昭和57年
年次経済報告
経済効率性を活かす道
昭和57年8月20日
経済企画庁
第I部 鈍い景気の動きとその背景
第4章 対外均衡の諸問題
経常収支は,第2次石油危機の影響により54年度は139億ドル,55年度は70億ドルと大幅赤字を示した後,56年度は3年振りに黒字に転じ,59億ドルの黒字を示した。
これは,輸出(IMF方式,ドルベース)が前年度より伸びは低下したものの10.9%と比較的高い伸びを示したことに加え,輸入(同上)が0.8%増と伸び悩んだため,貿易収支が約204億ドルと前年度を大幅に上回る黒字を示したからである。
もっとも,56年度に入って黒字に転じた経常収支も,年度後半にはやや黒字幅が縮小気味である( 第I-4-10図 )。これは,本章の第3~4節で述べるように年度後半になって,輸出の増勢が鈍化したことに加え,低迷していた輸入に増加の動きがみられたためである。
56年度の輸出入動向をみると,まず,輸出は数量(通関ベース)が8.4%増と比較的高い伸びを示したことに加え,輸出価格も5.5%増と比較的高い上昇率を示したことに支えられて増加した。他方,輸入は輸入価格が3.1%上昇したものの,数量(同上)が0.6%減と停滞したため,低い伸びとなった。
以上のように貿易収支の黒字幅拡大は,基本的には輸出数量の増加と輸入数量の停滞によってもたらされたが,54~55年度と大幅に悪化した交易条件(=輸出価格/輸入価格)が56年度は悪化傾向をストップさせたことも寄与している。交易条件(通関ベース)は石油価格の大幅上昇を主因に54年度,23.5%,55年度13.5%と大きく低下したが,56年度は2.1%上昇した。これは言うまでもなく石油価格の安定化により,輸入価格の騰勢が鈍化したためである(第I-4-11図)。しかしながら他方で円レートの低下というマイナス要因が生じたのでかなり悪化が懸念された。ところが交易条件はむしろ改善した。
これには円建ての輸出価格がかなり上昇したことが寄与している。円安局面では,価格競争力に余裕が生じるため,通常円安がすべてドルベースの輸出価格の低下につながるということは少なく,円表示の輸出価格が国内物価を上回って上昇するという現象がみられるが,56年度は円レートの変化幅を考慮しても両者の乖離が従来よりも大きい,56年度の工業品卸売物価は0.7%しか上昇しなかったが,輸出価格は5.4%上昇している。とくに57年度1~3月期の前年同期比でみると,前者は2.0%上昇にすぎないが,後者は7.9%上昇と乖離が大きい。
ドル・べースの輸出価格は,①国内物価,②為替レート,③世界価格の三つの要因によって規定されているが,56年度には国内物価の鎮静化,円レートの低下,世界価格の下落が生じ三つの要因がいずれもドルベースの輸出価格を引き下げる方向に作用した。ところが,現実のドルベースの輸出価格は,これらの三要因の寄与度が示すほどには低下していない( 第I-4-11図 )。
このような輸出価格の動向には鉄鋼や乗用車等の輸出価格の上昇が影響している。まず鉄鋼の対米の輸出価格は56年に入り高目に推移しているが,これはシームレスパイプの輸出増による商品構成の変化による面が強い( 第I-4-12図 )。また乗用車の対米輸出に関しても81年4月以降数量の自主規制が行われており,日本車の売行きが比較的よいこともあって,大型車種の構成比の高まりや価格上昇がみられる。このため乗用車の輸出相対価格は56年度半からかなり高まっている。
本章第1節で検討したように,アメリカの高金利を主因として日米の実質金利差が拡大しており,このために本邦資本の流出超過幅の拡大と外国資本の流入超過幅の縮小が目立っている( 第I-4-10図 )。これは既にみたように証券投資のほか,直接投資の本邦資本が流出超過幅を拡大させたことが主因である。その結果,55年度に現先を短資に入れて計算すると約27億ドルと流入超過を示した長期資本収支は,一転して149億ドルの大幅流出超過となった。これを,四半期毎の推移でみると流出超過幅は拡大傾向を辿っている。このような長期資本収支の大幅流出超過により,56年度の基礎収支は経常収支の改善にもかかわらず,90億ドルと前年度よりも赤字幅を拡大させた。