめ飼養管理技術が向上したことなどから,生産性が上昇している(第3-2-18図)。牛乳についても,①規模の拡大,②搾乳機械等の導入にみられるような資本集約化,③飼養管理技術及び遺伝能力の向上等からやはり生産性が上昇しており,また実用化水準に達している牛の受精卵移植技術についてもその普及が図られている(第3-2-18図)。このような物的生産性の差異の背景には経営形態や土地依存度の違いに加えてやはり規模と技術の問題があるようにみられる。さらに,生産性でも物量だけではなく,質的な付加価値生産性がある。この点について,需要サイドから探ってみると,第3-2-19図にみられるように,食料品の高品質化志向が強まっていることが窺われる。特に米については,需要が停滞する中でやや割高とはいえ,コシヒカリ,ササニシキなどが人気を呼んでいる点は注目される。
以上のような過去の経験,海外の経験を踏まえてみると,我が国の農業は,規模の拡大と技術革新などの組合せで物的生産性の上昇を図るとともに,ニーズに対応した高品質化,高付加価値化を図ることが活路につながるとみられる。このためには,今後とも農地の区画整理や用排水路の整備を内容とするほ場整備などにより規模拡大の条件整備に努める必要がある。また,55年の農用地利用増進法の施行等により,農地の集約化等が進められているが,今後,一層,担い手農家へ農地の利用が集積されるとともにその効果が十分発揮されることが必要である。また,技術開発にとって重要となる品種改良や種子はまさにバイオテクノロジーといった先端技術分野であり,民間活力の導入を行いつつ,今後,その開発を急ぐ必要がある。さらに生産性向上には競争原理の活用も重要である。
また,流通面でも競争原理の導入が求められている。そこで,食管制度についてみてみよう。食管制度は国民食糧の確保及び国民経済の安定を図るため食糧を管理し,その需給及び価格の調整並びに流通の規制を行うものであり,政府が責任をもって管理することにより生産者に対しては再生産を確保し,消費者に対しては安定的に供給責任を果たすことを基本としている。こうした目的の下でも,過剰米の発生やニーズの多様化・高度化に対応して制度改定が行われてきている。すなわち,①自主流通制度の導入(44年),②物価統制令の適用廃止(47年),③政府売渡価格(47年)および政府買入価格(54年)の銘柄間格差導入,④過剰,不足のいかなる需給事情の変動にも対応しうる法制の整備(56年),⑤複数卸制度の導入(60年),⑥政府米売却への競争的要素の導入(60年),⑦米集荷への競争原理の導入(60年)というように制度変更が幾度か行われた(第3-2-20表)。この結果,例えば自主流通米の比率が4割を超えるに至っているなど弾力化が図られている。また,63年度においても米流通の各段階において新規参入や業務区域の拡大を図るとともに,自主流通制度については,需給事情や市場実勢に応じた取り引きが行われるよう制度の弾力化を図りつつ,自主流通米の比率を3年ないし5年後には6割程度とすることを目標としている。このように米流通は市場メカニズムによって消費者ニーズの変化に対応した柔軟なシステムに転換している。こうした方向は時代の要請に対応しており,生産面の効率化にも役立っているものと考えられる。今後とも競争原理の活用を図っていくことが重要である。
こうした生産性上昇はそれ自身農業の体質強化に繋がるが,一方で生産者価格引下げの余地が広がる点も見逃せない。そして,価格低下は国民生活の向上をもたらすばかりでなく,消費増加及び用途の拡大を通じた農業の発展への効果を期待しうる場合も十分ありえよう。もちろん,消費は人々の嗜好や生活パターン等の変化の影響を大きく受けるが,過去の消費と価格の関係をみると,中・長期的には両者に関連性が窺われる(第3-2-21図)。従って,価格引下げによって需要増加を期待できる可能性もある。この間,内外価格差の問題で注目を浴びているものに,種々の価格支持制度がある。農産物の価格政策については,米,麦,牛肉等と広範にわたっている(付表3-4)。これは本来,国民経済の安定を図る為,公的部門が価格安定化機能を発揮することを目的としてとられた制度とみられる。近年,これらの行政価格は抑制的に運用されているが,国民から内外価格差の縮小が期待されている。競争原理の活用を図りつつある状況下,国民経済全体のバランスを勘案して制度の弾力的対応が望まれる。
このような輸入自由化をはじめとする環境変化の中で,中長期的な発展のため,我が国の農業はさらに一層効率化,活性化に取り組まなければならず,政策的には,食料の安定供給,国土の保全等に配慮するとともに産業として自立できるような対応が必要となっている。