昭和62年
年次経済報告
進む構造転換と今後の課題
昭和62年8月18日
経済企画庁
昭和61年度の我が国経済は,景気が後退局面にある中,円高の進展等を契機として構造調整が進んだ1年であった。
この間,金融面については,61年1月から62年2月にかけ5回にわたって公定歩合が引き下げられる等,金融緩和政策が一層の進展をみせた中,金融機関の貸出は前年度を上回る伸びを示した。
マネーサプライの動向をみると,金利が低下し,金利自由化が進展する中で,マネーサプライの伸びは引き続きやや高いものとなったが,62年に入って現金,預金通貨を中心に更に伸びを高めた。
企業金融の面では,円高の影響等から製造業等で資金需要が伸び悩んだものの,金融緩和が長期化するなかで,金融機関の融資態度の積極化がさらに進展したことや,金融の自由化が進み,企業の資金調達ルートが多様化の度を加えたことから,60年度に引き続き総じて緩和した状況にある。
短期金融市場をみると,5回にわたる公定歩合の引下げもあって年度を通じて低下した。
次に,公社債市場をみると,年度前半は上昇傾向で推移した利回りは,11月以降低下に転じ,62年に入っては急速に低下した。
なお,61年度中の金融関係主要事項については,金融自由化・国際化に関わる事項は本報告付表II-2を,その他は第12-5表を参考にされたい。
61年度の金融市場は,60年度5兆5,604億円から3兆866億円の資金不足と不足幅を縮小した(第12-1表)。
これを銀行券の動きについてみると,発行超幅は2兆313億円の発行超と大きく拡大した(60年度1兆2,855億円)。平均発行残高の前年度比増加率をみると,60年度5.8%増の後,61年度は,金融緩和の進展もあり,8.4%増となった。これを四半期別前年同期比でみると,61年1~3月期5.8%増となった後,4~6月期6.7%増,7~9月期8.6%増,10~12月期8.4%増,62年1~3月期9.8%増と伸びを高めた。
また,財政資金をみると,61年度は,60年度の揚超(4兆6,527億円)から,8,575億円に揚超幅を大きく縮小した。これは,一般財政は大幅散超減となったが,為替市場介入を映じた外為の受超幅拡大等のためである。
このような資金不足傾向に対し,日本銀行は,貸出,買入手形,債券売買による日銀信用の増加等により調節を行った。
一方,短期金融市場の金利は,市場の需給実勢を反映しつつも,5回にわたる公定歩合の引下げもあって,インターバンク市場,オープン市場とも年度を通じて低下し,直近ではいずれも既往最低の水準まで達している。
マネーサプライの推移をみると(第12-2図),M2+CDの平均残高(前年度比)は,59年度7.8%増,60年度8.7%増の後,61年度は8.6%増と引き続きやや高い伸びとなった。この間のM1(現金通貨と預金通貨)の平均残高は,59年度4.0%増,60年度4.5%増の後,61年度8.4%増と,金利低下,資産取引の活性化等を背景として大きく伸びを高めた。また,金利自由化が進展する中で,法人保有の準通貨(定期性預金)について,マネーサプライ対象外の資産からの流入が生じたこともマネーサプライの伸び率上昇に少なからず影響したと思われる。62年に入っては,現金や預金通貨を中心に伸びが高まっており,62年5月にはM2+CDで10.2%,M1で12.4%に達している。なお,こうしたマネーサプライの動向については本報告(第I-7-2図)で分析している。
61年度の金融機関の預貸動向をみると,金融緩和の浸透や金融自由化の進展に加え,61年12月に東京オフショア市場が開設されたこともあって,貸出,実質預金とも前年度を上回る伸びとなった(第12-3表)。
すなわち,預金についてみると,全国銀行の実質預金残高(末残)の前年度比伸び率は,オフショア勘定の開設や,法人を中心とする自由金利預金の増加等により,60年度8.7%増の後,61年度は13.4%と増加幅を拡大した。但し,オフショア勘定を除いた伸び率は9.1%増となっている。
また,貸出についてみると,全国銀行貸出残高(末残)の前年度比伸び率は,60年度11.8%増の後,61年度13.1%増となり,金融緩和政策が長期化するなかで,高い伸びを続けた。これは,特に中小企業及び個人を中心に,資金需要が増加したことに加え,金融機関の融資態度の積極化が続いたためである。業種別にみると,貸出残高は不動産,サービス業で伸び率が高くなっている。
全国銀行の貸出約定平均金利をみると(第12-3表),5度にわたって短期プライムレートが引下げられ,また,金融機関の積極的な貸出態度を反映したこともあり,短期貸出金利は年度を通じて低下傾向で推移し,62年3月末には4.275%となった(61年3月末5.519%)。また,長期貸出金利も年度中4度にわたって長期プライムレートの引下げがあったため,年度を通じて低下し,62年3月末には6.301%(61年3月末7.138%)となった。この結果,長期と短期を合わせた貸出約定平均金利(総合)は,62年3月末には5.286%(61年3月末6.266%)となり,短期,長期,総合とも過去最低水準に達した。
61年度中の企業金融をみると,資金繰り面での裕り感は,円高等の影響もあって前年度に比べ若干低下したものの,総じて緩和した状況が続いている。
資金需要の動きを業種別にみると,製造業では,設備投資や企業収益の伸び悩み等から設備,運転資金とも総じて低調であったが,サービス業,不動産業等では堅調に推移した。また,調達面の動きを企業規模別にみると,大企業では,新株引受権付きの外債等の外債発行が前年度に続き増加した他,国内転換社債の起債も倍増するなど,調達手段の多様化が一段と進展した。他方,中小企業では,調達手段の選択が限られていることや,金融機関の融資態度力伸小企業向けに積極的であったことなどがら,借入金への依存度が高まった。
61年度の公社債市場について,まず起債市場をみると,61年度の民間債,公共債の発行合計額(国内発行分で,金融債,円建外債を除く)は34兆1,179億円と前年度比17.1%増となった。このうち,民間債は,4兆5,520億円と前年度比76.2%増となり,公共債は,29兆5,659億円と前年度比1163%増となった。民間債の増加要因としては,金利低下局面で低利の資金調達が可能となる中で,株式市場での相場上昇から転換社債の起債が倍増したことがあげられる。公共債については,国債発行額が新規財源債は前年度比減少する一方で,借換債の増加により,全体としては前年度を上回った。
次に,流通市場をみると,61年度の公社債売買高は,東京店頭市場で3,490兆2,637億円と,前年度に比べ975兆6,106億円増加し,前年度の38.8%増となった。内訳をみると,一殻売買高が2,736兆0,699億円と前年比22.6%増,現先売買高が754兆1,938憶円と前年度比2.7倍となり,一般売買,現先売買とも活況であった。現先売買の急拡大については,61年1月から政府短期証券市中売却方式を現先方式へ変更したという特殊要因によるものであるが,一般売買については,金利低下が続く中,特に62年に入って,債券ディーラーを中心にデイーリング益をねらった長期国債の短期売買が活発化したことが大きな要因であった。また,60年10月に開設された債券先物市場も,こうした現物売買の活況に支えられ急速な成長を示し,61年度の売買高は1,366兆3,279億円となった。
以上のように引き続き活発な取引の行われた公社債市場において,相場は,年度当初から10月にかけては,低クーポン債への最終投資家の抵抗感や米国長期金利の下げ渋り等から利回りは低下傾向で推移したが,11月以降上昇に転じた後,62年に入って金利低下期待の高まりから急速に低下し,62年4月以降長短金利の逆転といった状況も生じている。なお,5月半ばには高値警戒感等から反転している。
次に,61年度の株式市場をみると,相場は,国内金融市場の量的緩和,金利低下等を背景に,年度当初から上昇傾向で推移した後,8月下旬以降,急激な上昇に対する高値警戒感等から下落したが,11月以降再び上昇に転じた。また,このような金融環境下で,国内の機関投資家,金融機関,及び一般事業法人・個人等,幅広い投資家層による市場参入が行われ,売買金額も大幅に増加した。
さらに,時価総額(東証)は,62年3月末に346兆3,001億円と,1年間で1.5倍になった。