昭和49年
年次経済報告
成長経済を超えて
昭和49年8月9日
経済企画庁
第1部 昭和48年度の日本経済
1. 供給制約下の景気変動
48年度経済の基本的な特徴は,すでにふれたように,経済拡大過程が供給力の限界に衝突し,その後の需要増は物価の急騰という形で吸収されたことである。
こうした供給力の限界が生じた背景については,第II部で分析を加えることとし,ここでは,48年度経済の実態に即して,供給力の制約の及ぼした影響をみよう。
いま,これを,鉄鋼,電力,エチレン,石油といつた基礎物資の供給制約によつて代表させ,これらの供給が制約されていなかつた場合の48年度経済の姿を考えてみる。経済企画庁「パイロットモデル」と「産業関連モデル」との連動に基づく試算によれば,供給制約のなかつた場合,48年度の実質GNPは9.8%増加することとなり,実績値5.4%を上回つている。また,卸売物価は13.9%(実績値22.6%),消費者物価は9.5%(同16.1%)の上昇率に抑えられたはずである( 第I-1-8図 )。
48年10-12月以降こうした供給制約の傾向が強まつたが,それは石油危機による石油・電力消費節減の影響が加わつたためである。いま,石油・電力の依存度が高い主要物資の生産に与えた影響度をみると,粗鋼,ソーダ,アルミ,セメントなどでとくに大きかつたことがわかる( 第I-1-9図 )。もつとも,こうした状況下で各産業が合理化によりかなりのエネルギー節減を行つており,それが,当初の予想を上回る供給を可能にしたことは注目される。
なお,このような日本経済の供給の伸びの低下は,輸出量の鈍化と輸入量の増大をもたらして,48年度における貿易収支の大幅な黒字縮小の一因となつた。しかし,こうした輸入増加は国内経済の供給力不足を解消させるだけの力はもたなかつた。先進諸国の景気上昇が重なつて,世界的な供給力不足を生じたからである。先進諸国の鉱工業生産の変動係数は,景気上昇の同時性という形で急速に低下している( 第I-1-10図 )。この結果,供給弾力性の低い一次産品や原油の世界的な需給ひつ迫が生じ,国際商品相場の急騰や石油危機に際しての原油価格高騰の経済的背景となつた。