昭和46年
年次経済報告
内外均衡達成への道
昭和46年7月30日
経済企画庁
第2部 経済成長25年の成果と課題
第1章 戦後25年,日本経済の到達点
経済成長はまた,雇用機会の増大と所得水準の上昇をもたらし,その過程で所得の平準化を促した。
就業者総数は,昭和22年から45年までの間に約1,700万人ふえて,55%もの大幅な増加率を示している。戦前と比べた増加率もほぼ同じである。
一方,45年の完全失業者数は59万人で,労働力人口総数に対する失業率も1.2%程度にすぎない。わが国の完全失業者の定義が他の国よりもきびしいという特性は考慮する必要があるにしても,おおよそ健康で働く意志のある人のほとんどがなんらかのかたちで就業している状態にあるといえよう。また,わが国の就業状況について他の国に比べて著しく特徴的なのは,平均年令が若い扶養率が低いことである( 第67表 )。それがまた戦後25年間の高度成長をささえた重要な要因ともなつた。
就業者総数は昭和30年代の後半から伸びが鈍化し,労働力不足傾向があらわれはじめる一方,就業構造は急速な変化をつづけている。就業者構成に占める第一次産業の比率は,昭和22年の54%から,35年に30%,45年に17%へと低下を示す一方,第二次および第三次産業は,22年のそれぞれ23%から,45年の35%および47%へと増加している( 第68図 )。このように第二次,第三次産業の就業者構成が高まることは,同時に雇用者がふえ,都市で生活する給与所得者が増加する傾向と表裏している。国民所得に占める雇用者所得の割合も22年の33%から,35年の50%,44年の55%へと増加している。
就業構造が,高所得部門へと移動レ高い経済成長が実現するなかで,1人当たりの国民所得も上昇し,近年の動きでは5年間にほとんど倍増している。物価上昇を調整した実質所得でみても年率6~7%の増加である。これは世界でも最も高い実質所得の伸びである。この所得上昇は全体として進むと同時に,それはかなりの所得平準化傾向をともなつている。 第69図 は,民間給与所得者の所得分布状態を画いだもので,45度線に接近するほど所得格差が縮まつていることを示しているが,このグラフからも,現在の所得分布が,戦前に比べても,10年前に比べても,著しく平準化しつつあることがわかる。このような所得平準化は,①ホワイトカラーよりブルーカラーの給与が高まつていること,②都市のサラリーマンに比べて農民所得や建設工事従業者の給与が高まつていること,③若年層の高令層に対する所得格差が縮まつていること,④戦前からの動きでみると公務員の方が低い伸びとなつていること,など職業別,年令別にも所得格差縮小をともなつているといえよう( 第70表 および後掲 第107図 )。こういつた諸種の動きをおりなしつつ,現代社会の中流階層意識をもつ人たちが増大しているのである。
経済成長は,雇用の増大と所得上昇という成果をもたらしているばかりでなく,労働時間の短縮をも可能とさせている。
非農業の労働時間は,過去10年間に月当たり15時間,週当たり3.7時間減少した( 第71表 )。そして生産性の高い大企業だけが労働時間を短縮させているのではなく,経営規模別にみた労働時間格差も縮小傾向を示している。
しかし,労働時間短縮が終業時間の繰上げや始業時間の繰下げにあてられている企業が多く,週休2日制を実施している企業はふえているものの,その割合はまだ少ない( 第72表 )。
以上のように経済成長の過程で,働らく人々の所得や余暇が増大しているが,職につきにくい老令者の家計にはいくつかの問題が残されている。
わが国の定年制年令は,平均寿命が長くなつているのに比べても若いが,定年後の再就職は必ずしも円滑でなく,再就職のさい給与水準が大幅に下がり,生活が不安定化するなどの問題がある。45年の調査によると,65才以上の男子でも約半数はなんらかの形で職についているが,とくに職のない老令者世帯では消費水準が著しく低い。そして貯蓄も老後生活をおくるには十分でない。
さらにわが国では定年制年令と老令年金支給開始年令との間に平均5~10年のギャップがあり,老令年金給付金が老人の生活に十分な所得保障の機能を果たしていない。また,今日のような物価上昇のもとでは,職から離れた老令世帯はとくに苦しいという悩みがある。