昭和56年
年次経済報告
日本経済の創造的活力を求めて
昭和56年8月14日
経済企画庁
第I部 第2次石油危機を乗り越える日本経済
第2章 景気のかげりとその実態
55年度の輸出(GNPベース,実質,16.9%増)は54年度(同12.8%増)に続きかなりの増加となり,民間設備投資の堅調さとともに,景気を支える役割をはたした。もっとも,その推移をみると,54年度後半から伸びを高め,55年度前半中も高率の伸びを維持したが,下半期になると,伸びはやや低下し,高水準を続けるという動きであった。
輸出数量は,54年4~6月期に転じた後,55年4~6月期まで,期を追って増勢を強めた。その後は増勢が鈍化したものの,56年1~3月期においても前年同期比12.8%増と,高水準を続けている( 第I-2-42図 )。
輸出数量の増加の動きをその要因別に分けてみると,次のような点が指摘できる。まず,54年度にあっては,①7~9月期以降輸出価格が円安を主因に輸出増加の方向に働き,②世界貿易(日本を除く)も欧米先進国の底固い景気上昇に支えられて輸出増加に寄与した。つまり54年度は価格要因,需要要因ともに輸出促進型に働いた。55年度には①価格要因は,それまでの円安の効果もあって,引続き輸出促進的に働いた。もっとも10~12月期以降はその効果は小さくなってきている。②これに対し,需要要因は,世界貿易が55年度に入ると,西欧諸国の不況を反映して停滞したことから,輸出抑制的に働いた。また,③55年度前半には国内需給が緩和し,輸出余力も生じたが,それによる輸出への指向の強まりは一部耐久消費財や生産財にみられた程度で,そう大きなものでなかった。
以上のような輸出環境のなかで,輸出が高水準を持続したのは次のような要因による。
それは,機械類を中心とした加工型産業の輸出が,高い伸びを続けたことである。商品別輸出数量の推移をみると,54年度以降,自動車,電気機械,一般機械といった加工型産業の製品が全体の伸びを上回って増加し,その後も好調を持統した。こうした中で,自動車はわが国の小型車の品質,省エネルギー面での商品特性が需要国側に認められたこともあって55年度としては大幅な増加となったが,下半期には対米貿易摩擦が強まったことなどもあって,高水準横ばい気味に推移した。加工型産業のこうした輸出の動きをこの間の素材型産業の輸出の動き,たとえば化学製品の減少傾向の持続,鉄鋼製品の横ばい気味の推移に比べると,加工型産業の製品の対照的な好調さがうかがえる( 第I-2-43図 )。加工型産業で輸出が好調を続けた背景の一つは,新しい技術革新を体化した設備投資の増加によって,商品の非価格競争力が一層強化したことである。先進主要国との間に,技術格差をもった商品が多くなった。たとえばVTR,NC工作機械,産業用ロボットなどがそれであり,他の国で供給できないか,あるいは品質面での非価格競争力の強いものの輸出が増えている。製品別の輸出数量と輸出価格(ドル建価格)の関係をみると,自動車や一般機械では,52~53年の円高局面に比べて,55年度は輸出数量の鈍化が軽徴である。これに対し,繊維では,円高では数量減,円安で数量増という関係がみられる( 第I-2-44図 )。
その二つは,機械類を中心とした加工型産業では,商品の加工度が高いことである。このことは,原油を中心とした海外一次産品価格が上昇する過程にあっても原材料・コスト上昇の影響が相対的に軽徴であり,国内におけるその他のコスト増要因が生じなければ,価格競争力もそれほど弱まらないということになる。54~55年においては賃金上昇率が緩やかであったから人件費コストの相対的に高い加工型産業においては,こうした環境も輸出競争力を強化させた。
こうしたなかでわが国の輸出を地域別にみるとほとんどの地域でOECD(除く日本)全体の各地域への輸出の伸びを上回った。なかでも中近東,オセアニア,アフリカなどの従来輸出ウェイトが小さかった地域ではOECD(除く日本)全体の伸びを5%以上上回る勢いをみせた( 第I-2-45表 )。
こうした動きの背景には①わが国企業の地道な輸出努力と②現地側におけるわが国商品の輸入需要の強さの両面が働いている。
ただし輸出が全体としてみれば堅調さを持続するなかで,規模別にみると中小企業製品が,55年1~3月期末まで,大企業性製品以上の大幅な伸びを示したものの,55年4~6月期以降になると,円レートが上昇したこともあって,大企業性製品の伸びを下回るようになった( 第I-2-46図 )。
中小企業性製品では,軽工業製品が約半分を占めている。地域別には,刄物,金属洋食器などの製品が,先進国向けに向けられてはいるものの,輸出品の6割は発展途上国向けである。また,通関輸出全体では,軽工業製品のウエイトは12.6%にすぎず,しかもそのうち,発展途上国向けは49.3%であるから,中小企業性製品の製品別,仕向地別の偏りがうかがわれる(いずれも55年計数)。しかも,こうした製品は,発展途上国とくに中進国との著しい競争下にあるから,急激な円高により競争力が低下すると,輸出の鈍化が生じる。こうした中小企業性製品の輪出鈍化の動きも,中小企業の景況感にかなり影響を与えたと思われる。