昭和45年
年次経済報告
日本経済の新しい次元
昭和45年7月17日
経済企画庁
第2部 日本経済の新しい次元
第2章 インフレなき繁栄
物価上昇過程では財政部門にも各種の影響があらわれる。
まず,物価上昇により各種の予算単価の引き上げが余儀なくされ,財政支出の実質給付水準は低下する。 第140図 は財政の支出項目に分けて単価の推移をみたものである。公務員給与は民間賃金・物価が毎年かなりの上昇をつづけていることもあつて,毎年大幅な引き上げを余儀なくされている。また社会保障充実の観点から生活扶助基準の引上げも大幅に行なわれた。年金(福祉年金,厚生年金)は,30年代後半の著しい物価上昇の結果,実質給付水準が低下しがちであつたが,40年代に入ると給付内容の改善のため大幅な引き上げが行なわれた。
第2に,物価上昇は財政の計画的運営を困難ならしめる。物価が大幅に上昇すると,政府が意図していたような資源配分効果の達成は困難となる。この面では公共投資がとくに影響を受けやすい。用地費を含めた政府投資は過去年率18.8%(35~43年度)で伸びてきたが,用地費を除いた政府固定資本形成では,18.0%に低下し,さらに実質値でみると,14.1%と大幅に低下する。また,地価の上昇は社会資本の適正配分を阻害している面がある。たとえば公共事業費(建設省所管)の45%は関東臨海,近畿臨海,東海の三地方に投下されているが(41年度),これらの地域では地価の上昇が著しく,多くの資金を用地費に向けざるを得ない状態である(用地費でみると上記三地方では全体の65%をしめる)。また,住宅,都市公園,街路などの事業は地価上昇や土地取得難の影響をうけやすいので,大都市における生活関連社会資本は政策努力の割には,充実が遅れることになる。
第3に,物価上昇によつて,いわゆる物価調整減税の必要性が生じてくる。特に,所得税の課税最低限は一定基準の生計費相当分を控除し,それ以下の所得者には税を課さないという限界を画するものであるから,消費者物価の上昇に応じて,これを見直していかないと実質的な負担が増大する結果となる。事実,所得税負担の累増を緩和するためほとんど毎年のように減税が行なわれてきたが,そのかなりの部分は,この意味での物価調整減税に相当する分であつた( 第141図 )。