昭和56年
年次経済報告
日本経済の創造的活力を求めて
昭和56年8月14日
経済企画庁
第I部 第2次石油危機を乗り越える日本経済
第3章 財政金融政策の展開と課題
55年後半に顕在化した景気の「かげり」に対して,財政金融政策が機動的に展開されてきたが,これらと並んで2度にわたって打ち出された経済対策が「かげり」の深刻化を防止するのに大きく貢献したと考えられる。第2次石油危機に対する経済政策の対応を振り返ってみると,まず物価対策が早めに打ち出され,物価の安定に重点がおかれたことが特記される。54年2月,11月,55年3月の3次にわたり,総合的な物価対策が打ち出され,これに平行して財政金融面からの強力な引締め措置がとられた。そして,55年央以降の物価の安定基調の定着と景気の「かげり」の進行に伴って,55年9月と56年3月には「経済対策」が決定された。これらの経済対策の特徴として以下の点があげられよう。
第1に,経済対策は「機動的な金融政策」と「公共事業の執行」というマクロ的な政策を両軸として展開されたことである。これによって前節で述べたように公共事業の執行態度は抑制型から機動型に転換した。また,経済対策と相前後して公定歩合の引下げが行われた。
第2に,マクロ政策を補完するものとしてきめ細かい個別対策も考えられていることである。
今回の景気の「かげり」は全体としては緩やかであったが強い跛行性を伴っていたため,業種の分野によってはかなり打撃を受けたところもある。従って,ミクロ的な対策を講ずることにより,打撃を最小限にとどめる必要があった。中小企業対策と住宅建設の促進を2度の対策において共通に採り上げたのはこうした主旨を踏まえたものであった。特に,56年3月の対策では,中小企業について政府系中小企業金融3機関の設備資金貸出の優遇,住宅建設については,56年上半期中の公庫募集の促進といった具体的な措置が決定されている。
第3に,景気のかげり局面においても物価対策が引き続き経済対策の大きな柱として推進されたことである。これは物価の安定こそが持続的な経済の拡大を実現する最も重要な条件であるという認識の下に,金融政策等を機動的に運用することにより,消費者物価の安定が図られてきたが,その後の実質消費の回復は,そうした認識が正しかったことを証明している。