昭和57年

年次経済報告

経済効率性を活かす道

昭和57年8月20日

経済企画庁


[前節] [目次] [年次リスト]

第I部 鈍い景気の動きとその背景

第4章 対外均衡の諸問題

第4節 構造変化がみられる輸入

1. 輸入構造の変化

(高まる軽工業品輸入)

前節では日本の輸出は長期的にみると,機械機器の構成比が高まるという点で他の先進国と異なる構造変化を示していることを指摘したが,輸入面でも他の主要国と異なる構造変化を示している。すなわち,概して他の主要国では製品輸入の内機械類の構成比が高まっているのに対し,日本では軽工業品の構成比が高まっている( 第I-4-21図 )。他の主要国でも構成比が高まっている衣類のほかに,繊維,皮革製品,陶磁器,ガラス,紙・板紙の構成比が高まっている。

この軽工業品輸入の高まりは,地域別には発展途上国からの輸入が増える形で生じている。1970年代のわが国の輸入の地域別構成の変化をみると,NICSとよばれる中進国,中でも極東の4か国(韓国,台湾,香港,シンガポール)からの輸入が増加している( 第I-4-22表 )。これらの中進国では軽工業品特に労働集約的分野を主体に急速に工業化を進展させており,日本はこれら諸国から相対的な価格の安さを誘因として輸入が増加しているとみられる。

(輸入特化に転じた非耐久消費財)

製品類の財別に輸出入の特化の程度をみると,耐久消費財,資本財については輸出特化が著しいが,非耐久消費財は1972年から73年にかけて,急速に輸入特化に転じたことが特徴的な動きとして指摘できる( 第I-4-23図 )。この背景としては,上述のように中進国の工業化に伴って,労働集約型の消費財の輸入が増加しているためとみられる。

このほか,製品原材料について75年以降輸出特化の度合が弱まってきていることも指摘できる。これは,第I部第1章第4節でみたようにエネルギーの相対価格の上昇によりアルミ地金や石油化学製品等の素材型業種の価格競争力が低下し,次第に輸入におきかわる分野が生じているためである。

2. 低水準ながら年度後半増加を示した輸入

(56年度下期は増加)

55年度に4.8%と減少した輸入(通関,数量べース)は,56年度も0.6%減となり2年連続して減少した。しかしながら,四半期毎の推移をみると輸入は年度後半には増加の動きを示し,その後生産の減少傾向から57年度に入って再び減少するという動きを示している。対前期比増減率をみると,56年7~9月期まで減少した後,10~12月期は4.8%増,57年1~3月期も4.5%増(前年同期比5.6%増)となったが,4~6月期は,6.3%減(同,1.6%増)と再び減少した。

品目別にみると,56年度の原燃料輸入は5.9%減となったが,製品類は,12.3%増とかなりの増加を示した。なお,年度中の動きをみると,原燃料についても年度後半には増加の動きがみられたが,57年度に入って再び減少している。

(製品輸入の増加)

まず,全体の輸入が停滞するなかで増加の目立った製品類の動きをみてみよう。製品類の中味を,製品原材料,資本財,消費財の三つに分けてみると,消費財と製品原材料が増加しており,資本財は停滞気昧である。

このような56年中にみられた消費財や製品原材料を中心とする製品輸入の増加は,基本的には,前項でみた賃金コスト差に基づく発展途上国からの軽工業品輸入の高まりと,エネルギー相対価格の上昇に基づく製品原材料の輸入増という長期的な輸入構造の変化に沿う動きであるが,短期的には需要動向や円レートの動きに左右される。そこで,それぞれの輸入数量の動きを相対価格要因と需要要因とで説明してみると,消費財と製品原材料については,相対価格要因によって説明できる部分が大きい( 第I-4-24図 )。すなわち,55年後半から56年初めにかけての円高がラグ(時間的遅れ)をもって輸入の増加に寄与したとみられる。また最近では円安傾向にもかかわらず,海外市況の低下による相対価格の低下もみられる。

56年に輸入が増加している消費財や製品原材料の中味をみると,まず消費財では衣類,はき物,旅行用具,ハンドバック類などの非耐久消費財が中心である。製品原材料では,アルミ,石油化学製品,鉄鋼などの輸入が増加している。

こうした製品原材料輸入の増加は,53年の円高局面でも生じ,その時も素材の生産をやめて半製品を輸入して国内で加工度を高めるという方向にシフトする動きがみられたが,今回もアルミや石油化学製品の一部で輸入が急増し,生産抑制の動きが生じている。こうした品目の輸入増加の背景にはすでにみたように原燃料事情によりわが国と海外諸国との間で原燃料コストの差が大きくなっていることがある。このほか,中進国の工業化の進展により輸入が増加している例として,韓国からの鉄鋼輸入がある。

製品輸入の動きを地域別にみると,56年度には東南アジアからの製品原材料と非耐久消費財の輸入が増加するという特徴的な動きがみられた( 第I-4-25図 )。資本財についてはアメリカからのものは増加したが,ECからのものは減少するという動きもみられた。アメリカからの資本財輸入のかなりの部分を航空機が占めている。

(後半にやや増加した原燃料輸入)

原燃料の輸入数量は,56年度全体として減少したが,56年度下期はやや増加した( 第I-4-26図 )。

輸入素原材料を使用する業種の生産は,56年中減少気味に推移したため,素原材料消費も減少した。このため,輸入素原材料在庫率は大きく上像し,前年のピークである55年7~9月期を大幅に上回る水準に達した。

しかしながら,輸入素原材料在庫率は56年7~9月期にピークとなり10~12月期は低下した。これは,55年以降56年7~9月期までの輸入数量の削減の効果がきいてきたことが主因とみられるが,輸入素原材料消費がわずかながら上向いたことも影響している。このような輸入素原材料在庫の調整進捗もあって,原燃料の輸入数量も56年度の下期には増加する動きがみられた。その後,生産の減少傾向から57年度に入って再び減少している。

(金の輸入の急増)

このほか,56年度の輸入の特徴として,非貨幣用金の輸入増加があげられる。金の輸入額は29億4300万ドルであり,前年度比2.5倍となった。輸入全体に占る構成比も55年度の0.8%から56年度は2.1%に上昇した。

金の国内消費の内訳をみると,55年度下期以降私的保有金の構成比が上昇しており,56年10~12月期には国内消費の約65%を占めた。

金の輸入増加の背景としては,まず,金相場の下落により買い値ごろ感が出てきたことがある。このことは国際価格の下落に伴い輸入数量が増加していることからもうかがわれる。また,インフレに強い資産としての評価や,販売網の拡大なども金保有の増加の誘因になっているとみられる。

(輸入数量変動の背景)

これまでみてきたように全体としての輸入数量は,内需全体の伸びが緩やかななかで,年度後半は増加の動きがみられた。そこで輸入数量全体としての変動要因を探るために,四半期別の輸入数量の動きを,①内需の動き,②相対価格の変化,③輸入素原材料在庫率の3つの要因で説明してみると,年度後半の輸入の増加は主に輸入素材料在庫率の動きによって説明されることがわかる( 第I-4-27図 )。このほか,56年10~12月期以降の内需の回復もプラスの影響を与えている。他方,相対価格要因は,56年前半はプラス要因と作用した後,円安傾向にもかかわらず56年後半はそれほど大きなマイナス要因となっていない。

以上のように56年度下期の輸入の増加は,先にみた構造的要因による製品輸入の増加に,在庫調整の進捗に伴う原材料輸入の増加が重なったために生じた現象であるが,57年度に入ると輸出減の影響を受けた生産の減少傾向により輸入は再び減少している。

3. 製品輸入促進の努力

前項で見たように56年の製品輸入はかなりの増加を示したが,他の主要国に比べればまだ製品輸入比率が低い。また1980年のGNPに対する製品輸入の比率は,日本は2.4%であり,アメリカの4.8%,西ドイツの5.3%(EC域内取引を除く)に比べれば低い。しかし,各国の貿易構造は,基本的には,各国の所得水準,各国の資源賦存状況,比較優位構造,近隣に工業国が存在するか否か等によてっ決ってくるものであって,自由貿易体制を前提とする限り国によって貿易構造が異ってくるのは当然であり,一概にそのことを市場の開放性と直接結びつけることは当を得ていないと考えられる。ただ,現実の問題として,欧米諸国から見た対日貿易収支の赤字幅が81年に拡大していることなどにより,欧米諸国から製品輸入の拡大を求める声が強くなっている( 第I-4-28表 )。

このような要望に対し,わが国はこれまでも名種の輸入拡大の努力を行なってきたが,56年以降においても,12月5項目の対外経済対策を決定し,57年1月には,輸入検査手続等の改善について具体的な措置を決定し,さらに5月には一層の市場開放のために8項目にわたる市場開放措置を講じた。

具体的には関税については,東京ラウンドの結果1980年から8年間かけて8分の1ずつ引下げられることになっていた(石油を除く鉱工業品(有税品)9.9%→5.5%程度)ものを12月の市場開放対策により82年に予定した引下げに加え,さらに2年分一括して引き下げることが決定され,82年4月から実施された(対象品目1653品目の平均関税率引下げ前8.0%→引下げ後6.75%)。さらに,5月の市場開放対策では215品目について昭和58年度から関税撤廃を含めた引下げ措置を行うこととし所要の手続きを進める旨決定された。

次に,輸入手続の簡素化の面では,欧米諸国から改善すべき旨指摘を受けていた99事例(1月30日経済対策閣僚会議決定による)の内,誤解に基づくもの(14事例),現行通りとするもの(11事例)を除く74事例につき改善措置がとられている(5月末現在)。改善措置の講じられたものは,通関手続関係,電気用品安全規制関係,自動車,医薬品,食品衛生関係,動植物の検疫関係等多岐にわたる。

また,同時に輸入手続き等に関する苦情を迅速に処理するため「市場開放問題苦情処理推進本部」が設置され,関係省庁に苦情窓口が設置された。既に7月半ばまでに51件の苦情を受付け,その処理を行っている。なお,5月に決定された対策では,この他輸入拡大のため外国タバコの取扱店の拡大や流通機構ビジネス慣行の改善等を図ることを打出している。