昭和46年

年次経済報告

内外均衡達成への道

昭和46年7月30日

経済企画庁


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第2部 経済成長25年の成果と課題

第2章 世界のなかの日本経済

3. これからの国際経済政策

すでに,生産力で世界第3位にある日本経済は,輸出でも世界第3位,輸入で第5位に達上,貿易面での世界諸国に対する影響力も前述したように著しく増大している。そしてこの時期に,戦後四半世紀にわたつて世界経済の発展をささえてきた自由貿易体制は,保護貿易主義の高まりや国際通貨不安の発生,世界インフレの進行などから多難な局面におかれている。これらの問題に対して,最も重大な責務と役割をになつているのはアメリカである。しかし,わが国もこれまで重要な成果をおさめてきた輸出振興・外貨節約型の対外経済政策の体系を,新たな観点に立つて転換すべき時期におかれている。

現在の国際収支の黒字増大には,景気後退下の循環的不均衡要因も少なからず働いているけれども,そればかりでなく,やや長い目でみても輸出起過型の工業品貿易構造による影響も大きい。しかし,こうした貿易構造をそのまま将来に延長して,経済発展を望むことはできない。このままの輸出超過傾向がつづくならば,入超を強めている国との円滑な経済交流を維持することは,しだいに困難となる。たとえば,アメリカで保護貿易的動きがみられ,東南アジアでは大幅入超型の垂直分業関係がこのまま固定化することへの懸念が強まつている。世界貿易の立て前からすれば,各国間の貿易取引が個々に均衡する必要はなく,多国間の取引によつて均衡が維持されればよいのであるが,それにしても二国間貿易があまりにも片貿易に偏する場合には,自由貿易への摩擦も強まらざるをえない。また一般に,各国間で貿易収支の極端なアンバランスが目立つようになれば,短期的な資金の流出入も大きくなる場合があり,世界全体としてみた国際収支調整過程の進行をさまたげることにもなろう。

このような現状において,まず第1になさるべきことは,わが国が率先して世界の自由貿易体制を維持,促進するために最大の努力を尽くすことである。それには,わが国の産業構造上困難なものもあるが,残存輸入制限や非関税障壁の除去,関税引下げをいつそう促進しなければならない。残存輸入制限品目数はこの秋には西欧主要国なみに縮減するが,それに満足することなく,輸入自由化をさらに推進し,関税の積極的な引下げを進める必要がある。これらの輸入促進措置は,対外経済政策として必要なばかりでなく,国内面でも物価安定の機会をつくりだしていくために重要であることを銘記すべきである。

第2は,これまでの輸出優先の内外資源配分の体系を転換していくことである。公害を克服し,国内の福祉水準を引上げながら,輸出優遇にたよることなく適度な国際競争力を保持していくことに努めるべきである。輸出振興策は戦後25年の経済発展に大きな貢献をしてきた。しかし,過去においていかに必要とされていた制度であつても,内外均衡のための経済構造の大きな変革のなかでそのあり方が根本的に見直されなければならない。さらに対外経済政策の一環として,資本,為替取引面についても,攪乱的資金移動を防ぎつつ自由化をいつそう促進していくべきである。

第3に,わが国と開発途上国との国際協力をいつそう緊密にしていくことである。そのためには経済援助の量的な面の拡大と同時に,今後は技術協力の推進や援助条件の緩和など援助の質的向上がとくに重要であるが,あわせて貿易拡大を通ずる発展を促進していくことにもいつそうの考慮を払うべきであろう。それには,資源の安定的確保のための開発投資をふやすにとどまらず,わが国中小企業への影響を考慮しつつ,特恵関税の実施等により,わが国市場を開発途上国の製品輸出のために開放し,長期的観点に立つて国際分業の利益を高めていくことが必要である。

第4に,世界のインフレ基調が根強く残つている現状に照らし,国際収支黒字が国内通貨供給を通じて物価高を促進することのないよう,その歯止めを検討していく必要がある。その必要性は,今後資本自由化が進み,内外の資本移動がはげしくなればさらに高まつていくはずである。

これら政策課題の達成は,決して容易ではなく,その過程で産業構造調整上の諸種の摩擦や,制度改廃上の利害対立をともなう。しかし,戦後25年,すぐれた転換能力をもつて幾多の困難をのりこえてきた日本経済は,いままた世界経済の均衡的発展のために新しい努力を払わなければならない時期にある。

現在,最も基本的な課題は世界のなかの日本経済のあり方を正しく見定めながら,わが国の成長力を内外経済の均衡ある発展のために有効に活用していく方向で政策体系を確立し,これを積極的な実行に移していくことである。


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