昭和62年

年次経済報告

進む構造転換と今後の課題

昭和62年8月18日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

1. 国際収支

(1) 緩やかな拡大を続ける世界経済

1986年の世界経済は,アメリカ経済の拡大テンポが依然として緩やかであり,西欧経済も年後半から景気の拡大に鈍化がみられるなど,85年に引き続き景気の拡大テンポが緩やかなものとなった。

こうした世界経済の動向を反映して,先進工業国の輸出数量(IMF「IF S」による)は,85年3.9%増から86年2.3%増と伸びが低下した。

一方,86年に入ってからも,ドル安はさらに進行したが,原油価格は年後半になってOPECの減産合意などによりやや持ち直した。また,これまでの原油・一次産品価格の低迷等から累積債務問題が顕在化するとともに,国際的な不均衡の拡大により貿易摩擦が激化し保護貿易主義の動きが高まった。

(2) 経常収支黒字に縮小の動き

(経常収支の黒字幅に縮小の動き)

昭和58年度以降大幅に拡大してきた我が国の経常収支黒字は,61年度も引き続き拡大し史上最高の941億ドルとなった(第1-1表)。しかし,62年度に入ってからは黒字幅に縮小の動きがみられる。

貿易収支は,円高による逆Jカーブ効果が生じたことや原油価格等が低迷したことにより輸出額が増加し輸入額が減少したため,61年度は1,016億ドルと史上最高の黒字となった。62年度に入って,原油価格の回復等による輸入額の増加等により黒字幅に縮小の動きがみられる。

貿易外収支は,57年度以降赤字が減少してきたが,61年度は4億ドル増加し51億ドルの赤字となった。これは,投資収益収支の黒字増加を,それ以外の収支(ここではサービス収支と呼ぶこととする)の赤字の伸びが上回ったためである(第1-2図)。サービス収支の赤字が大幅に拡大したのは,円高の進行に伴い海外旅行者数が増加したこと,経済活動の国際化の一層の進展により種々の民間取引の支払額が増大したこと,契約が円建のものについては円高によってドルベースでの支払額が膨らんだこと等が影響しているものと考えられる。

移転収支は,政府開発援助の増加により支払が増加し,赤字幅が5億ドル拡大し24億ドルとなった。

(長期資本収支の流出超過幅一層拡大)

61年度の資本移動について,長短資本の流出入についてすべてネットアウトした長短資本取引等の合計(長短資本収支,金融勘定及び誤差脱漏の合計)でみると,941億ドルの純流出であった。なおこれは定義上経常収支の黒字(赤字)と同額の赤字(黒字)となる。

その内訳をみると長期資本収支が1,447億ドルの純流出,短期の資本取引の合計(短期資本収支と金融勘定の符号を変えたものの合計)が448憶ドルの純流入となった。このような長期資本の流出超,短期資本の流入超という傾向は59年度以来続いている。

長期資本収支のうち,本邦資本では,証券投資が1,101億ドルと大幅な流出額となった。中でも債券は,米国債をはじめとして取得が進み,990億ドルの流出となった。また株式も,債券一辺倒の投資から分散を図る動きが生じたことやニューヨーク市場の株高から,108億ドルと大幅な流出となった。その他の本邦資本でも,直接投資は152億ドルと流出額が倍増し,借款も122億ドルと流出額が増加した。一方,外国資本では,外債の発行は増加したものの,債券・株式とも日本の相場の上昇による利食い売りの増加等により証券投資が前年の大幅流入から12億ドルの流出となったことが響き,2億ドルの流出超となった。

短期の資本取引の合計は,為銀部門の短期借りが734億ドルと急増したことを中心に448億ドルの純流入となった。なお外貨準備高増加額は,305億ドルと大幅であった。

(一層の円高の進展)

外国為替市場における円の対ドルレートは,61年1~3月期の187.9円以降も円高が進展し,4~6月期170.1円,7~9月期155.8円となった。10~12月期には160.3円とやや戻したが,年末以後また円高に向かい,62年1~3月期には153.2円となった。なお,62年4月には,一時137円台の最高値をつけた(円の対ドルレートは,東京外国為替市場インターバンク中心相場)。

(3) 弱含み傾向となった輸出

(61年度の輸出動向)

61年度の輸出(通関額)は2,151.3億ドルで前年度比17.8%増となった。これを価格,数量に分けてみると,価格(ドルベース)は同19.2%の上昇となったのに対し,数量は同1.3%の減少となった(第1-3表)。このように61年度の輸出は,価格が大幅に上昇する一方で,数量が57年度以来の減少となった。また,円ベースでは円/ドルレートの上昇が一段と加速したことなどから,価格は13.9%の下落となり,金額では15.1%の大幅減となった。次に四半期別の動きをドルベース(前年同期比)でみると,60年度後半以降61年7~9月期まで増加幅が拡大したが,それ以降は,円/ドルレートが比較的安定して推移したこと,数量が弱含んだことなどから,増加幅が縮小傾向になった。

(部品輸出好調)

輸出動向を商品別(ドルベース,前年度比)にみると,繊維・同製品(ドル7.5%増,数量4.5%減)は,中近東向け等が大幅減となったものの,EC向け東南アジア向けが大幅増となった。化学製品(ドル23.9%増,数量10.2%増)は,中国向け中近東向け等が減少したものの,主力のEC向け東南アジア向けアメリカ向けが大幅増となった。鉄鋼(ドル3.7%減,トン数6.8%減)は,東南アジア向けEC向けが大幅増となったものの,中近東向けアメリカ向けが大幅減となった。一般機械(ドル26.5%増,数量3.3%増)は,事務用機器,原動機,金属加工機械がEC向けアメリカ向け東南アジア向けで大幅増となった。

電気機器(ドル20.8%増,数量2.2%減)は,半導体等電子部品,通信機等が東南アジア向けEC向けで大幅増となった。また,テレビ受像機は中国向けを中心に大幅減となった。自動車(ドル19.3%増,台数5,9%減)は,中国向け中近東向けが不振となったものの,61年前半にEC向けが大幅増となり,アメリカ向けも増加を続けた。また,自動車の部分品は海外生産の本格化,現地企業に対する供給等により,53.2%増(ドル)となった。船舶(ドル1.9%増,トン11.9%増)はEC向け等が大幅増となったが,アメリカ向け中国向け等が大幅減となった。テープレコーダー(ドル8.4%増,台数3.2%増)は大宗を占めるVT Rが年度後半アメリカ向けを中心に減少したことから小幅な伸びにとどまった。

(EC向けは自動車を中心に大幅増加)

次に,地域別に(ドルベース,前年度比)みると,アメリカ向け(19.1%増)は,鉄鋼は減少したものの,機械機器を中心に大幅増が続いた。対米輸出自主規制下にある乗用車は年度前半に前年度を大幅に上回るペースで輸出されたが,後半から62年度始めにかけては販売不振・在庫の積み上がりもあり前年同期を下回る水準が続いている。EC向け(49.3%増)はほぼ全品目が大幅増となった。自動車は60年暮れ以降の景気拡大もあって,61年半ばまで大幅な増加が続いた。それ以降は,急激な輸出増加自粛もはたらき,年内は大幅にペースダウンしたが,62年1~3月期には在庫不足から再び大幅増加し,前年同期比59.0%増となった。東南アジア向け(30.9%増)は,自動車が減少したものの,一般機械,化学製品,などが増加した。また,半導体等電子部品,自動車の部分品などは各四半期とも前年同期比で5割以上の増加を続けた。中近東向け(22.4%増)は,原油価格下落に伴う購買力の低下から,通信機等を除き軒並み減少となった。中近東向けは56年度をピークに減少が続いている。ラテンアメリカ向け(6.6%増)は,61年中は好調に推移したが,62年に入り減少に転じた。アフリカ向け(16.6%増)は,リベリア向けの便宜置籍船の影響から一進一退の動きとなった。共産圏向け(16.3%減)は,中国向けが自動車,テレビ等を中心に61年2月以降大幅な減少が続いていること等から一転してマイナスとなった。

(4) 製品類を中心として大幅に増加した輸入

(61年度の輸入動向)

60年度に数量ベースで前年度比1.1%増と伸び悩んだ輸入は,61年度は国内景気の足取りが緩やかなものとなるなかで,14.1%増と大幅に増加した。これは,60年9月以降の急速な円高の進展に伴い輸入財が有利化したことに加え,61年度には記念貨鋳造用金の輸入という一時的な要因も寄与したが,非貨幣用金を除いても10.3%増加した(経済企画庁試算値)。輸入通関額は1,253.4億ドル,3.6%減と原油価格下落の影響等で2年連続の減少となった。円ベースては,さらに円高の効果も加わって30.6%減と大幅に減少した。通関価格はドルベースで15.4%,円ベースで39.4%下落した。

四半期別の動きをみると,数量ベースでは61年4~6月期に非貨幣用金の輸入もあって季節調整済の前期比で12.6%増と顕著に増加したが,年度後半にはその要因が剥落したこともあり,10~12月期1.2%減,1~3月期3.5%滅とやや減少気昧となった。ドルベースでは,原油価格下落の影響等により減少傾向にあったが,62年1~3月期には輸入数量の増加や原油価格の反転などから,季調済前期比2.2%増と5四半期振りに増加に転じた。

第1-4表 61年度の輸入動向

(大幅に増加した製品輸入)

商品別の動きを数量ベースでみると,食料品は,62年1~3月期にやや弱含んだものの,年度を通して着実に増加し前年度比13.3%増となった。内訳をみると,穀物は微増にとどまったが,魚介類(14.8%増)をはじめとして肉類(16.2%増),果実・野菜(18.8%増)等が増加したほか,たばこや加工食品の増加も顕著であった。

鉱物性燃料は,鉱工業生産が基調として停滞傾向で推移したことなどから低い伸びにとどまった。内訳をみると,原粗油は価格の先行きに対する思惑的な動きなどから月次では大きな振れをみせたが,年度計では3.8%滅少した。一方,石油製品はガソリン等特定石油製品の輸入自由化に伴い26.2%増と大幅に増加した。原油輸入価格は,61年3月から急速に下落し,8月には1バーレル当たり10.3ドルとなったが,その後緩やかに上昇した。61年度平均は13.8ドルで,前年度比49.5%の下落となった。

原料品は,鉱工業生産の動き等を反映して弱含みで推移した。内訳をみると,金属原料が年度を通して減少したが,年度前半には繊維原料が,後半には木材等が増加した。

製品類は,急速な円高に伴う国産財から輸入財への代替の進展に加え,記念貨鋳造用金の輸入という一時的な要因もあって前年度比26.2%増と大幅に増加した。非貨幣用金を除いても14.4%増加している(経済企画庁試算値)。品目別にみると,化学製品が人造プラスチック等により7.3%増加したのをはじめ,60年度に減少した機械機器も自動車や事務用機器等により14.0%と大きく増加した。また,その他の製品は40.0%増加したが,非貨幣用金以外でも繊維製品,鉄鋼などが顕著に増加している。

59年度に第二次石油危機以降初めて30%を超えた製品輸入比率は,61年度には製品輸入の増加,原油価格下落等から大きく上昇し44.1%となった。

(急増したEC,アジアNICsからの輸入)

地域別輸入をドルベースでみると,アメリカからの輸入は前年度比17.5%増加したが,非貨幣用金の寄与が大きく,これを除くと7.0%の増加にとどまっている。これに対してEC,アジアNICsからの輸入は,56.1%,35.4%と大幅に増加した。ECからの輸入増加は,主力の製品類によるものであり,非貨幣用金の一時的要因もあるが,9割近く増加した自動車をはじめとする機械機器や,繊維製品等広範にわたり顕著に増加している。アジアNICsからの輸入も,主に繊維製品,家電機器,鉄鋼等の製品類によって増加した。中近東からの輸入は,その大宗を占める原油の価格下落によりほぼ半減した。また,豪州,ラテンアメリカ,ASEAN,中国等からの輸入は,一次産品価格の低迷や原油価格の急落等から減少した。


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