昭和46年

年次経済報告

内外均衡達成への道

昭和46年7月30日

経済企画庁


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第2部 経済成長25年の成果と課題

第2章 世界のなかの日本経済

2. わが国貿易の国際的影響力

世界貿易の拡大を背景として,わが国の貿易が諸国中で最も高い伸びをつづけてきた結果,現在の輸出入規模は世界でも有数のものとなり,また近年の国際収支黒字が多額となつてきたために,日本経済の成長と対外活動の国際的な影響力は全体的に強まつてきた。

(1) 輸出大国のインパクト

(商品別,地域別シエアの動き)

まず,輸出についてみると,わが国の輸出は世界のほとんどすべての国を取引先としている。また商品別の特徴をみると,独占的な地位を有する商品はまだ少なく,商品ごとにOECD輸出総額に占める割合をみれば,シエアの低い商品が圧倒的に多い( 第84表 )。

一方,地域別にみると,わが国輸出の高い伸びを反映して,すべての地域で,わが国商品の輸入総額に占めるシエアは全般的に急速に高まつている( 第85表 )。とくに,東南アジア,アメリカ市場における比重が高い。

こうした日本の輸出の伸長は,相手国の需要者にとつてみると良質廉価な商品の供給という効果をもつているが,反面では急速な日本品のシエアの高まりが相手地域にさまざまなインパクトをあたえるようになつてきた。

(輸出増大と相手国への影響)

先進国市場に対する影響として大きいのは,近年のアメリカにみられるように相手国内の産業構造の転換を促進するか,あるいは産業構造調整上の摩擦から保護貿易主義の反発を生ずるという問題である。たとえば, 第86表 からみても,アメリカでは,国内出荷に比べて,輸入の伸びが高い産業がいくつかあり,これらではアメリカ産業の競争力が弱まつているようにうかがわれる。一方,アメリカは研究集約的商品については輸出市場でのシエアを高めており( 第87表 ),輸出競争のインパクトが国際分業の進展を促進する効果をもつていることがわかる。しかし,あまりにも短期間に集中して相手国でのシエアが増大する場合には,その国の産業構造の調整過程での摩擦を急激にし,保護貿易的な動きを誘う面をもつていることも看過してはならない。

わが国輸出の急速な高まりは,開発途上国にも影響をあたえている。開発途上国向けのわが国輸出が増大する一方,輸入に概して原材料に傾斜しているため,有力な原材料資源をもたない国では,わが国に対して片貿易的な国際収支悪化が生じがちである。こうした事情もあつて,東南アジア諸国の対日貿易収支は,最近若干の改善をみせているものの,なお大幅な赤字をつづけており( 第88表 )。外貨事情と彼我の輸出入のアンバランスから輸入制限への動きが生じがちとなつている。

(2) 輸入面での影響力

一方わが国は,高い経済成長を背景として輸入水準も高まり,世界貿易における需要者としての影響力も大きなものとなつてきた。

わが国の輸入増加の特徴は,天然資源の輸入割合が著しく高いことである。工業用素原材料や食料,飼料などの第一次産品需要の伸びは,先進国のなかでもわが国が最も高く,その輸入総額は世界第2位の規模に達している( 第89図 )。そして第一次産品中の主要鉱物資源である石油,鉄鉱石,石炭,銅(比金を含む)については,世界輸入全体のなかでわが国が最大のシエアを占めるにいたつている。

このようにわが国の資源輸入が鉱物資源を中心にきわめて巨大化していることは印象的であつて,国民総生産に対する主要原材料消費の比率は国際的にみても非常に高い( 第90図 )。こうした事実は,歴史的にみても天然資源を輸入し,これを加して輸出するパターンをとつて発展してきた日本経済の構造が,重化学工業化によつて著しく資源多消費型・資源加工輸出型となつていることを物語つている。それだけに,わが国経済の大規模化のなかで,いわゆる資源問題への関心も高まつている。

ところで,これらの資源輸入,第一次産品輸入は,開発途上国から供給される度合が強いが,とくにわが国の場合は他の先進国以上に開発途上国に大きく依存している。したがつて,わが国の輸入は輸出のための有力な資源を保有している国には外貨収入と輸入能力の増大をもたらし成長力の促進に貢献している。しかし,資源輸入が多いことは,輸入相手先をかたよらせがちであること,資源保有国の工業化要求と対立する場合があることなども否定できない。

今後は,資源輸入にかたよらず製品輸入の促進を通じて,開発途上国の成長を助けることが国際責務上ますます必要であり,わが国自身も物価安定のためにそれを必要としていることを認識すべきである。たとえば,わが国の輸入全体の1~2%の比重しかなくても,近隣諸国である韓国,タイ,インドネシアなど開発途上国にとつては,それらの総輸出の2割以上の比重をもつている( 第91表 )。つまり,わが国の輸入増加が近隣開発途上国の経済水準を引上げる効果は,きわめて大きいのである。

(3) 貿易構造の問題点

以上のように,輸出,輸入それぞれの面で,わが国の国際的影響力は大きくなつているが,これらを国際収支や貿易収支面のバランスで要約的にみた場合に,どのような特徴と問題があるだろうか。

わが国の国際収支構造は,貿易収支で黒字,資本収支その他で赤字というパターンをとり,貿易収支面であげた黒字を対外援助や海外投資にふりむけている。そして,近年貿易収支黒字が急速に拡大していることが,国際収支全体に大きな影響をあたえている。このような貿易収支の黒字増大は,輸入自由化の余地がまだ残つているばかりでなく,わが国の貿易パターンが所得弾性値の高い工業品を輸出する一方,経済成長に見合つた伸びにとどまる傾向のある資源を主とし輸入していることによる面が大きい。

こうした貿易格造のもとで工業品の輸入が少なく,貿易バランスが黒字になる傾向が生じている。工業生産に対する輸出入の比率の動きを国際比較でみても,わが国の輸出比率が上昇する一方,輸入比率が落着いていることが特徴的である( 第92図 )。また,工業品105品目の輸出超過の度含をみても,アメリカや西欧に比べ,わが国の工業品は著しく出超になつている品目が圧倒的に多い( 第93図 )。これには,①わが国工業の競争力が多くの商品において強いという意味で,一種の「成熟期工業品貿易」の発展段階にあること,②欧米より1人当たり所得水準が低く,高級消費財輸入が概して少なかつたことなど経済発展段階の違いによつて生じた面もあるが,③国際収支赤字克服の努力をつづけた時代が長かつたため,わが国の経済体制が全体として輸出促進・輸入節約的なパターンを残していることによる影響も大きいと考えられる。

しかし,これからの日本経済を考えると,労働力不足の進行や所得水準上昇のもとで,工業品貿易も水平分業型に変わつていくであろうし,また,それを促進していくような政策と制度の方向づけが必要な時期におかれている。

(4) 対外援助の評価

わが国は,前述のように輸入拡大を通じて開発途上国の発展に貢献しているが,資本面でも経済援助でかなりの実績をあげている。わが国の対外援助の国民総生産に対する比率は1970年に0.9%を超え,援助額では自由諸国中の第2位となつた。

開発途上国への資本援助についてはいろいろな形態があるが,わが国は,発展が進んできた国には民間の直接投資を中心に,また発展段階の低い国には社会的基盤整備のための政府借款を中心に,援助を行なつてきた( 第94図 )。

東南アジア地域の主要国におけるわが国の直接投資の比重をみると,概してアメリカには及ばないが,なかにはタイに対する直接投資のようにアメリカを上回つている例もある( 第95表 )。また,資本的援助は全体としてわが国からの資本財輸出と関連しているが,東南アジアの主な国について,資本形成とわが国からの機械輸出額とを比較してみると 第96表 の通りで,わが国が資本的援助と輸出による資本財機械の供給を通じて,各国の資本蓄積と経済発展に貢献していることが理解できよう。