昭和62年

年次経済報告

進む構造転換と今後の課題

昭和62年8月18日

経済企画庁


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第II部 構造転換への適応-効率的で公正な社会をめざして-

第6章 公的部門の役割

第2節 構造調整への対応-需要創出へのミクロ的対応-

国内需要依存型の産業構造への転換を促進し,国内需要主導の持続的な経済成長を図っていくためには,基本的には民間活力を利用していく必要があるが,政策的にはどのような点に注目すべきであろうか。

まず問題となるのは,民間企業の持つ活力を発揮するのに困難とする様々な規制が存在することである。こうしたことから,既に,60年度以来民間活力を引き出すため三公社の民営化,特殊法人等の統廃合・民間法人化や規制の緩和が行われてきている。日本電信電話公社は日本電信電話株式会社として,日本専売公社は日本たばこ産業株式会社として新たに発足し,日本国有鉄道も6つの旅客鉄道株式会社,日本貨物鉄道株式会社等として新たに発足した。また,日本航空についても民営化のための法律改正が行われている。これらの公的企業はその損益が直接には経営に結びつかないため,企業活力に欠ける面があったが,今後は自主努力により需要の拡大や周辺商品の開発や投資活動等を行い国内需要を増加させていくものとして期待される。また,電気通信事業法の制定等により通信業務での規制が緩和されたことは,この分野でも競争を招来し活性化と同時に効率的な経営,サービスの提供がなされていくものと考えられる。この他,第3章でみたように銀行,証券,保険といった金融面での金利規制の緩和や新商品の取扱いの拡大,業務規制の緩和なども行われており,交通面では航空業での定期・不定期航空運送事業の参入規制や運賃料金規制の緩和が実施された。その結果,サービスの質の向上などがみられるとともに,設備投資が活発に行われており,国内需要の増加にも貢献してきている。

今後問題として検討されることが予想される分野としては,例えばバイオテクノロジーの進歩に即した法制面の整備,企業の事業転換や設備の合理化などに関連する地域開発関係の規制などが指摘できよう。

これらの規制が問題となるのは,特に新規参入の制限,新規分野への進出による効率化の妨げとなる面が存在するからと言えよう。こうした点を踏まえ規制の目的に十分配意しつつ極力それらの緩和,廃止等を行っていくことが求められよう。

次に,規制緩和だけでは十分でなく,例えば,輸出型製造業に代表される過剰資本設備を抱えている製造業に対しては,内需に向けて業種転換や新規事業分野への進出を促進するため,既存企業への影響に十分配意しつつ,財投資金の重点的配分など低利資金の供給を図る必要があろう。また,設備投資を刺激するため経済変動の安定化を通じ将来の不確実性を小さくするための方策を講じるとともに,新しい事業分野の開発のための研究開発投資を推進するための措置をとることが考えられよう。こうした研究開発投資を行いその成果を商品化,実用化していく上で問題となる点については,できるだけ緩和していくことが望まれる。

また,政府の経済対策を受けて,都市や社会資本整備の分野においては,良好な都市環境の保全・形成や都市の安全性・防災性の確保に配慮しつつ,市街地再開発促進のための第一種住居専用地域の第二種住居専用地域への指定替え,容積率の割増制度の運用改善,斜線制限の緩和などが行われた。さらに,市街化調整区域のうち大きな新市街地開発投資の見込める地域についての線引きの見直し,宅地開発指導要綱の見直しなども行われており,これらは東京問題解決にも資するであろう。また,いわゆる民活大型プロジェクトについては,関西新国際空港が着工され,東京湾横断道路などの着工が予定されている。なお,これらの動きと並行して,国公有地の一層の有効活用等に資するため国公有地への土地信託制度の導入が図られた。

現在問題となっている東京中心の地価高騰に対応し,地域的にみて大都市圏で最も不足している住宅の供給を増加させていくためには,既に述べてきたように居住環境の整備に関する方策を講じつつ,市街化区域農地課税の在り方及びこれとあわせた良好な宅地供給等に関する方策の検討を行い,その結果を踏まえ適切な対応を図る必要がある。

しかし,その際重要なことは民間活力を都市全体として合理的かつ秩序ある方向に計画的に誘導していくことである。従って,土地の高度利用を進めていく上では,道路等の都市基盤施設の適切な整備も必要で,こうした対応がない場合には,混雑化が一層進むなど好ましくない事態が生じることも予想され,注意する必要がある。このため一定の都市地域において都市再開発方針を策定し,それに基づいた再開発を促進していくこととしている。

今後大きな問題となるのは,規制の緩和に伴う国内での調整であろう。これまでの努力によって国内,対外両面で自由化は進展してきており,一方で残された規制については,その緩和は困難なものが多くなってきている。それだけに規制の緩和の影響も次第に大きなものとなってきている。

しかし,我が国経済が直面している事態は,こうした規制の見直しが求められつつある状況となっている。例えば,我が国の大幅な貿易収支の黒字,アメリカの大幅な赤字を背景に,我が国は各国から一層の市場開放を迫られていることがあげられる。もちろん,対外的な不均衡の是正は,本質的には我が国一国の問題ではなく,貿易不均衡の相手国でも相応の構造調整が必要なことは言うまでもない。また,短期的な問題の解決を急いで輸出規制を行うことは,相手国の最終需要者の消費者余剰を損なうばかりでなく,構造調整を遅らせ,当該産業に超過利得を発生させやすい。従って,規制を強めていくのではなく,黒字国での輸入拡大,赤字国での輸出拡大を通じて不均衡の是正が図られる必要がある。既にみてきたように,我が国においては,産業構造や輸入構造の調整が進められており,製品類等を中心とした輸入拡大が期待される。しかし,我が国においては,自由貿易によるメリットを享受していくために今後とも市場アクセスの改善を図っていくことが望まれる。また,既にみたように財政支出の拡大だけで国際収支の改善を図ることができるとは考えにくいことからも,こうした対応が我が国の輸入構造の転換促進策として期待しうる。

こうした対応は,また我が国経済の一層の「効率化」に資するものであろう。

この場合に政府の介入が本来目的としていた「公正」の実現について,介入の必要性,有効性,他の分野との公平,保護されていた者の自助努力の可能性等を含め,検討することが望まれるが,時代に即し,かつ各人の自由な努力を尊重する形で積極的に対応していくことが望ましい。


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