昭和44年

年次経済報告

豊かさへの挑戦

昭和44年7月15日

経済企画庁


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第2部 新段階の日本経済

4. 新らしい経済政策の方向

(3) 成長と国民生活のための産業構造

わが国の産業構造は,戦後,とりわけ昭和30年代の本格的な資本形成と家庭電気製品を中心にした耐久消費財の普及を背景にして,重化学工業化の道を歩んできた。今日,わが国の重化学工業化率は67%(41~43年平均)と欧米先進国(英61%,西独59%,米58%)を上回るに至り,輸出のなかに占める割合も68%(43年度)となって,経済成長と輸出拡大に寄与してきた。

しかしながら,重化学工業化の政策がとられたのは,需要の所得弾力性が高いとか付加価値生産性の上昇率が高いとかいつた重化学工業のもつている特徴に注目したものであつて,もともと重化学工業化それ自体が目標であったわけではない。今後の産業構造政策を考えるに当つては,こうした本来の意義にたち返るとともに,これまでのべてきたような成長経済にともなう苦悩ともいうべきアンバランスを解消し,真に豊かな生活のための産業構造への移行を考える必要があろう。結論的にいえば,今後の産業構造としてはより技術集約化(研究開発集約化),情報集約化された高度加工産業の発展が要請されている。それはなぜか。

第1に,所得水準の向上にともなつて生活機能の多様化,高度化が進んでいるからである。さらに,生活自体も単に個人的な消費を中心としたものから,社会的な関連をもつものに重点が移行し,その結果産業も統合的な社会のシステムのなかで相互に密接なかかわり合いをもちつつ発展するようになつてきている。こうした変化は当然商品としては加工度の高いものを要求することになる。人間の生活機能は大別して①食生活,②衣生活,③住生活,④保健,衛生,⑤知識,情操,余暇等の五つに分けられるが,これらの機能にしたがつて現在の生産活動を分類したのが 第230表 である。これによると,食衣注などの生活機能のためにおおむね62~64%,その他の機能のために27~28%(残りは一般公務のため)という割合で産業活動が行なわれてきている。その内容は時間的に変化していて,生活機能のなかでは衣食の比重が減り,代わつて住生活関連ならびに保健関係,情報関係の比重が高まつてきている。その他の機能のなかでは経済圏,生活圏の広がりを反映して流通関係の比重が高まつている。また,同一の生活機能のなかでも高度化がみられ,たとえば,各機能内の生産物の割合をみると同じ食生活関連のなかでも直接的な農水産物や食料品の割合が減少し,食品加工機械などの割合が増加している。衣生活では天然繊維から人造繊維へ,住生活では木材から鉄鋼やセメントに比重が移つている。保健衛生や教育や情操などの点においても同じような高度化がみられる。こうした生活面からみた需要の変化は,総じて高度加工産業化を意味しているといえよう( 第231表 )。

さきにのべた経済的アンバランスの解消と関連して,たとえば中小企業でみられる独自の専門品種の確立という新しい芽はまさにこの方向にかなつたものということができる。

第2は,生活水準の向上は直接的な生活財の高度化だけでなく,生活環境の改善を強く要求しているからである。たとえば,都市の高密度化は,個人の住生活を単に個々の住宅問題としてだけではなく,広く総合的な都市計画にもとづく環境整備の一環として捉える必要が生じており,そのことは高度に加工化された都市計画関連産業の発達を要請している。さらに急速な人口や産業の都市集中,あるいはエネルギーの転換などによつて公害の発生が問題になつてきているが,わが国のように国土が狭小であるところでは,公害発生産業の経済性はかなり低下している。公害発生の可能性のある既存の産業に必要な防除策をとるだけでなく,これからの産業構造を考えるに際して公害の発生をみないような産業の育成を十分考慮すべきであろう。同様に,今後わが国はますます高密度化された経済社会となり,また土地価格の相対的上昇もつづくと思われるので,面積単位当たりの付加価値額の高い産業が有利となるが,以上のようなことから高度加工産業化が要請される。

第3は,国際化の進展からの要請である。さきに分析したように,わが国は大企業にくらべ中小企業の生産性が低く,また素材部門にくらべ加工部門の生産性が低い。今後貿易や資本の自由化によつて国際分業体制を進展させていく過程で,これら中小企業などの低生産性部門をより高加工化していかなければならない。また大企業の製品についてもより技術集約的な製品が世界質易の伸びに適合していることはいうまでもない。

こうして,これからの産業構造は成長と生活の変化に対応しつつ高度加工産業化の方向に進まなければならないが,それを促進する条件も出てきている。

その一つは,技術革新の普及と新らたな展開である。高度加工産業は,その性格上技術の総合化,集約化を必要とするが,すでにみたように技術の各分野への波及は総合化の基盤を作つているものといえよう。いま一つは,情報化社会のひろがりであつて,高度加工産業化のもとで多様化する需要動向や複雑化する生産工程に対応して情報の役割りは増大するが,最近のいちじるしい情報処理技術の発達は高度加工産業化を促進するであろう。

以上のべたような技術(研究開発)集約的,情報集約的な高度加工産業化は現に進行しつつある。第232表は,業種別に中間投入比率,付加価値率をみたものであるが,加工産業での原材料の投入割合が減少し,付加価値率が高まりをみせていることがわかる。こうして高度加工産業化は,高付加価値部門の増大を通じて,いつそう成長の原動力となると同時に,真に豊かな生活を実現する源泉になるであろう。


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