昭和57年
年次経済報告
経済効率性を活かす道
昭和57年8月20日
経済企画庁
第I部 鈍い景気の動きとその背景
第4章 対外均衡の諸問題
近年の高品別輸出の動きをみると,機械機器の増加が著しく,化学製品や金属・同製品などは減少ないし横ばい傾向にある( 第I-4-13図 )。1970年代の商品別の輸出構成の変化を,他の主要先進国と比較してみても,他の先進国では機械機器のウェイトが概ね横ばいであるのに対して,日本で,機械機器のウェイトが上昇し,素材型製品や衣類,雑貨等のウェイトが低下するという動きが目立っている( 第I-4-14図 )。その結果,56年度においては,機械機器のウェイトは65.9%と他の先進国に例のない高水準となっている。
これには,第I部第1章第3節で指摘したように,エネルギーの相対価格の上昇が機械機器の価格競争力を強めるというメカニズムも働いているが,それ以上に機械工業の生産性上昇率が高く,技術面でも優位性をもった分野が増加するという形の産業構造の高度化,高付加値化が進んだためと考えられる(第I部第3章参照)。こうしたなかで,機械機器のうち一部の耐久消費財を中心とする大量生産型製品は,1970年代に著しい伸びを記録したため,OECD輸出に占る日本のシェアが非常に高くなっている( 第I-4-15図 )。
このように日本が機械機器を中心に輸出シェアを高める過程で,第II部第3章で詳しく分析するようにアメリカやEC諸国は生産性上昇率は停滞気味に推移し,世界貿易の構造変化への対応が遅れたため,日本の対米及び対ECの貿易黒字(通関ベース)は拡大傾向を示した( 第I-4-16図 )。
しかしながら,56年度の貿易黒字の動きをみると対米と対ECでかなり異った動きがみられる。すなわち,対ECの貿易黒字は56年度半ばから縮小傾向を示し,56年7~9月期以降3四半期連続して前年同期を下回ったのに対し,対米の貿易黒字は56年7~9月期をピークとして最近落ち着いてはいるものの前年同期と比べた場合は拡大を示している。そして,このような対米貿易黒字の拡大は,対米貿易摩擦の要因の一つとして働いたと考えられる。
このように56年度の貿易黒字が対米と対ECで対照的な動きを示したのは,ECとアメリカの景気局面の差も影響しているが為替レートの動きがかなり大きな影響を及ぼしている。前節で見たように,米高金利を主因として,円の対ドル・レートは56年度は大幅に低下した。この円の対ドル・レートの低下は,次の項で見るように56暦年中対米輸出の伸びを相対的に高めに維持する役割を果しただけでなく,アメリカからの輸入に対してマイナスの影響を及ぼしたと考えられる。このため,円の対ドル・レートが対米貿易黒字を拡大させる方向に作用した。他方,EC通貨に対する円レートは56年中ほぼ一貫して上昇したため,対EC輸出にかなりのマイナス効果を及ぼし,輸入に対してはプラスの影響を及ぼしたと考えられる。その結果,円の対EC通貨レートはむしろ,対EC貿易黒字を縮小させる方向に作用した。
世界貿易の動向を,世界輸入(実質値)でみると,55年が56年初めにかけては先進工業国を中心とする世界景気の後退を反映して減少した。56年央からはやや回復の動きがみられたが,56年末から再び伸び悩みの気配がみられる( 第I-4-17図 )。これはすでにみたように,56年央からアメリカ経済が景気後退に突入していること,ヨーロッパ経済も景気が底入れした後も内需の回復力が弱いためである。先進工業国以外の地域でも輸入の伸びは概して弱まっているものとみられる。先進国の景気停滞の波及やアメリカの高金利の影響により外貨事情が悪化しているためである。産油国でも原油価格の下落等により経常収支の黒字幅が縮小しており,同地域の輸入にも伸び悩みがみられる( 第I-4-18表 )。
わが国の輸出は1に見たような輸出構造の高度化により,以上のように世界輸入が停滞している中で,55年度に17.1%増(通関,数量ベース)に続き,56年度も8.4%とかなり増加したが,56年度下期に入って伸びが大きく鈍化している。前年同期比でみると,56年7~9月期に14.2%増となったあと,10~12月期4.3%増,57年1~3月期3.8%増,4~6月3.7%減と急速に伸びが低下した。対前期比増加率でみると,56年7~9月期の3.8%増のあと,10~12月期5.2%減,1~3月期2.0%増,4~6月4.1%減となっているが,不規則な動きを示した船舶を除いてみると,10~12月期の1.6%減のあと,1~3月期も1.3%減,4~6月期も3.8%減となっている。
輸出の動向(通関ドルベース,前期比)を地域別にみると,西欧向け,中近東を除く発展途上地域向け,共産圏向けが年度初めから減少気味に推移し,これが全体の伸びの鈍化の大きな要因となっている。他方,アメリカ向け,中近東向けは56年10~12月期までは増加を続けたが,57年に入って減少している( 第I-4-19図 )。
地域別輸出の変動要因をみると,まず,西欧向けは,西欧の景気停滞の影響に加えて,56年後半にはEC通貨に対する円高傾向かなりマイナスに作用している( 第I-4-20図 )。次に56年後半の発展途上地域向けの輸出減少は,同地域の輸入が停滞ないし減少していることによってもたらされている。これは,先に述べたように先進国の景気停滞の影響を受けて同地域の景気が停滞気昧であることに加え,一次産品価格の低迷に伴う外貨事情の悪化が影響している。中近東向けも57年に入って減少しているが,これには石油価格の下落に伴うOPEC諸国の経常収支の悪化が影響している。他方,アメリカ向けは,前節で見たように円レートがドルに対しては低下気味に推移したため相対価格が不利化しなかったこともあって56年末までは増加を続けた。しかし,57年に入ってからはアメリカの景気後退に伴う輸入の減少から減少に転じている。