昭和63年
年次経済報告
内需型成長の持続と国際社会への貢献
昭和63年8月5日
経済企画庁
本年度の経済白書は,昭和62年度及び63年度初めの我が国経済について分析しております。
60年秋以降の急激な円高によって我が国は円高デフレに見舞われましたが,これは二度にわたる石油危機にも匹敵する重大な影響をもたらしました。我が国経済は産業の空洞化が懸念されるとともに,雇用不安に見舞われるほどになりましたが,今日では国内需要が力強く伸びており,雇用環境も著しく改善し,広く好況感が浸透するまでになっています。
また,輸入が大幅に増加する形で経常収支の黒字は着実に縮小しており物価も落ち着いているなど望ましい形の内需主導型経済が実現しています。これは企業をはじめとする国民各界各層の皆様が積極的に問題の解決に取り組まれたこと,併せて,緊急経済対策など財政金融政策も効果をあげたことなどによるものです。
我が国経済が内需主導型で成長することは世界経済の調和ある発展のためにも大切です。既に,内需主導型の成長で製品輸入の拡大等が生じており,これらを通して欧米やアジアNIESなど世界経済の拡大と発展に寄与しています。わが国は世界の中で益々その地位を高めており,国際社会の安定と発展のために重要な責務と役割を担っています。経済面では自由貿易体制の維持,経済協力の充実拡大,累積債務と資金還流,国際通貨秩序の安定などでも一層の役割を果たしてゆかねばなりません。
他方,円高によって,我が国の一人当たりGNPは世界でトップに肩をならべるようになりました。世界の諸国も日本を豊かな国としてその役割を期待しています。しかし,私達の生活実感からは,その豊かさが十分惑じられないことも否定出来ません。食料,住居や労働時間などで,もっともっと,改善されなくてはなりません。このためには,これまでの制度や仕組みを根本から見直すという経済の構造改革が大切です。
こうした観点から,本年度の年次経済報告の副題は,「内需型成長の持続と国際社会への貢献」と致しました。本年度の年次経済白書がこうした我が国の課題を解決する上で寄与することができれば幸いであります。
昭和63年8月5日
中尾 栄一
経済企画庁長官