昭和44年

年次経済報告

豊かさへの挑戦

昭和44年7月15日

経済企画庁


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第2部 新段階の日本経済

4. 新らしい経済政策の方向

(4) 国際的交流の拡大

わが国の国際化が欧米先進国にくらべてやや遅れて出発したことは,これまでのわが国経済の成長過程でやむを得ない面があつた。しかし,わが国経済の規模の拡大,国際的地位の向上にともなつて,海外から対外取引の自由化や経済協力のいつそうの推進を強く要請されるようになつている。他方,わが国経済としても,世界貿易に占める輸出のシェアが高まつている今日,国際交流の拡大は今後の発展にとつて不可欠であり,またそれは経済の効率化を進めるためにも必要な条件である。

1) 貿易の自由化

わが国の自由化体制の第1歩は,昭和35年6月の「貿易為替自由化計画大網」によつてはじまつた。

この計画に従つて貿易自由化は漸次進められ,37年には従来の自由化品目を公表するポジティブリスト方式から,非自由化品目を公表するネガティブリスト方式に切換えられた。そして38年ガット11条国移行,39年IMF8条国移行,OECD加盟などいつそう国際化が進められ,43年末の自由化率は93%強となつた。

しかし,自由化義務を免除される武器,麻薬,米,麦,たばこなど国家貿易品目など43品目を除いても120品目(農水産物68品目,工業製品44品目,鉱産物8品目)の残存輸入制限品目がある。この残存輸入制限品目数は主要先進国のなかで最も多い( 第233表 )。

こうした残存輸入制限は,国内産業保護の立場から行なわれているものであるが,このうち牛肉など食料品の輸入制限品目の価格上昇は,食料品全体の上昇より大きくなつており( 第234表 ),輸入制限の緩和が物価安定などに役立つものについてはその方向で配慮される必要があろう。

もちろん,現在のわが国の残存輸入制限品目はいずれも経済的,社会的にすくなからぬ影響をもつものである。しかし貿易面における自由化をいつそう促進していくことがひいてはわが国経済の体質強化にも役立つという立場からできるだけ早く自由化していくことが必要であろう。それは,近年高まつてきている保護主義的な動きを防止することにも役立とう。

これと同時に欧米諸国などがわが国の輸出品に対し適用している差別的輸入制限や輸出自主規制など各種の貿易制限的措置についても留意し,貿易上の障害を解消していくよう努める必要がある。

2) 資本の自由化

国際的交流の広がりのなかでも,資本の自由化は,今後の日本経済が真剣に取り組まなければならない大きな課題である。この課題についてすでにわが国は42年7月,国際経済社会への協力とわが国経済の長期的発展に資するという立場から自主的に取り組み,46年度末までにかなりの分野で自由化を実施することを目標とした。そして現在まで第1次(42年7月),第2次(44年3月)自由化を通じて204業種が自由化対象業種となり,製造業における自由化業種の比重を概算してみると4割をやや上回る程度になつている。

さらに,この問題を審議している外資審議会は,第2次自由化の答申に当つて,第3次自由化に際してはこれまで以上に積極的,前向きに自由化に踏み切るよう政府に要望している。資本の自由化は貿易自由化とちがつて,国際競争の内容が「商品」間の競争から「企業」間の競争へと変化することを意味する。わが国は世界有数の成長性に富む市場である。それだけに,国内企業,外資系企業を問わず,きびしい競争裡におかれるであろう。

したがつて,今後は国内産業体制の整備,技術開発力の強化等によつてわが国企業の国際競争力の強化育成をはかり,また外資による攪乱の防止をはかるなど,適正な競争環境を整備することを通じて自由化のメリットをわが国経済の発展と効率化に結びつけていかなければならない。

第235表 わが国の製造業における自由化業種の比重

第236表 主要先進諸国の経済援助

3) 経済協力

わが国の開発途上国に対する援助額は,最近5年間急速に増大して,43年では1,049百万ドルとなり,アメリカ,フランス,西ドイツについで世界のビッグフォアの仲間入りをした。また,国民総生産に占める比率も0.74%となり,ほぼ先進国平均に達している。高い経済成長のなかで年々この比率が上昇してきていることは,わが国の経済協力に対する努力のあらわれといえよう( 第236表 )。

この間,開発途上国からの援助要請は,国連貿易開発会議などを中心にいちだんと高まり,1968年の第2回総会では,開発途上国の強い要望により,「先進国は国民総生産の1%を開発途上国への経済援助にふりむけることに努力する」という決議が採択された。また,国際連合でも70年にはじまる「第2次国連開発の10年」において国際的な開発戦略と南北問題解決のための長期目標を定めることとしている。

こうした問題の背景の一つには,開発途上国の貿易収支が近年悪化しているという事情もある。 第237表 にみるように,石油産出国を除く開発途上国の貿易収支は,1966,67年平均で約71億ドルの赤字を記録し,なかでも東南アジアの赤字は大きい。このことが,開発途上国が貿易関係の改善と援助の増大をいつそう強く求める要因の一つともなつている。今後,開発途上国の自助努力を前提とした上で,それに応じて開発途上国の経済発展を援助し,促進していくことがこれからの世界経済の大きな課題である。

開発途上国に対する経済援助は,トレードギヤップ(貿易外収支を含む),貯蓄投資ギヤップ,技術不足の補填といつた役割をもつものであり,また,援助国と被援助国との歴史的,地理的なつながりや政治的配慮など各種の要因があり,その多寡について一面的な判断をしてはならないが,いまかりに貿易面の結びつきという観点からみると,わが国の援助額と開発途上国からの輸入の合計は,関発途上国への輸出とほぼ見合つているが,このうち東南アジアとの関係では,必ずしもバランスした状態ではない(前掲 第236表 )。

今後,わが国の輸出規模の増大とともに開発途上国からの貿易面や援助面での要請は強まろう。また,援助条件(政府ベース)についても43年には援助額とならんで大きく改善したが,さらに条件の緩和が期待されている。わが国の経済協力の向上,国際的評価の高まりに対応して,今後,経済協力の充実をはかつていく必要が増大しよう。

また,経済協力の拡大を通じて開発途上国の資源を有効に開発し,技術水準を高め,その経済発展の促進をはかることは,同時に長期的には,世界貿易の拡大を通して,わが国の経済成長に役立つものである。したがつて,今後,資源開発,技術協力,民間経済協力の各側面において積極的な推進をはかるとともに,とくに,わが国と,歴史的,地理的,経済的に密接な関係のある東南アジアに対しては,重点的な経済協力を行なう必要があろう。

なお,わが国は42年11月,開発途上国の製品,半成品に対して特恵を供与する方針を決定した。今後,特恵の実施は,わが国の中小企業にかなりの影響を与えていくことが予想されるが,それが一方で開発途上国の発展を扶け,他方でわが国の中小企業を近代化し,経済の効率を高めるうえに必要な道程であることも認識する必要がある。

わが国の国際的地位は向上し,国際収支の天井は高まつた。反面,労働力の不足,土地資源の制約が目立ちはじめ,経済効率化の遅れ,物価の上昇など新しいアンバランスも生じてきた。こうした日本経済の条件変化は,国際化に対する姿勢についても新しい適応をもとめている。また,今後,自由化の進展,経済協力の推進など国際的交流の拡大にあたり,わが国は次第に自主的な役割を果さなければならない立場におかれよう。それはアジア地域をはじめとした開発途上国の発展,世界経済の拡大,そしてまた自らの体質改善を通じて明日の経済の発展に資する道につながるものである。


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