昭和62年
年次経済報告
進む構造転換と今後の課題
昭和62年8月18日
経済企画庁
昭和61年度の日本経済は,構造転換が緒につきつつあった。それをもたらしたものは,国際経済環境の厳しさ等に伴い対外不均衡是正の必要性が高まっていることと,円高への企業の対応である。このような構造転換は日本経済にとって避けて通ることのできない道であるが,それは我が国が外需主導型成長を続けられなくなったためである。
我が国経済は,景気循環という観点からみれば60年6月を山として後退局面入りしたが,最近底固さを増しつつある。しかし,今回の景気循環は,こうした構造転換の進行する中で起こっているものであり,それが動きを複雑なものとしている。
こうした構造転換が必要となった理由は,第II部第1章で詳しく見ることとするが,要約すると次の通りである。
まず,先進国間において,アメリカの異常な経常収支赤字と,日本,西ドイツなどの大幅な黒字が存在していることである。このように,あまりに大きな不均衡が存在し,しかも短期間では解消しないと見られることは,以下のような様々の問題をひきおこし,放置できなくなったのである。
こうした状況が解消されなければアメリカの純債務が累積し,やがて昨年の本報告でも指摘したように,不均衡の累積効果が働くようになるということが次第に現実の問題となってきたのである。そのことへの反発が強まり,それが政治的な保護主義の原因となっている。
第二に,こうした不均衡が現在と同じように続いていくためには赤字が継続的に資本流入によりファイナンスされる必要がある。しかし,不均衡が続いていることそのことを理由にその流れが次第に流れにくくなったことが指摘できよう。
さらにその結果として,アメリカの物価に上昇傾向があらわれ,また金利も上昇している。こうした傾向が続けば,アメリカの国内で投資が阻害され生産性の向上にとってマイナスの要因となる。
アメリカがインフレになったり金利が上昇することになれば,世界経済全体にとっても望ましくない。
先進国も発展途上国特に累積債務国も金利の上昇で悪影響を受けるし,また,物価の上昇がいずれ他の国々に拡がる可能性も否定できない。こうした事態を避けるには,まずアメリカの行動が必要だが日本としてもできるだけのことをしなければならない。
今回我が国が構造調整に一層積極的に取り組むことを決意したのは,こうした事情があるためである。それは経常海外余剰での黒字をより急速に縮小させるため,急激な円高の進展などで輸出が弱含みを続ける中で輸入を急速に増やさねばならない。しかも内需成長率については近年のペースを高める必要がある。今回の緊急経済対策もこうした目的に沿ったものと言える。それは経済的と同時に政治的に保護主義を封じるという意味を強く持っている。言い換えれば,自由貿易なり国際通貨制度は一種の国際公共財であり,それを維持するには経済力のある国が負担をする必要がある。市場アクセスの改善も同じ意味を持つのである。
しかし,こうした負担はコストを意味し,それは国民が負担しなければならないものであることも言うまでもない。どのようにすればその負担が公正に配分されるかという問題はもはや避けて通れなくなっている。本報告での分析はこうした負担とその公正の問題も含んでいる。
本報告ではまず,日本の経常収支黒字が減少の方向にあることを示す。これは円高の効果でもあり同時にこれまでの様々の政策が次第にその効果を表してきていることを示すものである。次いでこのような変化が企業経営や産業構造にどのような影響を与えているかを見る。さらに制度面などから一層の構造改革を進めることが求められているが,その際どのような問題があるかを考える。
金融自由化の進展と大幅な金融緩和に伴う金融経済の活動の活発化,日本の債権国化に伴う東京の国際金融都市としての急速な成長は特に大きな変化であった。
このような変化を踏まえ,日本は今や新しい目標を必要とする段階に達している。今までの欧米に追いつき追い越すための効率の追求は目標では無くなりつつある。どのような目標が今後の日本にふさわしいが,そのことをむすびで述べる。