昭和58年

年次経済報告

持続的成長への足固め

昭和58年8月19日

経済企画庁


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序章

3. 世界経済の新しい発展の可能性

もしアメリカおよび先進諸国がインフレーションを克服しつつ景気回復を進めることができれば,今後の世界経済が新しい発展期に入りうるという期待と可能性が増大しよう。世界経済は1960年代後半から70年代にかけて,インフレーションの高進と成長率の鈍化に悩まされてきた。一方,二度にわたる石油危機も先進工業諸国のインフレとエネルギーの多消費型経済構造を背景として生じたものであった。現在なおアメリカやヨーロッパの経済は効率性を十分に取り戻し経済の再活性化を実現するには至っていないが,その可能性は以前より強まってきているとみられる。また少くともインフレの鎮静化には成功しつつある。このことは先進国経済が持続的発展を維持するための基礎条件を整えつつあるものとみることができよう。そうした意味からは,現在のアメリカ,イギリス,西ドイツ等の政策は基本的には評価しうるものである。ただし現実にアメリカがとっている連邦財政の大幅な赤字と金融の引締めといったポリシーミックスが高金利を生み,他の先進工業国や発展途上国の負担となっていることは否定しがたい。

インフレの沈静化は石油消費の節約と相まって,将来再びエネルギー問題が深刻化することを回避する基礎条件となろう。インフレと石油価格上昇の悪しきスパイラルが断ち切られ,将来の量的制約に対する危惧も弱まることにより,今後安定したエネルギー供給が保証されるならば,世界経済の持続的安定成長の可能性はそれだけ強まってくるであろう。

世界経済が新しい発展の時期に入りうるか否かは,現在のところその可能性がひらけつつある段階で,まだ確たる軌道に乗ったわけではない。それを確実なものにするためには,インフレの再燃を防止することはもちろんであるが,経済の活性化効率化に成功する必要がある。また現在の保護貿易への動きを転換させていかなければ世界経済の順調な発展は望めない。保護貿易への動きは世界的な不況下で一段と強まったものの,世界経済が回復の方向に向っていることは好条件であるが,それだけでは保護貿易主義は容易には解消しないと考えられる。一つには,現在の保護貿易は今回の不況のみによるものでなく,一層深い根をもっているからである。つまり,1970年代を通じての世界貿易の大きな構造変化に対して,欧米先進工業諸国が十分な調整能力を失ってきたという構造的間題である。いま一つは,世界経済が回復に向かっても,現在の深刻な失業状態は短時日で大きくは改善しないとみられるからである。もし保護貿易への動きがなお強まるようなことになれば,日本はもとより,世界経済の回復にとって大きな阻害要因となろう。

また今後の世界経済の新しい発展のためには,累積債務問題を解決しつつ中進工業国や発展途上国が自由な貿易を通じて発展していけるような環境を整えることが必要であろう。


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