昭和52年
年次経済報告
安定成長への適応を進める日本経済
昭和52年8月9日
経済企画庁
第II部 均衡回復への道
第3章 国際収支黒字の背景と課題
今回の景気回復局面における輸入(数量)の伸びは,従来の局面に比べても緩やかなものにとどまった(50年1~3月期から52年1~3月期まで16.8%増加)が,その要因について,以下ではまず原材料輸入について分析し,次いで,資本財,食料品及び消費財の輸入についても検討する。
今回の景気回復局面における原材料輸入の伸びは,鉱工業生産の伸びよりも低かった。
鉱工業生産と輸入との関係は,輸入に占める原材料のウエイト(51年度は全体の62%)が高いことから,鉱工業生産の伸びと対応して増加する傾向が従来からみられたが,今回の局面では,これを下回っているのが特徴である。
一般に原材料輸入が鉱工業生産と対応するといっても,すべての業種が輸入原材料を使用するわけではない。いま輸入原材料を使用する業種の生産指数を作成し,これと鉱工業生産との関連をみると輸入原材料を使用する業種を使用する業種の生産は50年1~3月期から52年1~3月期まで13.7%の増加と鉱工業生産全体の伸び(22.2%増)に比べかなり低い伸びにとどまった( 第II-3-9表 )。
従って今回の回復局面では鉱工業生産全体の伸びに対する原材料輸入増加の弾性値は0.64であったが輸入原材料を使用する業種の生産の伸びに対する原材料輸入増加の弾性値はほぼ1である。しかし,従来の景気回復局面においてはこの弾性値がかなり高かった(40年代は1.5)ことに比べると。今回の局面では緩やかなものであるといえる。この点について原単位の向上による節約,在庫率水準及び輸入依存度の観点から分析するため,原材料輸入関連業種の生産に対する原材料輸入の比率を生産単位当たりの原材料使用率(原単位)と輸入原材料消費に対する原材料輸入比率(輸入原材料在庫投資率),原材料消費に対する輸入原材料消費の比率(原材料輸入比率)とに分けてそれぞれの動きをみてみよう( 第II-3-10図 )。
まず,原単位に関しては,エネルギー価格の高騰により,原単位の向上が図られているものの,未だその効果は目立って現われてきていない。次に原材料輸入比率もあまり変化はみられない。さらに輸入原材料在庫投資率は51年1~3月期に低下したあと7~9月期にかけて上昇したが,年末にかけては再び低下している。
こうした輸入原材料在庫投資率の動きとの関連で原材料輸入の動向をみると51年1~3月期は輸入原材料使用業種の生産の好調を背景に,輸入原材料消費は増加したもの,在庫率水準が高かったことから輸入はそれ程増加しなかった。その後,7~9月期にかけて原油や木材などを中心に輸入増がみられ,輸入原材料在庫率が再び上昇した。年末にかけては輸入原材料消費の伸びほど,輸入は増加しなかったため,輸入原材料在庫率の水準は年末にはかなり低い水準となった。しかし,52年に入ってからは対象業種の生産が緩やかなことから,輸入原材料の消費は緩慢であるのに対し,鉱物性燃料などは,原油値上げ前の駆け込み輸入もあって増加しており,輸入原材料在庫率は再び上昇している。これを,業種別にみると52年に入り非鉄を除く鉄鋼,石油,繊維においては生産の不振により輸入原材料在庫率が上昇してきており,全体として原材料輸入を増加させる力に乏しい。
以上のように51年から52年1~3月期における原材料輸入の緩やかな伸びの要因としては,第1に,輸入原材料を使用する業種の生産の伸びが緩やかであったこと,第2に輸入原材料在庫率の水準がやや高いことがあげられる。
次に製品輸入の動きについてみると,51年度の原材料輸入(数量)が前年度比8.5%にとどまったのに対し,加工製品輸入(数量)は同15.7%も増加した。51年度の製品輸入の構成をみると,資本財が63%,耐久消費財が17%,非耐久消費財が20%となっていることから,まず資本財輸入についてわが国の民間設備投資循環と対比させてみると,民間設備投資(実質)は50年10~12月期のボトムから52年1~3月期にかけて7.1%増加したのに対し,資本財輸入(数量)は50年末から51年末にかけて12.8%増と民間設備投資の伸びをやや上回っていたが,52年に入ると伸びは鈍化した。しかしながら,ならしてみた資本財輸入はこれまでの回復面に比べて高い伸びとなっている。これは,資本財輸入が国内の民間設備投資の循環の影響を強く受けているものの,それ以外の要因で48年以降高水準となっていたことが影響している。すなわち,
① 電子計算機(周辺装置など)など知識集約的商品の輸入が高水準にあったこと。
② 東南アジアの中進工業国から比較的加工度の低い製品の輸入が増加しつつあること。などによる( 第II-3-11図 )。51年度の資本財輸入の特徴をみると,民間設備投資不振から工作機械,原動機,発電機等が減少している一方,電動機,電子部品などの輸入が前述の東南アジア諸国から増加している。
次に,消費財及び食料品輸入についてみると,国内の個人消費支出の伸び悩みを反映して耐久消費財は51年度はほとんど増加しなかったのに対し,非耐久消費財は繊維製品を中心に大幅な増加を示し,また食料品もかなりの増加を示した。
それでは今後わが国をはじめ先進国の景気回復が進むなかで,原材料輸入需要が増大したとき一次産品価格の上昇を招くおそれはないであろうか。
一次産品価格の動きをみると1955~71年まで下落傾向にあったが,72,73年以降は上昇傾向にあり,長期トレンドは変化している。すなわち,一次産品価格の水準は今次不況において鉱工業生産の落ち込みに比べそれ程下落せず,75年以後OECD諸国の鉱工業生産が上向きに転ずると,これを敏感に反映し反転した。そして,76年にはOECDの鉱工業生産が,前年比9.1%と上昇したことから一次産品価格(エコノミスト指数,1970年=100,ドルの為替変動調整済)も同24.4%と大幅に上昇した。このように,従来に比べ,一次産品価格は原材料消費国の需要動向の変化に対して敏感に反応するようになっている。従って,OECDの鉱工業生産の68.4%(1970年)を占める,日本,アメリカ,西ドイツの同時的な景気拡大が,今後再びみられた場合に,原材料輸入需要の増加を通じて一次産品価格を上昇させる可能性が強いことを示すものである( 第II-3-12図 )。
次に,日本の原材料輸入数量について,一次産品価格との対応でみると,51年1~3月期から,4~6月期にかけて,原材料在庫の過剰感が弱まったことや一次産品価格の上昇が著しかったため先行きに対し価格上昇期待を生んだことなどから7~9月期に入って原材料輸入は増加した。しかし,52年年初来国内の原材料消費の停滞から在庫率が上昇し再び在庫過剰感が高まったことなどから,原材料輸入は,緩やかな伸びにとどまっている( 第II-3-13図 )。
48年秋の石油価格高騰のあと悪化したわが国の貿易収支(48年度の黒字幅8億ドル)は,50年度58億ドルの黒字のあと51年度には111億ドルの黒字と著しい改善を示したが,こうした貿易収支改善の背景には,わが国の景気循環による面がかなりある。
すなわち,国内が不況の時には輸出においては輸出圧力が強まり,増加する傾向にあるのに対し,輸入は好況時に比べて低水準にとどまることから,今回の景気回復局面においても輸出先行,輸入遅行という景気循環からくる要因がかなり働き,大幅な貿易黒字が生ずることとなったものである( 第II-3-14図 )。